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- “聴覚障がい者の五輪”東京デフリンピックが15日開幕! “ゴルフ歴4年”で代表になった女子選手の秘めた思いとは?
11月15~26日、「第25回夏季デフリンピック大会東京2025(略称:東京2025デフリンピック)」が開催される。ゴルフ競技日本代表として大会に臨む中島梨栄選手に話を聞いた。
フットサルでデフリンピック、デフW杯に出場
もうすぐ東京にデフリンピックがやって来る。
11月15~26日、「第25回夏季デフリンピック大会東京2025(略称:東京2025デフリンピック)」が開催される。
デフ(Daef)とは英語で「耳が聞こえない、ないし聞こえにくい」ことを意味しており、聴覚障がいを持つアスリートを「デフアスリート」と呼んでいる。そうしたデフアスリートの国際的なスポーツ大会がデフリンピックだ。4年に1度、ICSD(International Committee of Sports for the Deaf・国際ろう者スポーツ委員会)が主催している。
第1回大会がパリで開催されたのは1925年のことだった。今年はそれからちょうど100周年。記念すべき年に、日本で初めて開かれることになった。
21種類のカテゴリーの競技が争われるが、今回、これまで公開競技だったゴルフが正式種目に加えられた。会場は江東区の若洲ゴルフリンクス、競技日程は18~21日である。日本からは男子3名、女子2名、計5名の代表選手が出場する。

※ ※ ※
「パシューン」
10月某日朝9時。耳をつんざく快音が小さな雑居ビルのなかに響いていた。
都内某所にある屋内ゴルフ練習場。一打、一打、しっかりとモニターでたしかめる女性ゴルファーの姿があった。東京2025デフリンピックの女子ゴルフ日本代表、中島梨栄選手(41歳)だ。練習場のブースでは、気持ちの良い打音がつづいていたが、その音は中島選手には聞こえていない。
中島選手は生まれつきのデフである。補聴器をつけても話し声はきこえない、重度の聴覚障がい者である。ふだんは手話や文字起こしのアプリをつかってコミュニケーションをとっている。
見るからにアスリートという雰囲気の立ち姿の中島選手だが、まだゴルフを始めて4年半ほどだという。あっという間に日本代表にのぼりつめたという印象を覚えそうだが、実は、中島選手は長年デフフットサルの日本代表として15年のキャリアの持ち主なのである。だから、はじめはゴルフは趣味だった。
「夫が趣味でゴルフを始めて2、3カ月目でしょうか。それをきっかけに私もゴルフに興味を持ったんです。もともとスポーツ好きだし負けず嫌いなものだから始めてみたらハマってしまって」
以来、練習にも熱が入った中島選手。フットサルで鍛えた体幹や集中力もきっと奏功したのだろう。ゴルフを始めて2年ほどたったところで、「私、うまいかも、って思って(笑)。フットサルで鍛えた足腰はあるので、これは生かせてるな、と思いつつ」。

笑顔いっぱいで話してくれる中島選手。もちろん手話通訳を介した会話である。通訳の方の技術も卓越しているのだが、中島選手本人の圧倒的に開放的で積極的な雰囲気が、手話のできない私との会話をスムーズで朗らかにしてくれているのはまぎれもない事実である。
アスリートの本能ないし肌感覚なのだろう。「これはいける」という感覚をつかんだ中島選手は、それから練習を本格化した。週に4、5回の練習を積むようになり、デフも健聴者も参加できる大会にも出場するようになった。
「1日800球くらい打って手に血がにじんだりして。そのくらいの練習を週に3度はしてきました。だんだん不得意なところも明確になってきて、練習内容もどんどん具体的になっていきました。100ヤード以内のアプローチを重点的にやったり、戦略的に練習していました」という努力の結果、ベストスコア77の腕前にまで上達する。
聞いていると、ちょっと「ど根性」なんて思いかけてしまうが、中島選手には悲壮感は感じられない。むしろ徹底して明るい。ストイックに練習を重ねているけれど、そばにあるゴルフバッグを見ると、ビールのジョッキが散りばめられたご機嫌な柄、といったぐあいにバランスが絶妙なのである。

