「邪魔だから切って」なんて言わないで！ 驚くほど高額なゴルフ場の“松の木メンテナンス”

　日本のゴルフ場は各ホールが樹木でセパレートされた林間コースが高い評価を受けることが多いです。樹木の中でも松の木がゴルフ場の景観を引き立たせると好まれています。

　松の木がゴルフ場で好まれるのは日本に限ったことではありません。松の木を英語でpine tree（パインツリー）と表記しますが、米国には名称にパインが入っている名門コースがいくつかあります。

　2014年に全米オープンと全米女子オープンを史上初めて同一会場で開催したパインハースト・リゾート（ノースカロライナ州）は1895年開場で100年以上の歴史を誇るリゾートコースです。代表格のNo.2コースでは2024年、2029年、2035年、2041年、2047年の全米オープン開催が予定されています。

　毎年1月にPGAツアーのファーマーズインシュランスオープンが開催されており、2008年と2021年の全米オープンの舞台にもなったトーリーパインズゴルフコース（カリフォルニア州）もピンフラッグに松の木が象徴的に描かれています。

　一方で、松の木を健康な状態に保ち続けるのはなかなか難しいそうです。松くい虫による松枯れ被害に悩まされているゴルフ場は多く、防除をキチンとしていないと松の木が次々と枯れてしまったりするケースもあるようです。その実態をゴルフ場のコース管理の専門家に聞いてみました。

「松枯れというのは松の中に入り込む虫がいまして、そいつが卵を産み込んで、中で孵化して、水を吸い上げる管を詰まらせてしまって、木が枯れてしまいます」

「その木をそのままにしておくと幼虫が羽化して、成虫になって木から飛び立ち、どんどん広がっていきます。松枯れが発生した木は燃やしてしまうか、場外に運び出さなければなりません」

「松枯れを予防するために、木に穴を開けて殺虫剤を灌注（かんちゅう）したり、地上から噴霧器で殺虫剤をかけたり、コースによってはヘリコプターで上空から殺虫剤を散布したりします」

「作業方法と松の木の本数によって料金は違うでしょうけど、松がたくさんあるコースはけっこうお金がかかっていますよ。『あのコースは松が立派だよね』というゴルフ場は年間数百万円かかっていると思います」

　松の木のメンテナンスにそれほどの経費がかかっているとは知りませんでしたが、確かにゴルフ場の松の木に何かの薬剤が注入されていたり、目印のような物が貼られていたりするのを見ることがあります。

「樹幹注入をやっているところは、松の木に3センチ四方の四角い目印の紙が貼ってあります。あれはいつ防除したかという目印です。業者によって違いますけどね」

　業者によって違うということは、松の木の防除はコース管理課が行なっているのではなく、業者に外注しているのでしょうか。

「自分たちでやっているところもあるかもしれませんけど、大抵は外注ですね。除草剤の散布を外注に出しますが、だいたい同じ業者です」

　防除をキチンとすれば松枯れは防げるのでしょうか。

「業者の腕によりますけど、防除をすれば98％くらいは防げます。（殺虫剤の）打ちもらしがあって、ポツリポツリ出ることはありますけど、昔は（薬の効果が）3年くらいだったのが今は4～5年もつようになっていますから、以前よりも被害に悩まされることは少なくなってきました」

「ただ、防除をケチるとコース内の松の木の3～4割が松枯れしているゴルフ場を見たこともありますよ」

　松の木はゴルフ場の戦略性にも関わっていたりしますから、松枯れの防除は絶対に欠かすことができないメンテナンスです。

　ゴルファーはあちこちの松の木を見ながら、「この木は邪魔だな」とか「ボールが当たったらイヤだな」とか自分勝手なことを言っていますが、その1本1本にも手間をかけてゴルフ場の雰囲気を保っているのです。