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- PGAツアー2勝・韓国人プロが“兵役免除なのに軍服姿”のなぜ? 行く手にはソン・フンミンも苦しんだ544時間“無理ゲー”奉仕活動も
PGAツアーで2勝を挙げている韓国のイム・ソンジェが、自身のインスタグラムに軍服姿で敬礼する写真を投稿。アジア大会で団体・金メダルを獲得し、兵役免除となっているはずなのになぜなのだろうか。
「太極旗を胸につけたあの時の気持ちを思い出した」
11月下旬、米PGAツアーで2勝を挙げている韓国のイム・ソンジェ(27)が、自身のインスタグラムに軍服姿で敬礼する写真を投稿した。左胸元には「海兵隊」の文字。
世界中のゴルフファンが驚いた。「彼は2年も兵役につくの?」「今オフはツアー準備じゃないのか?」と海外ファンからのメッセージでざわついてもいた。
しかし、結論から言えば、彼は“入隊”したわけではない。韓国の兵役免除者に課せられる3週間の基礎軍事訓練を終え、その報告として写真をアップしたのである。

イムは投稿でこうつづった。
〈第9海兵旅団・91海兵大隊での3週間の訓練を終えてごあいさつします。
訓練所にいる間、心配してくださったファンの皆さん、そして多くの方々のおかげで、ありがたいことにケガなく無事に訓練を終えることができたと思います。これから残っている544時間の奉仕活動は、子どもたちと一緒に行う予定です。
気づけば、僕が2023年アジア大会ゴルフ団体戦で金メダルを獲得し、芸術・体育要員として編入される資格を得てから、もう2年が経ちました。
実はゴルフを本格的に始めてからの20年間、3日以上クラブを握らなかったことがなく、来年のPGAツアーの準備を考えると心配もありました。でも、胸に太極旗をつけて国を輝かせたいと思っていた、あの時の気持ちをもう一度かみしめながら、いつか向き合わなければいけない兵役の問題を、大韓民国の国民としてカッコよく堂々と果たす“社会のお手本”になりたいという思いがあったように思います。
もちろん、3週間の訓練と奉仕活動によって、僕の個人練習時間は減りますが、足りない時間をやりくりしながら、これからもっと集中して前に進むつもりですし、自分の実力はまた戻ると信じています〉
韓国のファンの胸を打つ投稿に2万8000件の「いいね!」がつけられていた。彼は韓国ゴルフ界ではスター選手だが、義務を避けずに“自ら進んで向き合おうとする姿勢に拍手を送るファンが多かった。
ではなぜ、イムは兵役免除になったはずなのに、軍服姿で「二等兵」として訓練所に入ったのか?
韓国の“兵役免除”は“完全免除”ではない
韓国の男子には、基本的に 満18~28歳の誕生日までに兵役義務を履行する制度がある。期間は兵科によって異なるが、陸軍は18カ月、海軍は20カ月、空軍は21カ月というのが一般的だ。ただし、スポーツ選手には“極めて狭い条件”で特例があり、五輪で金・銀・銅メダル、アジア大会は金メダルの獲得で免除対象となる。
イムは23年杭州アジア大会で団体・金メダルを獲得し、この特例に該当した。だが、これはあくまで現役兵として兵営に入る義務が免除されるだけ。
その代わり、(1)3週間の基礎軍事訓練、(2)544時間の奉仕(ボランティア)活動が必須となる。韓国では「兵役免除=自由」ではなく、「兵役免除=別形態での国家奉仕」という考え方が強い。
この544時間という数字は、世界的スターにとっても簡単ではない。プレミアリーグのトッテナムで長らくプレーした韓国代表のソン・フンミン(現・ロサンゼルスFC)がその代表例だ。18年アジア大会で金メダルを取り免除となったものの、彼は「34カ月以内に544時間を終えなければ旅行・出国が制限」「奉仕活動は“1日最大8時間”しか認められず、移動はノーカウント」「プレミアリーグと代表活動の合間でスケジュール調整地獄」という厳しい条件に直面した。
実際、21年末には海外メディアが「規定未達なら来季トッテナムでプレーできない可能性」と報じ、大きな話題になった。
結果的にオンライン授業や子ども向け講習会などを活用し、ぎりぎりで達成したが、「兵役免除ほど過酷な制度はない」と言われるほどだ。当然、イムも同じ“544時間ロード”を歩むことになる。
“544時間”をクリアするなかで難題は練習時間
イムは投稿で「3週間の訓練と奉仕活動のせいで練習時間は減る。でも時間をやりくりして前に進む。実力は戻ると信じている」と明かした。
今季は本来の安定感を欠き優勝こそなかったとはいえ、トップ10入りは4度。現在の世界ランキングは38位だ(11月23日時点)。飛距離は維持しつつも、ショットの精度に波があったのは確かで、例年ほどの存在感は示せなかった。
韓国メディアは「オーバーワーク気味」「スイング修正に苦戦」と指摘。そこに3週間の軍事訓練と544時間の奉仕活動で練習時間を奪われるとなれば当然不安もあるが、「兵役を堂々と務める社会のお手本になりたい」との覚悟がある。このメンタリティーを来季復活につなげたいところだろう。
来季からシーズン序盤は奉仕活動との両立が続くため、例年以上にタイトなスケジュールになる見込みだ。ただ、ショートゲームの精度、フェアウェイキープ率の高さは依然ツアートップクラス。ボランティア活動をすることが精神面のリフレッシュにもつながる可能性もあり、「むしろプラスに働く」という声もある。イムの来季は、これまで以上に韓国のファンから注目を集めることになりそうだ。
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