「週に1、2ラウンドして、その日以外はインドア練習場で苦手なロング、ミドルアイアンの練習をしています。この夏は猛暑でもよくラウンドしていました。8月はほぼ鹿児島(本人の実家)にいましたが、暑い鹿児島でも旦那と打ちっぱなしに行ったり父とラウンドしたりしていました。あ、あとパターも苦手です(笑)」と肩をすくめる、という塩梅なのである。
つまり、ちゃんとゴルフを楽しむ、されど、手を抜かない、というのが中島選手のスタイルなのだ。それがまた、しっかりと結果につながる。ゴルフをはじめて3年あまり、2024年「日本デフゴルフ選手権」一般女子で準優勝した。さらに今年の同大会では優勝し、デフリンピックの日本代表にも選出されたのである。
「フットサルの国際大会は10回ほど出たのでわかるのですが、世界中の、トップのデフゴルファーが集まってプレーする大会なんて、ちょっとイメージできなくて。フットサルはチームで仲間がいますが、今度は基本的に個人競技。今から楽しみでドキドキしています」
「デフゴルファーを増やすきっかけになれば」
それにしても、4年半で日本代表の座をつかんだという事実には驚きを禁じえない。もともとアスリートとして鍛えていた素地があったとはいえ、こんなにも急速な上達は想像をはるかに超える。そもそも一般的に、聞こえるゴルファーからすれば、打音はショットの良し悪しを判断する大事なファクターと言われている。

デフゴルファーには、それが聞こえない。デフには程度の差があり、補聴器を外した状態でも少しは打音が聞こえるデフアスリートもいる(聞こえる人との競技の場合は補聴器の使用も可能だが、デフアスリートの大会では補聴器は使用禁止)。しかし、中島選手は重度の聴覚障がい者であり、打音は聞こえない。
「先天的に聞こえないので、打音があってのゴルフが想像できないし、気にしたことはないですね。私の場合、補聴器をつけて、ほんの少し音が聞こえると、かえって頭が痛くなってしまうんですよ。いい時の手の感覚というのはありますが、打って、いい方向に行け、行けと必死に思ってます(笑)」と、中島選手は、かくも明るく、楽しく、そして真っすぐにゴルフと向き合っている。もちろんデフアスリートならではのことがらもある。
「コースで練習するときは聞こえないので、隣のコースやティーイングエリアに人がいないか、しっかり確認しています。危険なボールがよぎっていった、といったことは1、2回あったかどうかです」
そんな中島選手がデフアスリートとしてゴルフをプレーすることで目標していることがある。
「今回、東京でデフリンピックが開かれて、そこで私がプレーすることで、浅いゴルフ歴でも上達できるという刺激になれたらいいと思っています。それがデフゴルファーを増やすきっかけになるんじゃないか、って。実際、ゴルフはやってみると本当に面白いスポーツだし、フットサルみたいに走るスポーツは年齢を重ねていくと引退、という流れがあるけれど、ゴルフはずっと楽しむことができる。聞こえる人とも一緒にプレーできるし、ゴルフってほんとうにオープンなスポーツなんだって伝えられたらと思ってるんです」
長く楽しく壁もなく楽しめる……中島選手の言葉は、ゴルフの本質を伝えている、と思った。 豪快なスイングから生まれる快音は、聞こえない、聞こえるにかかわらず、心には届いている。
取材・文/加藤ジャンプ
文筆家。絵。”コの字酒場”命名者。コの字酒場探検家、ポテサラ探求家、ソース研究家。BS日テレ『ロビンソン酒場漂流記』原案エッセー連載中。ANA『翼の王国』『手仕事を訪ねて』。BSテレ東『今夜はコの字で』原作者。テレ東『二軒目どうする?』出演。著書『コの字酒場はワンダーランド』ほか。
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