ギャラリーとして観戦し「“しぶこ”は楽しそうにゴルフをしていた」
国内女子ツアーのパナソニックオープンレディスが開催されました。優勝したのは、西郷真央選手。出場7試合で4勝到達というシーズン最短記録を樹立して勝利をつかみ取りました。
この大会で西郷選手と優勝争いを演じ、単独2位に入ったのがテレサ・ルー選手です。現在、私は彼女のスイングコーチを務めています。今回は、そんなテレサ選手の話をさせてもらおうと思います。

「スイングコーチを務めて欲しい」とオファーがあったのは、2020年のオフでした。
最初は、「16勝もしている選手に何を教えればいいんだろう?」と思いましたが、スイングをチェックすると、アドレスの向きと振りたい方向が一致しておらず、アジャストしながら振りづらそうにしている印象を受けました。
彼女の武器でもある飛距離を落とさずに精度を上げていくため、スイング面ではアドレスの向きやボール位置など、主にベーシックな部分の修正に時間を割いていました。
また、パッティングでは、解析器を使いながらデータと感覚を一致させていく作業に取り組みました。
あれだけの実績がありながら、何でも吸収しようとする意欲があるピュアな心の持ち主――。スイングコーチを務め始めた当初からそんな印象を持っていますが、最近も改めて彼女のキャラクターの良さを感じる出来事がありました。
2週前、テレサ選手は米ツアーのロッテ選手権に出場。残念ながら予選落ちしましたが、すぐには日本に戻らず、優勝を争って2位で終わった渋野日向子選手のプレーをギャラリーとして見守りました。帰国後に彼女は私にこう話してくれました。
「“しぶこ”は楽しそうにゴルフをしていた。優勝争いをしている相手選手を応援しながらプレーしている姿に感動した。それに、果敢に攻める姿勢にも刺激を受けた」
テレサ選手が他の選手の話をすることは珍しく、渋野選手のプレーによほど感銘を受けたのだと思います。
その効果はパナソニックオープンレディスですぐに表れました。攻める気持ちを忘れずにプレーしたことが、単独2位でフィニッシュした要因の1つといえるでしょう。
同大会では、相手選手をリスペクトし、楽しんでプレーするシーンも見られました。
象徴的だったのは、最終日の15番(パー4)。優勝争いをしている西郷選手が残り169ヤードの第2打をカップインさせた際は、自分のことのように喜んでグータッチで西郷選手を祝福。
このイーグルで逆転されたにもかかわらず、テレサ選手は相手選手のプレーを称えていました。
スイングのクオリティー向上で5年ぶりVも視野に
また、パナソニックオープンレディス開催週の月曜日に出場した全米女子オープン日本地区最終予選会でのこと。
1日36ホールのストロークプレーで争われるこの試合、テレサ選手は最初のラウンドで78を打ちました。
1ラウンド目でスコアを崩した選手の中には、2ラウンド目を棄権する選手もいますが、「このままでやめられない!」と、2ラウンド目に68をマークしました。
結果は、出場権獲得には遠く及ばないスコアでしたが、“可能性”がほとんどなくなった中で好スコアを出したことは、今後のゴルフに必ずプラスになるはずです。
今大会では、あと一歩のところで優勝を逃したテレサ選手。しかし、スイングのクオリティー、プレーの内容が向上しているのは間違いありません。
近い将来、5年ぶりの17勝目を挙げる姿を見せてくれるはずです。
テレサ・ルー
1987年生まれ、台湾出身。07年から4シーズンに渡って米ツアーでシード選手として活躍。その後、10年から日本ツアーに参戦。13年には日米共催のミズノクラシックで両ツアー初制覇を達成し、15年には国内メジャーを初制覇。17年は年間4勝を挙げて賞金ランキング3位の活躍をみせた。ツアー通算16勝。太陽生命所属。
石井 忍(いしい・しのぶ)
1974年生まれ、千葉県出身。日本大学ゴルフ部を経て1998年プロ転向。その後、コーチとして手腕を発揮し、多くの男女ツアープロを指導。「エースゴルフクラブ」を主宰し、アマチュアにもレッスンを行う。