- ゴルフのニュース|総合ゴルフ情報サイト
- 記事一覧
- コラム
- 「持続可能なゴルフ場にリニューアル」とは具体的にはどういう改造を指すの? 生まれ変わった春日井CCに見る「ゴルフ場の未来」
愛知県で5番目に開場した歴史ある春日井カントリークラブが、環境に配慮して持続可能性を高める設計で世界的な評価を得ている米国人設計家のデイビッド・デール氏と組んで大規模なリニューアルを2023年から実施しました。
春日井CCが持続可能性をテーマにリニューアル
春日井カントリークラブは1964年に愛知県で5番目に開場したゴルフ場です。名匠・井上誠一氏が設計を手がけた東西36ホールはたちまち評判を呼び、1969年日本プロゴルフ選手権、1975年日本オープンゴルフ選手権、1980年日本女子オープンゴルフ選手権を開催しました。東海地方を代表する名門コースとして確固たる地位を築きましたが、開場60周年を迎えるにあたり設備の老朽化に悩んでいました。
一番困っていたのは散水設備です。芝生の育成に必要な水を思いどおりにまくことができなくなり、猛暑が追い打ちをかけて芝生が悲鳴を上げていました。また、散水だけでなくグリーンのコンディション維持やバンカーの整備など、コース管理全般に携わるスタッフが不足しており、高品質なメンテナンスを保つのが難しくなりつつありました。
これらの問題を一挙に解決するため、2023年12月から東コースのリニューアル工事を実施しました。リニューアルを担当したのは米国人設計家のデイビッド・デール氏です。デール氏はコースの戦略性を高めるだけでなく、環境に配慮して持続可能性を高める設計で世界的な評価を得ていました。
ゴルフ場サイドの課題だった老朽化、人手不足、温暖化をさまざまな手法でクリアし、戦略性、美観、持続可能性を備えたコースへと導きました。

散水設備は節水効果と省力化効果の高い全個別制御スプリンクラーを導入。グリーンは高温に強いオークリーという芝種(第7世代ベントグラス)に転換。バンカーは大雨が降っても水溜まりができず、砂崩れを最小限に食い止める構造(ベタービリーバンカー)を採用しました。これらの設備をお披露目するメディアツアーが11月10日に開催され、参加してきました。
無人芝刈機や乗り入れに適したカートも導入
春日井カントリークラブを運営する春日井開発株式会社代表取締役社長の松岡敏和氏は、大々的なリニューアルを実施した理由について次のように語ります。
「当クラブは今年で61年目になりますが、60年を過ぎるといろんなものが悪くなり、本当に困っておりました。今の設備を補修しながら定期的に1億、2億というお金をずっと使っていても、たぶんよくなりません。今後のことを考えると、SDGs(持続可能な開発目標)とよくいいますけれども、『お金があまりかからないゴルフ場というのができないかな』という発想がありまして、思い切って清水の舞台から飛び降りた(大規模な投資を決断した)ということでございます」
続いて同社取締役の松岡茂将氏から、コース改修のコンセプトについて次のような説明がありました。
「まず散水システムが老朽化しておりまして、取り替えなければならないシチュエーションに陥っておりました。日本の散水システムはスプリンクラーをブロックごとに出すタイプが大半でしたが、海外では個別にスプリンクラーを制御するタイプがスタンダードになっています。そちらのほうが使う水の量が少なく、管理する際に誰でも使いやすい機材ということで、人手不足に対応できるシステムを導入しました」

「人手不足に関しましては、近年は温暖化による異常気象で夏場に局所的な大雨が降り、それが起こるとバンカーに水が溜まり、水を抜く作業で人手が取られると、グリーンやフェアウェイの刈り込み作業が遅れるという悪循環が生じていました。その手間が省けるようなバンカーを作りたいという目的で、ベタービリーバンカーを選んで導入しました」
「この温暖化に対応するためにはグリーンにどのような芝種を使うかということも併せて議論し、夏場に強いオークリーというベントグラスを採用しました。今年の夏も非常によいコンディションで乗り切ることができました」
「そして今後の人手不足に対応するため無人芝刈機を導入しました。フェアウェイをマッピングで覚えさせ、そのルートを自動的に走れるようになると、お客様がいなくなった後に無人で刈り込み作業を行なうことができます」
「人手不足はコース管理だけでなく、キャディーさんが足りないという問題もあります。それに対応するためには将来的に乗用カートをフェアウェイに乗り入れる形でお客様に回っていただくのが必須と考えておりまして、乗り入れに適した2人乗りカートを導入するとともに、そのカートが走りやすいコンクリートカートパスを設計しました」
実際にコースを回った印象として、すべての設備が21世紀にふさわしい新たな装いを備えているだけでなく、このゴルフ場を50年後も100年後も存続させるんだという強い気概を感じました。
日本にゴルフが伝わったのは1901年。それ以来、全国各地にゴルフ場が次々と造成されていきましたが、2000年代に入ってから経営破綻が相次ぎ、約300コースがなくなりました。コロナ禍を機にゴルフブームが起こり、近年はゴルフ場の需要が高まっていますが、日本は少子高齢化が急速に進んでおり、ゴルフを始める人よりもやめる人が増えていくのは避けられません。現在(2025年時点)はゴルフ場が約2100コースあるといわれていますが、10~20年後に何コースが生き残るか予断を許さない状況です。
今回の春日井カントリークラブの取り組みは、ゴルフ場の持続可能性と価値向上を最大限に高めるにはどうすればいいかを徹底的に追求して一つの答えを示し、他のゴルフ場も追随してほしいというメッセージが込められている気がしました。
保井友秀(やすい・ともひで)
1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーライターとしての活動を開始。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。現在はゴルフ雑誌やウェブサイトなどで記事を執筆している。
最新の記事
pick up
ranking








