考える時間を減らしてプレーファストを促進
グリーンのカップの位置は芝の保全や難易度の調節など、さまざまな目的で毎日変えられています。しかし、ゴルフ場によってはカップが移動するのに合わせてピンに取り付けられた旗の色まで変えられていることもあります。

ホールによって赤や青など旗の色が異なっていると、「何を目的にしているのだろう」と疑問に思う人も多いかもしれません。
では、グリーンのどこにカップがあるかに応じて旗の色も違うのはなぜなのでしょうか。ゴルフ場の経営コンサルティングを行う飯島敏郎氏(株式会社TPC代表取締役社長)は以下のように話します。
「旗の色がピンの位置によって異なるというケースは、主にリゾートコースやアメリカのゴルフ場でよく見かけることができます。これらのゴルフ場はラウンド時にキャディーを同伴しない『セルフプレー』が前提となっています。キャディーがいる場合は、事前に『今日このホールはグリーンのどのあたりにカップが切られていますよ』と教えてくれますが、セルフプレーではそのようなことがないので、キャディーの代わりに旗の色を区別することによってゴルファーにカップのおおよその位置を知らせています」
「例えば『手前の時は赤、真ん中の時は白、奥の時は青』のような感じで、クラブ選択のヒントを与えたり考える時間を減らしてプレーファストの促進を図ったりしています。また、大手が運営しているゴルフ場においても1日に受け入れられる組数の確保のためにそうした方法を取っているところは多く、そのゴルフ場グループのビジネスモデルの特徴として捉えられるでしょう」
グリーンは平坦な場合もあれば、起伏が激しくうねっていたり2段になったりしている場合もあります。旗の色を確認することによって適切なクラブを選べ、結果的に無駄なパッティングをなくすことにつながるでしょう。
しかし近年では、カップが切られた位置に応じて旗の色を変える措置は下火になりつつあるそうです。なぜなのでしょうか。飯島氏は以下のように続けます。
「かつてセルフプレーでカップの位置を知る情報源はピンポジションシートや旗の色だけだったので、色で区別するという対応が取られていました。ところが現在は、多くのゴルフ場のカートにはナビゲーションシステムがついており、カップの位置が変更されてもすぐに反映できるようになりました」
「画面にはエッジからカップまでの距離が表示されるので、わざわざ旗を付け替えなくてもゴルファーに分かってもらえるようになっています。まだ、すべてのカートにナビが搭載されているわけではないので、今でも旗の色で示しているところも残っていますが、ナビの普及率がもっと高くなれば近い将来見られなくなる可能性はあるでしょう」
ゴルフ業界においても、機械化やデジタル化はかなりのスピードで進んでいます。今まではアナログな方式で行っていたものも、時代によってどんどんと消滅していくのかもしれません。
セントアンドリュースでアウトは白、インは赤を使う理由
さらに飯島氏は「ゴルフの聖地」と呼ばれる場所にも、グリーンの旗の色に関して興味深いエピソードがあると話します。
「スコットランドにある『セントアンドリュース・オールドコース』では『ゴーイングアウト・カミングイン』に基づいて、前半のアウトコースは白いフラッグの付いたピンを、対して後半のインコースは赤いフラッグの付いたピンをグリーン上に設けています」
これはオールドコースに2つのホールで一つの巨大なグリーンを共有する“ダブルグリーン”が複数存在するため、アウトとインでどの旗を狙ったらいいか分からなくなることを防ぐためです。
「しかし、18番ホールのグリーンの背後には赤レンガの建物が建っており、赤旗のピンではちょうど色が被ってどこにカップがあるのか分かりにくくなってしまいます。そのため、18番ホールの旗だけは例外的にアウトコースと同じ白旗のピンが刺さっています」
ちなみに、18番ホールの向こう側にある赤レンガの建物はクラブハウスではなく、ゴルフ場に隣接して作られた「旧ハミルトンホテル」で、現在は高級アパートに改装のうえ売りに出されているそうです。
グリーンの旗は常に一定であるように見えて、カップの位置や周りの環境に配慮した色が用いられているのです。