ゴルフ史最大級40億円被害の真相(3) 難病ALSとも闘い判決を聞くことなく逝った“不屈の人”の無念【小川朗 ゴルフ現場主義!】

1000人以上が総額40億円にも上る被害を受けたゴルフ界を激震させた「ゴルフスタジアム事件」。発覚から7年にわたり取材を続けてきたゴルフジャーナリストの小川朗氏が、最終局面を迎えた事件の全貌をリポートします。1000人を超える被害者の中には、すでに亡くなった方もおり、被害者を守る会精神的支柱のような存在だった阿部進さんもその一人です。

阿部進さんは10年以上GS社と付き合いのある“お得意様”だった

 2017年春に発覚した「ゴルフスタジアム事件」。7年目を迎え、集団訴訟も最終局面に入りました。1000人を超える被害者の中には、すでに亡くなった方も少なくありません。被害者を守る会の中でも精神的支柱のような存在だった元ゴルフスクール経営者の阿部進さんもまた、事件発覚から3年余りの20年7月4日、判決を聞くことのないまま50歳の若さで天へと召されました。最後の最後までファイティングポーズを崩さなかった阿部さんが心配していたのは、愛娘・文香(あやか)さんのことでした。

債権者集会に参加した阿部進さん(前列左から2人目) 写真:清流舎
債権者集会に参加した阿部進さん(前列左から2人目) 写真:清流舎

 ゴルフスクール「エバゴルフアカデミー」の元代表・阿部さんがさいたま市大宮区の自宅で、長時間のインタビューに答えてくれたのは19年の4月19日。ALS(筋委縮性側索硬化症)との闘病生活とゴルフスタジアム(GS)との法廷闘争が3年目に入ろうとするタイミングでした。

 阿部さんが突然激しい疲労感を覚えるようになったのは、16年の春ごろ。整形外科を何軒も回って検査を受けるも、原因が分かりません。

「最初は体がだるくてどうしようもない。それからどんどん動けなくなりました」(阿部さん)

 1年になろうとする頃、ついにその原因がALSだと判明します。ALSは、手足、のど、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく難病です。1年間で新たにこの病気にかかる人は10万人あたり約1~2.5人といわれていました。

 折悪しく、同じタイミングでゴルフスタジアム事件が発覚し、阿部さんも被害者の一人になってしまいました。被害者の会が結成され、法廷闘争へと突入していく中、阿部さんは病魔とも闘うことになりました。

 1000人を超える被害者の中でも、阿部さんはレアケースといえる形でこの事件に巻き込まれました。短期間のセールストークでだまされた被害者が多い中、阿部さんは10年以上GS社と付き合いのある、いわば「お得意様中のお得意様」だったのです。

 中学からゴルフを始め、埼玉栄高、日体大と進みツアープロを目指した阿部さん。全日空オープンはマンデーから本戦へ。03年の日本オープン(栃木県・日光CC)は予選から出場し、決勝ラウンドにも進出しています。

 しかし、「参戦経費で借金が600万円までふくらみ」、結局このシーズンでツアープロの道を断念。04年にレッスンプロに転向しました。

 06年に会社組織にしてラウンドしながらレッスンするスタイルを採用。2年目には顧客が1000人を超えます。「365日のうち、360日働いていました」。そんな苦労が実を結び、仕事を安定軌道に乗せました。「10年間は毎年、5000万(円)以上の売り上げがありましたね」。

自宅でインタビューに応じてくれた阿部進さん 写真:清流舎
自宅でインタビューに応じてくれた阿部進さん 写真:清流舎

 GSとの付き合いも、そんななかで10年近く続いていました。

「初めのモーションアナライザー(GS社が販売していたスイング解析システム)とホームページは、レッスンにも活用していました。当時はスマホとかタブレットがない時代。自分のスイングをすぐに再生して見られるシステムはそんなになかったんです。お客さんはホームページ上で、今日のレッスンの動画を見ることができましたから、満足度は大きかったと思います。ウチはホームページも週2、3回頻繁に更新していましたから、『GSさんに手間をかけているな』と、申し訳ない気持ちもありました」

 そんな気兼ねが、阿部さんの判断力を鈍らせます。

「『お客さんが見られるのがいいな』という私の判断で、モーションアナライザー(1台250万円)を2台買って、ホームページの料金という形でローンを組みました。返済額は300万円程度でした。GSにとっては、いいお客だったと思います。それ(返済)が済んで『新たなローンを組んでくれ』と(事件発覚の2年位前からGSが)言い始めたんです。10年近くトラブルなく来ていたし、『いろいろとやってくれたんで、今回は(ホームページ制作費を実質)無料とさせていただきます』という話だったので契約してしまいました。800万円と聞いた時にはちょっとためらいましたが、長年付き合ってきた仲だけに、まさかこんなことになるとは思いませんでした」

