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- 米・老舗スポーツ誌がゴルフ界に“ナンセンスな提案” 荒唐無稽な半面「一理ある」と思わされる理由
米スポーツイラストレイテッド誌が掲載した「バッド・テイク」特集。「極端で最悪な提案」「風刺の利いた提案」といったニュアンスで使われるスラングだが、プロゴルフツアーに対して行われた提案が荒唐無稽ながら「一理ある」と思わされる理由とは?
マスターズは「ありえない」を現実にしゴルフ界に定着させてきた
英語に「bad take(バッド・テイク)」というスラング(俗語)がある。
英語の辞書には「悪い評価」などと記されているが、米国の人々の間では「極端で最悪な提案」「風刺の利いた提案」といったニュアンスで使われている。
「ここだけの話、いっそのこと、こうしたらいいと思うんだよね」という具合に、多くの場合は仲間うちで交わされる半分ジョーク、半分シリアスな提案と言っていい。
その提案を聞いた人々は「ありえない!」「ないない!」と即座に否定するのだが、同時に誰もが苦笑するような少々ユーモラスな提案でもある。そして、心のどこかでは「一理あるかもしれない」と思ったりもする。
そんな「バッド・テイク」を、あえて記事化して広く発信するゴルフ界の「バッド・テイク」特集を米スポーツイラストレイテッド誌が掲載していた。とても興味深いと感じさせられたので、いくつかご紹介しよう。
まずは、「マスターズの舞台、オーガスタナショナルの9番ホールと18番ホールを入れ替えたら、いかが?」という「極端な提案」が記されていた。
このバッド・テイクを考えた記者いわく、「そもそもオーガスタナショナルが開場した当初は、前半と後半は現在とは逆だった。しかし、オーガスタナショナルを設計した球聖ボビー・ジョーンズは、フロント9のほうが『ドラマが多い』ことに気付き、やがて前半と後半をそっくり入れ替えた」とのこと。
「とはいえ、現在の18番より現在の9番のほうが、よりドラマチックな展開を生みやすく、最終ホールにふさわしい。だから、両ホールを入れ替え、現在の9番を未来の18番にしたらいいのでは?」と提案していた。
しかし、オーガスタナショナルのレイアウトをご存じの方々なら、すぐにお気づきになるだろう。その提案通りにするとしたら、「移動」の問題が浮上する。
17番グリーンから現在の9番ティーまでの距離は「800ヤード以上もある。選手やキャディーが歩いて移動するのには無理がある」。
じゃあ、どうするのか?
「そこがオーガスタナショナルの腕の見せどころだ」
スコアボードの中でアンダーパーの数字を赤色で示す「レッドナンバー」は、オーガスタナショナルがマスターズで使用し始め、ゴルフ界に広まり、定着した。
選手たちのプレー空間とギャラリーの観戦空間をロープを張って区分する「ギャラリーロープ」や「ギャラリースタンド」を考案したのもオーガスタナショナルだった。
ゴルフ中継に3Dカメラを導入し、ロープウェイのようにワイヤで動かす中継法も、マスターズで試験的に採用され、以後はそれが米国のゴルフ中継の常識と化していった。
大勢のギャラリーが詰めかけているオーガスタナショナルにおいて、17番グリーンを終えた選手たちを現在の9番ティーまでスピーディーにスムーズに移動させる方法が考案されれば、「それがゴルフ界の未来の常識となる」。そして、現在の9番を未来の18番に変えることで、「未来のマスターズはより一層ドラマチックになる」。
そう聞かされたところで、大半の人々は「そんな入れ替え、ありえない」と思うことだろう。
しかし、オーガスタナショナルの「発明」が、後々、ゴルフ界の「常識」になるという部分には、大いにうなずかされる。
レーキを撤去しなければバンカーは真のトラップにはならない!?
こんなバッド・テイクもあった。
「PGAツアーの大会では、バンカーレーキを廃止したらいいのでは?」
この提案をした記者いわく、「PGAツアーでは、グリーンサイドのバンカーにつかまった選手のほぼ3分の2が、1打で出し、1パットで沈めてパーを取るサンドセーブを達成している。世界ランキングなどで100位前後の選手でも、サンドセーブ率は平均50%以上で、もはやバンカーはトラップ(ワナ)にはなっていない」。
バンカーの砂がレーキできれいにならされていることで良いライが得られ、「スピンもかけやすい。だから、あえてバンカー狙いで攻めるケースまであるほどだ。だから、レーキを撤廃し、あるがままの状態でプレーすることにすれば、バンカーは本来の目的通り、難度の高いトラップに戻るはずだ」。
プレーヤーやキャディーの足跡も、ボールが跳ねた跡も、ショット跡も、すべてそのままにしておくべきだというこの提案。予選2日間は全選手が午前と午後を入れ替わりでスターするから、その意味では「みな公平」なのかもしれないが、決勝2日間は上位選手ほど荒れたバンカーに苦労させられることになる。
「でも、それはフェアウェイ上のディボット跡やグリーン上の足跡やスパイクマークにも同じことが言える」という提案者の反論は、まさにおっしゃる通りである。
そして、上位選手や優勝争いを演じる選手により厳しい試練が待ち受けることは、ゴルフの戦いにおいては、ある意味「かくあるべし」というものでもある。
そもそも、いにしえのゴルフ場にバンカーレーキはなかったと言われている。ニューヨーク郊外のベスページ・ブラックは、近代においても「バンカーレーキがない」ことで知られ、あるがままに球を打たせていたからこそ、全米オープンの舞台にも選ばれたのだろう。
全米オープンを主催するUSGA(全米ゴルフ協会)は、試合会場のバンカーの難度を上げる目的で、一般的なレーキより歯の数が少なく、歯と歯の間が広く空いていて砂面に深めの溝ができる鍬(くわ)のようなレーキを、あえて採用したこともあった。
美しすぎる砂面、美しすぎるバンカーは、トッププレーヤーたちにとっては「やさしすぎるバンカー」となり、ドラマが生まれなくなる。だが、レーキを撤廃して「あるがまま」に打たせることにすれば、ゴルフの試合はより一層エキサイティングになる。
「だからPGAツアーでは、バンカーレーキを撤廃したらいいのでは?」
それは、昨今のPGAツアーが「面白みに欠けているのでは?」「コースがアンフェアだなどと文句ばかり言っているのでは?」といった皮肉が込められた、きわめて風刺的なバッド・テイクなのだと私は思う。
日本のゴルフ界で「バッド・テイク」を募ったら、どんな「ありえない提案」が飛び出すだろうか?
忖度や遠慮、気遣いなどもあって、ずばりバッド・テイクを口にする人は、きっと多くはないだろうと思う。だが、「半分はジョークなのだから」と割り切って提案することで、未来を議論するきっかけになれば、日本のゴルフ界の前進につながっていく……ということで、私からバッド・テイクを1つ。
「ツアー参戦を目指しているゴルファーには、あらかじめ優勝スピーチのテストを義務付け、一定の基準を満たして合格することを参戦の必須条件にしたら、いかがですか?」
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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