自治体から9500万円で買い戻したゴルフ場を即日4億円でソーラー事業者に転売　宮城の小さな町襲う異常事態の現場へ／シリーズ『ゴルフ場減少時代』

　ゴルフ場の減少が止まりません。2001年に2460コースあったゴルフ場は、23年のデータでは2123にまで減っています（一般社団法人 日本ゴルフ場経営者協会調べ）。廃業したゴルフ場の多くは太陽光発電所へと形を変えていますが、ここに来て全国のあちこちで大きな問題が起きています。その最も顕著な例を、宮城で追いました。

　7月9日朝。宮城県内は夜来の雨がそのまま残っていました。

　この日、東北最大のブロック紙・河北新報の社会面トップには「町長『太陽光建設に反対』　法的措置準備」の見出しが躍っていました。読売新聞宮城県版も地域面のトップは同じニュースを報じています。「『太陽光目的』4倍で転売　加美のゴルフ場　町から買い戻した当日」と4段ぶち抜きの大見出しが目に飛び込んできました。

　ゴルフ場がメガソーラーへと転用されるケースは珍しくありません。にもかかわらず、これほど大きく取り上げられたのは、ゴルフ場売却に至る流れが他に例を見ない、異常なものであったからです。

　問題のゴルフ場は宮城県加美町にある「やくらいサイズゴルフ倶楽部」。公共投資と潤沢な民間投資を活用し、国民の余暇需要に応じることを目的として1987年に成立した＜総合保養地域整備法＞、いわゆる＜リゾート法＞の申し子のような存在でもあります。

「栗駒・船形リフレッシュリゾート－オアシス21構想」の重点整備地区として、積水化学工業（大阪市）が事業母体となって整備された「やくらいリゾート」の第1期施設として95年にオープン。古くから「加美富士」と呼ばれ、霊峰として信仰を集めてきた薬莱（やくらい）山の麓に抱かれたゴルフ場は、瀟洒なクラブハウスとホテルを備えた高原リゾートコースとして人気を博しました。

　しかし、2008年に積水化学工業が事業から撤退すると、「ダヴィンチ・リアルティ」に事業を譲渡したあたりから、風向きが変わっていきます。2010年にダヴィンチ・リアルティが撤退し「やくらいゴルフ倶楽部」に経営を移管し、積水化学工業時代から運営会社として関わっていたチームトレインが運営します。

　2013年、同コースの経営不振を理由に土地の買い取りを打診された加美町は、同年10月に9500万円で買い取りを実施します。契約の際には経営が改善してゴルフ場を買い戻す場合は売買価格とする覚書付きの契約を締結していました。

　2017年に「やくらいゴルフ倶楽部」と「チームトレイン」が合併。その後「やくらいゴルフ倶楽部」は解散し、「チームトレイン」が経営を引き継ぎました。2019年になると、「チームトレイン」は土地の一部を同額で買い戻したいと言い出しました。町役場関係者によれば「資金を調達するために、担保として土地と建物が必要だ」と説明していたそうです。

　21年4月23日に町は「チームトレイン」と売買契約を締結します。ところが、同じ日に「チームトレイン」は太陽光事業を行う「カナディアン・ソーラー」の子会社である「ティーダ・パワー110合同会社」（東京）と、土地・建物を4億円で売却する契約を結んだのです。

　ゴルフ場を続ける意向を伝えておきながら、9500万円で買い戻した土地をその日のうちに約4倍の価格で太陽光発電の会社に転売。これを知った町がチームトレインの社長に説明を求めると、「ゴルフ場は閉鎖せず、売却もしない」と答えていました。

　ところが23年の11月、チームトレインの関係者が町を訪れ「ゴルフ場の収益改善が見込めない」として「24年いっぱいでゴルフ場を閉鎖し、太陽光発電所を建設する」と明言。大騒動へと発展したというのがこれまでの流れです。