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「二重国籍であることを誇りに思う」笹生優花に受け継がれた米女子ツアー選手のたくましさ【舩越園子の砂場Talk】
米女子ツアー2022年の開幕戦、ヒルトングランドバケーションズトーナメント・オブ・チャンピオンズを惜しくも6位でフィニッシュした笹生優花。ゴルフジャーナリスト舩越園子氏が笹生に感じたたくましさとは?
日本のパスポートはキャリアの助けになる
米女子ツアー2022年の開幕戦、ヒルトングランドバケーションズトーナメント・オブ・チャンピオンズに出場した笹生優花が、米メディアの取材に応えた興味深い返答が米ゴルフウイーク誌で紹介されていた。
当然ながら、記事は英語で記載されていたのだが、笹生に関する記述内容を日本語にすると、こんな感じになる。
その記事では「昨夏、笹生はフィリピン人として初のメジャー覇者となり、現在、東京に住んでいる彼女は、今季は日本の国旗の下で戦っている」という地の文に続き、笹生のこんな内容のコメントが記されていた。
「デュアル・シチズンシップ(二重国籍)であることを私はとても誇りに思っています」
「(どこの国旗の下だとしても)私はフィリピン人。日本のパスポートを持っていれば、ビザなしで旅ができ、それはきっと私のゴルフ、私のキャリアに、とても役立ってくれるはずです」
持って生まれたもの、持っているものを最大限、有効に生かすことは、プロゴルファーとしても、人間としても、とてもたくましく、とても賢明なことだと感じられ、「ふむふむ」と頷かされた。
振り返れば、男子選手のローリー・マキロイは、北アイルランドと英国という政治的、宗教的な複雑な事情の狭間で国籍やパスポート、自分のアイデンティティに悩まされ、困惑した表情を見せることもあった。
だが、明るい笑顔でデュアル・シチズンシップの活用を語る笹生には、グローバルな感覚と肝っ玉の強さが溢れ返り、なんともたくましいなと思った。
千両役者ぶりを見せた新旧のナンバー1
メジャーチャンピオンとはいえ、まだ米女子ツアーにデビューして間もない20歳の笹生がこれだけたくましいのだから、世界の舞台で戦う女子選手の「先輩たち」は、笹生以上にたくましいはず。
そういう視線で眺めてみると、なるほど、彼女たちの人間力の強さが、どんどん見えてくる。
今大会はプロとセレブリティーが同組で回るプロアマ形式の4日間大会だったが、現在の世界ナンバー1であるネリー・コルダとかつて世界ナンバー1であり続けたアニカ・ソレンスタムが、それぞれプロ部門とセレブ部門の首位で最終日を迎えたことは、さすがだなあと感心させられた。
ナンバー1の名に恥じないパフォーマンスを「披露しなければ」と思えば思うほど、プレッシャーにさらされることは想像に難くない。しかし、現女王も旧女王も、周囲の期待に応えるかのように2人揃ってリーダーボードの最上段へ駆け上り、2人揃って最終日最終組へ。
こんな芸当ができるコルダとソレンスタムの精神力は実に強靭で、アスリートとして、人間としてのたくましさを感じずにはいられなかった。
とはいえ、ゴルフの試合はミズモノであり、予期せぬことは往々にして起こる。会場となったフロリダ州オーランドのレイクノナ一帯は寒波襲来で極寒の地となり、寒さが一層増した最終日、凍えてしまったコルダは4位タイで終戦。ソレンスタムはセレブ部門で首位を死守したが、残念ながらプレーオフで敗れ、2位に甘んじた。
そんな現ナンバー1と元ナンバー1を傍目にしながら、巧みに戦い抜いて勝利したのが、29歳の米国人選手、ダニエル・カンだった。
今大会を迎えるまでの1年以上の間、カンは、ずっと苦悩していたという。
「何をやっているときも常に心地悪いのは、なぜなのか?」
「ここぞというときに、いつも崩れて負けるのは、どうしてなのか?」
「どうしたら心地よくプレーすることができるのか?」
2020年に通算5勝目を挙げて以来、勝利から遠ざかってきたカンは、常にそんな自問自答を繰り返し、彼女なりに試行錯誤を繰り返してきた。
スポーツ心理学者のコンサルティングを受け、目の前のことに心地よく集中しようと努めた。名インストラクターであるブッチ・ハーモンの指導を仰ぎ、スイングスピードを速めることに意識を集中させた。だが、メンタル面の心地悪さは、なかなか消えてはくれなかった。
ソレンスタムのプレーからカンが感じ取った「何か」とは
しかし、今大会でカンは、試合モードでプレーするソレンスタムを生まれて初めて目の前で眺めたそうだ。
「まるでアニカファンの少女のように夢中で眺めちゃった」
嬉々としてプレーする元女王の姿に、カンは「何か」を感じ取り、それが探し求めてきた「心地よいプレー」につながった。
その結果、カンは最終日に4つスコアを伸ばして逆転勝利。2年ぶり、通算6勝目を挙げることができた。
たまたま目にしたソレンスタムのプレーする姿にヒントをもらい、すかさずそれを生かして勝利したカンは、たくましいアスリートの代表格と言えそうである。
それにしても、ソレンスタムからカンへと伝播したものは何だったのだろうかと考えた。かつてメジャー10勝を含む通算72勝を挙げ、押しも押されもせぬ女王として君臨していたソレンスタムは、しかし08年に突然、「戦いの場からステップアウェイする(退く)」と宣言。以後、結婚し、出産し、子育てをしながら、ジュニアゴルファーやカレッジゴルファー、女性ゴルファーの育成にも力を注いできた。
昨夏、50歳になったソレンスタムは全米シニア女子オープンに出場して、見事、優勝。カムバックの兆しも意欲も見せ、今大会にはセレブ部門で出場したが、若い選手に合わせた長めのコースセッティングに苦しんでいたという。
しかし、バッグを担いでいた夫のマイクが「前向きな態度で戦い続ければ、きっと踏みとどまれる。今、自分ができることを一生懸命にやるのみ。そうすれば、今夜は心地よく温かい夜になる」と激励。
愛する夫のポエムのような励ましを、素直に受け入れ、最大限に生かし、生き生きとした表情でプレーするソレンスタムに、カンは憧憬の念を抱き、それと同時に、アスリートとしての「何か」を感じ取ったのだろう。
「何か」の正体はカンにしかわからないが、その「何か」をすぐさま生かし、好プレーにつなげたことは、カンのたくましさであり、賢明さでもある。
笹生、コルダ、ソレンスタム、そしてカン。米女子ゴルフ界には、そんなたくましいプレーヤーが多々ひしめいている。
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