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“かつて”よりも強くなったケプカが手にした“リブゴルフのため”でも“PGAツアーを見返すため”でもない勝利
ブルックス・ケプカが大会3勝目、メジャー5勝目を達成して幕を下ろした今年の全米プロ。かつて3年間でメジャー4勝を挙げ、大舞台での無類の強さを見せた彼だが、ここ数年はヒザの故障に苦しみ、リブゴルフへの移籍により非難を浴びるなど、“終わった選手”と思われていたのも確か。そんなケプカの復活は、故障が癒えたことばかりでなく、内面の成長も垣間見えるものだった。
「もう2度と、以前の自分には戻れないかもしれないと思った」
ニューヨーク州ロチェスターの名門オークヒルズが舞台となった今年の全米プロで見事な勝利を飾ったのは、33歳の米国人選手、ブルックス・ケプカだった。

この優勝はケプカにとって、全米プロ3勝目、メジャー5勝目となり、昨年6月にリブゴルフが創始されて以来、初めての「リブゴルフ選手によるメジャー優勝」となった。
2017年と18年に全米オープンを連覇し、18年と19年に全米プロを連覇した当時のケプカは自信に溢れていた。
「メジャーは僕に向いている」「メジャーに出れば必ず、いいゴルフができる」「目指すはメジャー優勝のみ。レギュラー大会はそのための準備だ」と言ってのけた彼は、「自信過剰」「ふてぶてしい」と批判の嵐にさらされた。
そんな「かつてのケプカ」と、PGAツアーから離れてリブゴルフへ移籍し、今年の全米プロを制した「今大会のケプカ」は、少しばかり異なるケプカだったようにも感じられた。もちろん、以前と変わらないところも見られたのだが、以前とは明らかに「変わった」と感じられる部分が確実に見て取れた。
その変化が「成長」だったからこそ、彼はメジャー5勝の偉業を成し遂げることができたのではないだろうか。
かつて、17年から19年のわずか3年間でメジャー4勝を挙げ、15年から重ねた通算8勝のうちの半分がメジャー優勝となった当時、ケプカの実績は数々の批判を跳ね返すに十分足るものだった。
とはいえ、ファンやメディアの間では、ケプカに不信感や不快感を抱く人々も見られ、PGAツアーに彼が「友」と呼べる選手がどれほどいたかと言えば、その答えはほとんど皆無に近かった。
「それもそのはず」と感じられる言動は、いろいろあった。少しでも意に反した記事を書かれたと感じれば、自身の会見の場では、その記事を書いた記者を名指しで退場させるなどして、ケプカは米メディアをどんどん敵に回していった。
プレーの進行が遅い選手も名指しで指摘し、「ひどいスロープレーだ!」と厳しく批判した。その筆頭に挙げられたブライソン・デシャンボーとケプカの激しい舌戦は、ゴルフファンの記憶に新しいところだろう。
世界ランキング1位の王座には47週間、君臨した。そんなケプカは、まさに唯我独尊という様子だったが、21年フェニックスオープンを最後に優勝からも優勝争いからも遠ざかった。
その理由は、ヒザの故障。4年前の手首の故障は、馬のカイロプラクターの治療を受けて奇跡的回復を見たが、ヒザを治すためのミラクルは見当たらず、ケプカの成績とランキングは下降の一途となった。
とりわけ昨年は、どん底だった。マスターズで2年連続予選落ちを喫したときは、悔しさと情けなさから、大会から貸与されていたコーテシーカーのメルセデス・ベンツの窓に「ケプカが拳を叩きつけて割ろうとしていた」という目撃証言もあったほどだった。
「あのとき僕は、生まれて初めて、恥ずかしいと感じながら試合会場から去った。もう2度と、以前の自分には戻れないかもしれないと思った」
全米プロでも全英オープンでも下位フィニッシュとなり、全英オープンでは予選落ち。その直後、彼はリブゴルフに移籍した。
そんなケプカには「PGAツアーの戦いから逃げた」「大金に目がくらみ、ツアープロの魂をリブゴルフへ売った」といった激しい批判が向けられた。
「マスターズと同じあやまちは二度とおかさない。生涯おかさない」
しかし、転んでもタダでは起きない性格のケプカは、リブゴルフへ移ったおかげで得られたものをフル活用。PGAツアーより格段に試合数もラウンド数も減り、日程的に余裕が得られた中で、ヒザの治療と回復に努め、健全な肉体を取り戻していった。
すると、ヘルシーな肉体にはヘルシーな心が芽生え、それに比例するかのようにゴルフの成績も向上していった。
「一度自信を失ってしまうと、その闇から抜け出すことは容易ではない。失った自信はなかなか取り戻せない。僕がそれを再び取り戻すことができたのは、妻やチーム、スポンサーやファンの応援のおかげだ」
謙虚さと感謝を覚えたケプカは、かつてのケプカとは別人のようにも見える。その変化が彼に復活の力をもたらしたようで、彼は昨年と今年3月にリブゴルフで2勝を挙げると、その勢いのままオーガスタナショナルに乗り込み、マスターズ最終日を単独首位で迎えた。
しかし、75と崩れ、ジョン・ラームに逆転勝利を許し、2位タイに甘んじた。ホールアウト後、彼が開口一番、怒り交じりに口にしたのは「前の組の選手(注:パトリック・カントレーを指していた)は、とんでもなくスロープレーだった」というフレーズだった。
そんなケプカは、「かつてのケプカ」と、あまり変わってはいない。だが、ヒザの故障で低迷した間に謙虚さとより一層の忍耐を覚えたケプカは、マスターズ最終日の敗北をいつまでも他選手のスロープレーのせいにはしなかった。
そして、今大会では自分自身に課題を課し、心に誓ったことがあった。
「マスターズと同じあやまちは二度とおかさない。生涯おかさない」
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