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賞金大増額の次は大坂なおみとコラボ!? 世界ツアー創設!? サウジマネーも歓迎する米欧女子ゴルフ界のしたたかさ
米女子ツアーは2024年のスケジュールを発表。3つの新設大会が加わって年間試合数は33試合となり、賞金総額は1億1655万ドル(約175億円)。21年の7000万ドルからは6割以上アップすることになる。賞金の大増額にとどまらず、新たな一手を次々と打つ米欧の女子ゴルフ界は今、日の出の勢いだ。
大坂なおみとレブロン・ジェームズが創設したメディア企業に依頼
古江彩佳や笹生優花、畑岡奈紗、渋野日向子らが参戦し、来季は稲見萌寧も初参戦する意思を示している米女子ツアー(LPGA)が、驚くなかれ、2024年からはテニス界の元世界ランキング1位、大坂なおみとのコラボ企画を実施する予定だという。
一時期の米LPGAは人気がすっかり低迷し、試合会場に閑古鳥が鳴いていた。だが、レクシー・トンプソンやジェシカ&ネリー・コルダ姉妹といった米国人スター選手の活躍もあって、昨今は人気を回復しつつある。
米ゴルフウイーク誌によると、米LPGAはさらなる人気獲得とツアーの成長を図るため、来季は斬新な試みに挑戦しようとしているという。そして、その試みの一つは、選手のブランディング強化だという。
たとえば、米LPGAにはタイ出身のアリヤ・ジュタヌガーンという選手がいる。英語の綴りは「Ariya Jutanugarn」。ラストネームの「ジュタヌガーン」は、彼女の母国タイではポピュラーな姓だそうだが、日本人の私たちには、読み方が少々難しい。
英語を母国語とする米国人にとっても、この綴りを一見して即座に発音することは決して容易ではない。ゴルフのテレビ中継を観戦しながら彼女の名前を耳にしたことがあるゴルフファンなら、「こんな感じかな?」と推測しながら発音できるかもしれない。だが、ゴルフに無縁の人々が、この綴りを初めて見たとき、すぐに読める人、正しく発音できる人は決して多くはない。
読みにくく発音しにくい名前に出くわすと、親近感が沸きにくく、ともすれば敬遠しがちになる。
だが、読み方や発音が難しい名前を、わかりやすく親しみの沸くニックネームに変え、それをツアーにおける登録名にしてしまえば、人々からも覚えられ、名前を連呼され、人気も上がるのではないか。それが選手の人気向上、ひいてはLPGAの人気向上につながるのではないか。
そう考えたLPGAが頼りにしようとしているのが、大坂なおみとレブロン・ジェームズが共同で創設した新メディア企業「Hana Kuma」なのだそうだ。
新会社創設の際、大坂がこれまで自身が歩んできた道を振り返った言葉がSNSで紹介されていた。
「私は周りの人たちとは違うアプローチでキャリアを築いてきました」
「だからこそ、私はHana Kumaを立ち上げました。さまざまな文化や視点、重要な社会問題についてのストーリーに焦点を当てたメディアのプラットフォームです。私のような大胆で遊び心のある物語を伝えるためです」
米LPGAは、大坂の会社「Hana Kuma」の力を借りて、ジュタヌガーンのように母国以外では発音が難しい名前を持つ6~8名の選手に、新たな呼称を授けることで、彼女たちをブランド化していくつもりなのだという。
分かりやすく言えば、人々の目に付きやすく、覚えてもらいやすく、応援されやすい「芸名」を付けて、スター化、ブランド化していくということ。来季の米LPGAは、そんな新たな試みにトライしようとしている。
2024年の年間賞金総額は約175億円
視線をゴルフ界ではなくテニス界に向け、大坂の会社に目を付けた米LPGAは、なんともユニークな発想の持ち主である。勇気もスピード感もある行動力には、とても感心させられる。
そうやって細かいところまで気を配り、さまざまな「営業努力」を行なってきた米LPGAは、その甲斐あって、近年は徐々に人気を回復しつつあり、ツアーや大会の規模も拡大傾向にある。
