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“出禁”はもちろん警察への通報も辞さず… ゴルフ場が断固としたカスハラ対策に乗り出す事情 従業員の日常生活に影響も
主に接客を伴う業種において、カスハラ(カスタマーハラスメント)対策が整備されつつあります。ゴルフ業界でもアコーディア・ゴルフが1月8日に指針を発表しました。
過剰な要求、セクハラ、SNSによる誹謗中傷が増えている
飲食業やホテル業などがカスタマーハラスメントの基準を設定し、そこを踏み越えた場合には「出入り禁止」にするなどの対策が進んでいます。
ゴルフ業界でもフロントやゴルフショップ、レストラン、キャディー業務など、接客の機会は多岐にわたるため、例外ではありません。2月よりPGMと兄弟会社となり、世界最大級の運営グループを構成するアコーディア・ゴルフも「カスタマーハラスメント対応基本方針」を今年の1月8日に発表しました。ゴルフ業界の現場で何が起きているのでしょうか。各方面に取材しました。

※ ※ ※
ゴルフ場におけるカスタマーハラスメント。
全国に173(都1道2府32県)のゴルフ場と26の練習場を運営している国内最大の運営会社であるアコーディア・ゴルフに実態をたずねると、その深刻さが伝わってきました。
「『カスタマーハラスメント対応の基本方針』に記載する内容は、すべて過去に事例として発生しておりますが、中でも過剰な要求、セクハラ、SNSによる誹謗中傷が多くなってきております」(広報担当)。
基本方針に記載されている内容とは、以下のものでした。
・暴言、侮辱、差別発言、誹謗中傷など
・暴行、器物損壊、その他粗暴な言動など
・業務に支障を及ぼす行為(長時間拘束、クレームの継続など)
・業務スペースへの立ち入り
・従業員を欺く行為
・会社・従業員の信用を棄損させる行為
・過剰な謝罪要求や従業員への処罰の要求
・わいせつな行為や卑わいな言動などセクシャルハラスメント行為
・プライバシーの侵害
・SNSやインターネット上での誹謗中傷……など。
しかもこうした行為例はあくまで例示であり、カスタマーハラスメント行為はこうした10項目に限定されるものでもないことを付け加えています。
このような事例が起きており、さらにエスカレートしているとあれば、もはや容認できないのも無理からぬところ。対応に乗り出さざるを得なくなったということなのでしょう。
アコーディア・ゴルフに限らず、カスタマーハラスメントの事例は枚挙にいとまがない、というのが本当のところです。
東北地方の某ゴルフ場の元支配人は、深刻な事例を明かしてくれました。フロントの女性スタッフに対する常連客のハラスメントです。
「きっかけはレストランの会計ミスでした。お客様に返金しなければならなくなったのですが、そのお客様とフロントのスタッフの家が近く、近所づきあいをしている仲。それで『今度来た時に私(フロントのスタッフ)が返金するから大丈夫』と上司に報告のないまま処理をしようとしたんです」。それが間違いの元でした。「返金の際、近所で接するような態度で接したために、お客様のプライドを傷つけてしまった、それでトラブルに発展してしまい……」。
その後は何かにつけて、フロントのスタッフに対してのハラスメント行為を繰り返すようになります。
「あいつ(女性スタッフ)は根っこが腐ってんだよ!」「お前がいるから、もう来ない!」などと罵倒されるようになり、その常連客が来ると他のスタッフと交代して事務所に引きこもるように。「それがまた、お客様にも避けられていると分かるんですよね。それで、さらにこじれてしまった」。
古い知り合いだからこそ、軽く考えてしまったところから発生した泥沼のトラブル。こうなると、家を出る時にも顔を合わせないようにと気を遣うようにもなります。顧客トラブルが日常生活にまで及ぶ、近隣トラブルにも発展する危険性まではらんでしまったケースです。
中部地方のゴルフ場の経営者も、こう話してくれました。
「例えば『朝早く着いちゃったから、早いスタートに変えろ』とか、『早く帰りたいからスループレーに変えろ』とか。そんなクレームは、日常的に起きています」
サービスを改善しつつ従業員の人権や就業環境を守る
全国どこででも起こっているこんな事例を踏まえて、アコーディア・ゴルフは具体的な対応策も明示しています。
「当社がカスタマーハラスメントに該当する行為と判断した場合、従業員一人ひとりを守ることを最優先とし、組織として毅然とした対応を行うとともに、カスタマーハラスメントが継続する場合や悪質と判断した行為については、各種会員資格等の停止や当社施設の利用禁止措置のほか、警察や弁護士等と連携し、厳正に対応させていただきます」
出入り禁止はもちろんのこと、警察にも通報し、裁判沙汰も辞さない。そうした強い意志を感じさせる内容になっていました。
今回の発表の意図をアコーディア・ゴルフではこう話しています。
「お客様に安心してゴルフを楽しんでいただく環境づくりやより良いサービス提供を実現すると共に、従業員の人権や就業環境を守る方針を示すことにより、人材の定着や採用強化などにつながればと考えております」
カスハラの危険にさらされたとき、常に会社が守ってくれる。その安心感こそが人財不足を回避する最良の方法であるとの判断が、ゴルフ場側にも生まれてきたということ。少子高齢化が続きゴルファーの減少がささやかれる中、ゴルフ場の生き残りをかけた戦いは多岐にわたっています。カスハラ対策も重要な要素の一つであるということでしょう。
取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。
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