- ゴルフのニュース|総合ゴルフ情報サイト
- 記事一覧
- ツアー
- お金も時間も手に入れたはずがポイントを“出稼ぎ” リブゴルフの世界ランキング入りが前途多難な理由
お金も時間も手に入れたはずがポイントを“出稼ぎ” リブゴルフの世界ランキング入りが前途多難な理由
またリブゴルフ総帥のグレッグ・ノーマンが顔を真っ赤にして怒り狂っているようだ。怒りの矛先はPGAツアーではなくOWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)。リブの世界ランキング入りが遅々として進まないことを「スロープレーだ!」と非難している。
「スロープレーだ!」リブゴルフ総帥ノーマンに焦り
ここ最近、グレッグ・ノーマンを筆頭とするリブゴルフ上層部の間では「スロープレーだ!」という怒声が上がり続けているという。
とはいえ、この「スロープレー」は、リブゴルフの選手たちの試合におけるプレーのペースがスローだ(遅い)という話ではない。
リブゴルフ上層部の一部が米スポーツイラストレイテッド誌に明かした情報によると、リブゴルフが世界ランキングの対象ツアーとして認められるか否かの回答が依然として得られないことに、ノーマンらは焦燥感を強めており、いつまでたっても結論が出されないのは、世界ランキングをつかさどるOWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)による「スロープレーだ!」と、怒りの声を上げているという。
今年6月に創設されたリブゴルフが、世界ランキングの対象ツアーとしての申請をOWGRに提出したのは7月6日のこと。
以後、その申請はOWGRによる「審議中」という状況のままで、正式な回答どころか、審議がどんな段階にあるかという途中経過も、どんな状況なのかも、今後の見通しも、一切、公表されていない。
そんな中、PGAツアーやDPワールドツアーに背を向けてリブゴルフへ移った選手たちは、リブゴルフでは稼ぐことができない世界ランキングのポイントをなんとかして稼ぎたい一心で、暫定的に彼らにも出場の道が残されている欧州のDPワールドツアーやアジア、南アフリカ等々へ“出稼ぎ”に出るしかないという状態にある。
すでに破格の契約金や超高額賞金を手に入れ、かつてないほど懐の中は充実しているはずの彼らが、今、わざわざ出稼ぎに出てまで世界ランキングのポイントを稼ごうとしている理由は、今後のメジャー4大会への出場資格を見据えているからだ。
マスターズと全英オープンは世界ランキング上位50位以内、全米オープンは上位60位以内が求められる。全米プロはトップ100位以内の出場が慣例化している。
だが、リブゴルフの大会で世界ランキングのポイントが稼げるようにならない限り、リブゴルフ選手たちの世界ランキングは下降の一途。やがて全員がトップ50、60、100の圏外になるのは時間の問題だ。出稼ぎも一時しのぎ程度にしかならないだろう。
そんな切羽詰まった現状の下、リブゴルフでは上層部にも選手たちにも焦りと苛立ちが広がっている。
決めるのはPGAツアー、欧州ツアー、メジャー大会の会長ら
リブゴルフのCEOを務めるノーマンは「リブゴルフには世界中のグッドプレーヤーが多数集まっている。そのリブゴルフを世界ランキングに含めないのはおかしい」と、日々、語気を強めている。
リブゴルフを代表する選手の1人、フィル・ミケルソンも「リブゴルフを世界ランキングの対象ツアーとして認めなかったら、世界中のゴルファーの強さの指標であるべき世界ランキングというものが正しく機能しなくなり、それは世界ランキングの崩壊を意味することになる」と、警鐘まで鳴らしている。
そして、今後のメジャー大会への道に不安を募らせるリブゴルフ選手たちを安堵させようとしているのだろう。ノーマンは選手たちに、こんな内容のレターを送ったそうだ。
「リブゴルフは世界ランキング対象ツアーとなるべく、正式に申請を出しており、グッドプレーヤーが集結しているわれわれリブゴルフは承認されて然るべきなのだ。なぜなら、世界ランキングを正しく運営し、機能させていくことはOWGRの責任だからだ」
