「彼の技術レベルは十分高いし、十分若い」石川遼の決意に苦労人S・ノリスが熱いエール【砂場Talk 番外編】

パナソニックオープンの開幕前に最も話題になっていたのが「石川遼の米ツアー再挑戦」。そこで、同じように母国を離れ日本ツアーで活躍を続けているショーン・ノリスに直撃取材。石川への熱いエールを聞き出した。

「米ツアー再挑戦」から伝わる石川遼の覚悟と決意

 今週のパナソニックオープン会場で一番多く聞かれる話題は「石川遼が米ツアー再挑戦を決意した」という話だ。

下部ツアーからの米ツアー再挑戦を決意した石川遼 写真:JGTO images

 2009年のノーザントラストオープンで米ツアーの初舞台を踏んだ石川は、以来、スポット参戦で米ツアーに挑み続け、2013年にようやく正式メンバーになった。

 しかし、持病の腰痛はじりじりと悪化していき、「アメリカで勝つ」「マスターズに勝つ」という幼いころからの夢を果たせぬまま、17年秋から主戦場を日本に戻した。

 志半ばで帰国したことは、きっと石川の胸のつかえになっていたのだろうと思う。だが、今回、彼自身が口にしたのは、ずっと恵まれた環境にあった自分がこれまで経験したことがない下積みや苦労を、あえて買って出てでも米ツアーに再挑戦したいという決意だった。

 とはいえ、石川の再挑戦の道は決してやさしいものではない。米ツアーの下部ツアー(コーンフェリーツアー)出場権を得るためのQスクール(予選会)突破は、最終予選からだとしても狭き門だが、2次予選からの挑戦となれば、さらに狭き門となる。

 その門を潜り抜けたとしても、コーンフェリーツアーのレベルは年々高まっており、シーズン終了後にトップ25に食い込んで米ツアー出場権を得ることは、もっと狭き門。米ツアーでシードを落とした75名とコーンフェリーツアーのトップ75名によるファイナルズ4戦もあるのだが、その中でトップ50に入ることは、これまた狭き門だ。

 そこに「外国人」という条件が加われば、門戸がさらに狭まることは言うまでもない。難関に次ぐ難関続きとなるであろう石川の再挑戦は、まさに苦労を買って修行に出るようなものであり、しかし、それだけに彼を応援したくなる。

日本という外国で活躍する南アフリカ出身のS・ノリス

今年新設されたゴルフパートナーPRO-AMトーナメントの初代チャンピオンに輝いたS・ノリス 写真:JGTO images

 そんなことを考えながらパナソニックオープン初日を眺めていたら、リーダーボードを駆け上ってきたのは、南アフリカ出身のショーン・ノリスだった。日本という外国で苦労を積み重ね、勝利も重ねてきた彼は、石川がこれから米国で経験しょうとしていることを日本で経験してきた選手と言っていい。

 この日、10番から出た前半は5バーディー、ノーボギー、折り返し後はすべてパーで収めたノリスは、「このコースはアップダウンが激しく、立ち並ぶ木々も難しさを増していてトリッキーだけど、初日としてはグッドスタートが切れた」と笑顔で語った。

 02年にプロ転向し、母国のサンシャインツアーで2勝を挙げたノリスは、アジアンツアーで腕を磨き、16年に日本とアジアの共同主管競技であるレオパレス21ミャンマーオープンで初優勝を挙げて以来、日本が彼の主戦場になった。

 17年には日本ゴルフツアー選手権森ビルカップで2勝目を挙げ、その後も毎シーズン1勝、通算5勝を挙げてきたノリスは「今年も1つ勝てたのでベリー・ハッピーだ」と陽気に笑った。

 しかし、その笑顔とは裏腹に、彼が日本で過ごしてきたこの5年超の日々は「アップ&ダウンの連続だった」。

 18年には、第一子となる息子が誕生した直後にHEIWA・PGM CHAMPIONSHIPを制し、3勝目を挙げた。19年には最愛の父親が他界。その直後にトップ杯東海クラシックで4勝目を挙げ、涙を流した。

 そして今年は、5月に新設されたゴルフパートナーPRO-AMトーナメントで勝利して5勝目を飾ったが、そのときも、「今年は親友を亡くし、バッグを担いでいる弟はコロナに感染した。そうやって、ここ数年は優勝の前後に何かが起こった。だけど、いいことも悪いことも、アップもダウンも、なんとか乗り越えてきた。そして今、妻が再び妊娠し、来年3月には初めての女の子が生まれるんだ」。

 だから、好発進を切った今大会でも「何か」が起こるかもしれない――毎週、ホテルからホテルへと転戦し、日本に「帰る家」を持たないからこそ、心の拠り所はあえて自分で作り出し、信じる気持ちを自ら抱く。それは、外国人選手なりの処世術であり、そう言えば、私も米国で暮らした25年間は、いつも自己暗示のようなものをかけながら、小さな良き出来事にも笑顔をもらっていたように思う。

「彼を心底、応援したい」S・ノリスの熱いエール

 ノリスは石川の米ツアー再挑戦、いや下部ツアー初挑戦を好意的に見ている。

「いい決意だと思う。彼の技術レベルは十分高いし、彼はまだ十分若い。母国で活躍できることと海外で活躍できることは、まったく意味合いが異なり、海外で苦労を乗り越えると、そのたびにメンタル面が成長し、人間的にも成長し、それがゴルフの成長につながる。僕も日本に来た5年前と比べると、今は自信が膨らみ、我慢強くもなり、人間的にもゴルファーとしても成長した。それと同じことが米ツアーに挑む石川にも起こると思う。だから僕は、彼を心底、応援したい」

 いろんな出来事を経て、すっかり日本に溶け込んでいるノリスは、「いろいろあったけど、何が辛かったかと問われると、これと言って思い出せるものがない。僕は日本が大好き。日本の人々はみなナイスだし、食べ物も最高だ。唯一、ベーコン&エッグがあるウエスタンスタイルの朝食だけは恋しいけど、今後、米欧ツアーに出るチャンスがあったとしても何が起こっても、僕はオールウェイズ、日本に戻ってくる」

 日本をこよなく愛するノリスの魅力を、みなさんにもっと知っていただきたいし、もっと伝えたいと、そのとき私は思った。

 そして、みなさんには、日本で頑張る外国人選手にエールを送ってあげてほしいなと思う。これからアメリカで奮闘するであろう石川に、米国のゴルフファンがエールを送ってくれたら、私たち日本人みんながうれしく感じるだろうから。それと同じことを、私たちも日本で頑張る外国人選手にやってあげられたら素敵ではありませんか。

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