24年は3つの新設大会が加わることで、年間試合数は33試合となる。賞金総額は1億1655万ドル(約175億円)。21年の7000万ドルからは6割以上アップすることになる。
1試合ごとの賞金に目をやると、今季は賞金総額が300万ドル以上だった大会が4試合だったが、来季は10試合へ大幅に増加する。
その中でも、メジャー5大会はすべて500万ドル超となる。シェブロン選手権は520万ドル、全米女子オープンは1100万ドル、KPMG全米女子プロは1000万ドル、アムンディ・エビアン選手権は650万ドル、AIG(全英)女子オープンは900万ドル。
そして、CMEグループ・ツアー選手権も全米女子オープンと並ぶ最高額の1100万ドル(約16億円4450万円)となる。
それでも、男子のPGAツアーのビッグ大会が2000万ドル級であることを思えば、その半分程度に過ぎないわけだが、日本の男子ツアーの賞金総額と比べたら、最大で10倍超にもなる。
まさに「破格の賞金」。そして米LPGAの人気回復と急成長ぶりは「破竹の勢い」である。
米欧ツアーは提携より一歩踏み込んだ完全なる合併を目指す
そんな米LPGAがさらに手掛けようとしているのが、欧州女子ツアー(LET)との合併だ。
すでに男子ゴルフの世界では、米国拠点のPGAツアーと欧州拠点のDPワールドツアーが戦略的提携を結び、DPワールドツアーのポイントレースである「レース・トゥ・ドバイ」でトップ10に食い込んだ選手には、翌シーズンのPGAツアー出場権が授けられることになっている。
そんな男子ゴルフの例を手本とするかのように、女子ゴルフの世界でも米欧両ツアーが手を取り合おうとしているわけだが、女子の場合は、提携よりさらに協調関係を強めた完全なる合併を目指しているという。
欧州女子ツアーLETの19年シーズンは、年間試合数が20試合にも満たず、賞金総額は1360万ドルだった。
しかし、23年は年間試合数が30試合に増え、賞金総額は3720万ドルへと大幅アップしている。
その背後には、男子のリブゴルフを支援しているサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」の存在がある。
PIFの経済的支援によって、LETには賞金総額500万ドルのアラムコ・サウジレディース・インターナショナルを筆頭に、アラムコ・チームシリーズなどのビッグ大会が10試合も創設されている。
開催地も、欧州に留まらず、シンガポールや米国のフロリダ州、そしてサウジアラビアなど広範囲にわたっている。
そんなLETと米LPGAが完全合併すれば、まさにワールドワイドな一大女子ツアーが完成される。
男子ゴルフの世界では、リブゴルフが創設されたことでPGAツアーやDPワールドツアーが大揺れし、サウジアラビアやPIFとの関わりやオイルマネーの在り方が取り沙汰されるなどの大騒動になり、その余波はいまなお続いている。
だが、女子ゴルフ界を率いる米欧両ツアーのリーダーたちは、男子ゴルフ界の騒動を静観し、参考にしつつ、より良い道を見い出そうとしている。
そして、米LPGAの選手からもLETの選手からも、サウジ政府やPIFに対する批判的な声はほとんど聞こえて来ず、「男子ゴルフ界に比べて資金力を欠いている女子ゴルフ界に手を差し伸べてくれるのなら、私たちは、ありがたく助けてもらう」と、オイルマネーを大歓迎する声が上がっている。
米欧の完全合併による一大女子ツアー創設という大きな目標を見据えつつ、同時に、選手たち一人ひとりのブランド化も図り、そのために大坂なおみの会社とのコラボ企画も推進していく。
そんな米女子ゴルフ界の勢いは、これからますます増していきそうな気配である。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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