積極的なプレーを心に掲げた最終日
◆国内男子プロゴルフ<BMW日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ 6月1~4日 宍戸ヒルズカントリークラブ西コース (茨城県) 7430ヤード・パー71>
2日目が降雨によるコースコンディション不良のため、3日目が日没のためサスペンデッドになった「BMW日本ゴルフツアー選手権森ビルカップ」。国内メジャーでもあるだけに何としても72ホールを成立させようと、3日目、最終日は早朝からのスタートになった。
当然、その影響は選手の起床時間やホール数にも及ぶ。優勝した金谷拓実によれば3日目は3時半に起きたという。さらに最終日は26ホールの長丁場に。サンデーバックナインに入り、ショットが乱れたことでスコアを落としたが、疲労がその要因になっていたのは間違いない。
もちろん、条件はどの選手も同じだけに、金谷から泣き言は一切聞かれなかった。むしろ、いかに最終日に自分らしいゴルフをできるか、積極的なプレーをするかという前向きな考えしか頭になかった。最終日のゴルフはまさにそのテーマに沿った内容だった。

初日に64というビッグスコアを出し、トーナメントリーダーとなった金谷だが、変則スケジュールにもかかわらず、その座を譲ることなく迎えた最終ラウンド。
第3ラウンドの残り8ホールをパープレーでまとめ、2位以下に2打差をつけてのスタートだった。前半の9ホールでスコアを1つ伸ばし単独首位の座をキープしていたが、13番パー3で3パットのボギー。その後、15番パー5ではティーショットを左に曲げ、隣のホールへ打ち込んだことが影響してボギーに。
この時点で中島啓太、宋永漢に通算10アンダーで並ばれる。しかし、見逃してはいけないのは、ピンまで残り95ヤード、左のラフから放った4打目だ。
ボールはスッポリとラフの中に沈んだ状態のため、スピンをかけるのは難しく、高さを出さなければピン近くに止めることはできない。ピンはエッジから9ヤードあるものの、芝の抵抗や風の計算もあるため、そう簡単にはエッジとピンの間にボールを落とすことはできないと思われた。
ところが、しっかりとボールを高く上げてその狭いところに落としてきたのだ。それでもボールはピンを約3メートルオーバーしたが、技術の高さを知らしめた1打だった。
魂のこもったボール
直後の16番パー3で金谷の勇気はさらに増していく。池越えの難しいピン位置だったが、積極果敢にピンを狙ってパーセーブ。中島と宋がともに3パットのボギーとしたため、再び単独首位に立つ。
さらに続く17番パー4では、ピンまで残り195ヤードある左サイドのラフから6番アイアンでピン上50センチにつけるスーパーショットを見せる。中島をして「魂のこもったボールでした」といわしめたが、15番から続けた勇気ある1打、勝利への執念がついに実を結んだ。
その17番でのバーディーが効き、通算11アンダーで見事今季ツアー初勝利、ツアー通算4勝目を飾った金谷。
表彰式では乳がんを患い、闘病生活を送る母親の美也子さんを励ますためにも優勝したかった、と語っていたが大きな励みになったのは間違いない。
「プロに転向してすぐに優勝でき、2勝目も挙げられたので、自分の調子さえ噛み合えばそういうチャンスは来るものだと思っていました。ところが、なかなか勝てず、海外でも結果を出せなくて自信を失っていましたが、今回優勝できたのは自信になります」
海外では今回のようにサスペンデッドや早朝のスタートは当たり前だけに、悪条件の中で勝ち切った経験は大きい。5年シードと合わせて海外志向の金谷には意味のある1勝となった。
また、前週に続き、2週連続で2位となった中島啓太だが、「こういう優勝争いを何回も重ねていけば、いつか必ず勝てると思います」と、悔しさをこらえ、前を向いていた。
金谷 拓実(かなや・たくみ)
1998年5月23日生まれ、広島県出身。広島国際学院高校2年のときに、「日本アマ」を最年少で制覇。東北福祉大学進学後の2018年には「アジア・パシフィックアマ」を制し、アマチュアとしては松山英樹以来となる「マスターズ」出場を果たす。19年には「三井住友VISA太平洋マスターズ」で史上4人目となるアマチュア優勝を果たした。Yogibo所属。