 こうして結果的にこの悪質商法の被害に遭うことになりました。ローンと相殺されるはずの広告掲載費は振り込まれなくなり、阿部さんは約800万円の負債を背負い込むことになってしまいました。

 並行して、ALSが進行していきます。そんななか、阿部さんはこの難病を広く知ってもらおうと、自らチャリティーコンペを開催します。その活動は新聞などでも取り上げられ、寄付金も約100万円集まり、治療や患者のために役立てられました。

 しかし、ALSは徐々に阿部さんの体を蝕んでいきます。杖の助けがあれば歩けていた日々から、車いす生活に。その後、介護度は3まで進み、「トイレに行くにも助けがいる生活になってしまいました。外に出るとトイレのことで頭がいっぱいになる」状況となり「(被害者を守る会の)みんなに協力できなくて、ホント申し訳なく思っています」と語っていました。

GS・堀新社長に対して直接、経営者としての責任を追及

【写真】メガバンク系など信販・リース会社への抗議活動を行う「ゴルフスタジアム事件」被害者たち

画像ギャラリー

「ゴルフスタジアム被害者の会」の第1回総会で団結を呼びかけた弁護団の西村國彦代表(2017年4月30日、都内で) 写真:清流舎
2020年12月10日、ジャックス本社の前で抗議行動を起こした被害者の会の面々 写真:清流舎
2022年1月12日、寒い朝だったが、被害者の面々は東京・大手町の三菱UFJ銀行本店前で抗議デモを行った 写真:清流舎
2019年1月18日、みずほフィナンシャルグループに嘆願書を提出した被害者の会 写真:清流舎
被害者の会の“ラストサムライ”上松和彦さん(高知・松和ゴルフ工房)。2023年10月12日、東京地裁にて 写真:清流舎
設計コンセプトの集大成ともいえる、PGMマリアGLの17番ホールの浮島グリーン 写真:ゴルフ場提供
両サイドにいくつものマウンドが連なるPGMマリアGLの9番ホール 写真:ゴルフ場提供
日本庭園を思わせるPGMマリアGLの18番ホールの白砂バンカー 写真:ゴルフ場提供
新・西山荘CC17番ホールの浮島グリーン。スリリングな興奮を味わおう 写真:ゴルフ場提供
超ロングバンカーが強烈な存在感を示す新・西山荘CCの6番ホール 写真:ゴルフ場提供
常連のプレーヤーが「火星のよう」と表現する新・西山荘CC13番ホール。難易度も他の星レベル!? 写真:ゴルフ場提供
ピートダイGCロイヤルC8番の浮島グリーン。コースは、ピート・ダイの設計理念がギュッと凝縮された造りになっている 写真:ゴルフ場提供
距離感を合わせるのが難しいピートダイGCロイヤルCの12番ホール。アゲンストの風も難易度を上げる 写真:ゴルフ場提供
“恐怖の浮島グリーン”の本家本元、TPCソーグラス17番 写真:Getty Images
“恐怖の浮島グリーン”の本家本元、TPCソーグラス17番 写真:Getty Images
“恐怖の浮島グリーン”の本家本元、TPCソーグラス17番 写真:Getty Images
鳴尾ゴルフ倶楽部の名物「鳴尾丼」は牛肉を玉子でとじた、いわゆる他人丼
鳴尾ゴルフ倶楽部のシンプルな洋朝食
大阪ゴルフクラブの名物「牛ばら肉のカレーうどん」
間違ってもこんなに食べてはいけません!(写真はイメージです)
債権者集会に参加した阿部進さん(前列左から2人目) 写真:清流舎
自宅でインタビューに応じてくれた阿部進さん 写真:清流舎
「Never Give Up」。壁に掛けられたその言葉は、阿部進さんの生き方そのものでした 写真:清流舎
阿部進さんはさいたま市内の墓地に眠る 写真:清流舎
写真は相生水上ゴルフセンター。打席の前にため池が広がる景色は壮観! ぜひ一度足を運びたい場所です
新・西山荘CC17番ホールの浮島グリーン。スリリングな興奮を味わおう 写真:ゴルフ場提供
名匠ピート・ダイの設計コンセプトの集大成ともいえる、PGMマリアGLの17番ホールの浮島グリーン 写真:ゴルフ場提供
ピートダイGCロイヤルC8番の浮島グリーン。コースは、ピート・ダイの設計理念がギュッと凝縮された造りになっている 写真:ゴルフ場提供
1 2

最新記事