だが、冷静に耳を傾ければ、今、ノーマンやリブゴルフ側から聞こえてきている怒声は、いずれも一方的な叫びでしかなく、確固とした根拠や説得力は、残念ながら見当たらない。
今のところ、この一件に関してOWGR側からは何の声も聞こえてきてはいないが、新たに声が上がらずとも、分かっている事実というものはある。
世界ランキング対象ツアーとして新たに承認されるための要件は14項目ほど設定されており、基本的には全項目を満たすことが求められている。
外部の選手がツアーに入れるよう扉を開くこと、言い換えれば閉鎖的なツアーではないことは、要件の1つ。そのためリブゴルフは予選会を新規に設置することを決め、「ツアーのオープン性」という要件を満たすために一歩前進した。
54ホール大会か、72ホール大会かにかかわらず、36ホールで予選カットを行なうことも必要要件の1つだが、リブゴルフでは予選カットは行なわれておらず、今後もその予定はないとされている。それが審議において取り沙汰されることは間違いない。
しかし、仮に全項目を満たしたとしても「OWGR理事会によって否定されるケースは起こりえる」と、あるOWGR関係者が米メディアに明かしている。
ちなみに、OWGR理事会には、R&A元会長のピーター・ドーソンを筆頭に、PGAツアー会長のジェイ・モナハン、DPワールドツアー会長のキース・ペリー、メジャー4大会の主催団体の会長らが名を連ねており、リブゴルフが世界ランキングの対象になるかどうかの命運は、最終的には彼らの合議に委ねられていると言っても過言ではない。
その合議がどうしても恣意的になりそうであることは想像に難くない。だが、あくまでも「理事会の決定は感情とは無関係に下される」と仮定したとしても、依然としてリブゴルフにとっては不利な事実がいくつか見て取れる。
感情論抜きにしてもリブゴルフをどう評価するかは難しい
そもそも世界ランキングの対象として新たな申請を受け付けた際、OWGRが行う審議は「ディベロップメンタル・ツアー」(これから成長していくはずの下部ツアー)のためのものとされてきた。
プロゴルフの普及や拡大を図り、将来の可能性を秘めた若い選手たちの成長を促進し、一流の舞台への道を開いていくための「成長途上のツアー」に対して、世界ランキングを授けるかどうかを審議したケースは、これまでにも多々あり、現在、PGAツアーやDPワールドツアーといった一流ツアーを含めた合計23のツアーが世界ランキングの対象ツアーとされている。
だが、すでに世界のトッププレーヤーとされているダスティン・ジョンソンやキャメロン・スミスといったリブゴルフ選手の強さを定めるために新たに世界ランキングを授けるかどうかという審議は、これまでに前例もないことから、慎重に行われるべきであり、そして、その判断はきわめて難しい。
そして、もう一つ。リブゴルフとは無関係に、そもそもOWGRは現行の世界ランキングをさまざまなアングルから見直している段階にあり、その「本業」が忙しく、その合間に初ケースのリブゴルフの申請を審議することは「本業」の作業を煩雑化させてしまう。
そうした2つの「そもそも」の事情によって、リブゴルフの申請の審議には、どうしても時間がかかっているということのようだ。
言い換えれば、これはノーマンらが怒声を上げているようなOWGRによる「スロープレー」ではなく、慎重を期した上での「やむを得ないインターバル」なのだ。
しかし、ノーマンらの怒りと焦りは高まる一方のようで、「今すぐ認めてくれ。どうしても今が無理なら、2023年シーズンが始まるまでに認めてくれ!」と大声で叫んでいる。
リブゴルフで世界ランキングのポイントが稼げるようになれば、リブゴルフ選手たちの他のツアーへの出稼ぎは不要になり、彼らがDPワールドツアーの大会に乗り込んで騒動の種になることもなくなるだろう。
そう考えれば、それはそれでゴルフ界にとってはプラスになるのかもしれない。だが、リブゴルフ選手たちが世界ランキングを維持向上させることができるようになれば、今度はメジャー4大会の舞台が、さまざまな喧噪の場と化すかもしれず、リブゴルフと世界ランキングの問題は、どこまでも物議を醸しそうである。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
最新の記事
pick up
ranking