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- 堀琴音が乗り越えた苦悩と激戦
◆国内女子プロゴルフ<ニッポンハムレディスクラシック 最終日◇11日◇北海道・桂ゴルフ倶楽部 6763ヤード・パー72>
通算3勝を誇る33歳のママさん選手とスランプに苦しみ未勝利の25歳
ニッポンハムレディスクラシック最終日。選手たちのスタート風景を眺めながら、この状況を言い当てるピッタリの表現は、どんな言葉だろうかと考えていた。
「この状況」とは、現在の日本の女子ゴルフのワクワクドキドキする現状のこと。
小柄でも華奢でも、パワフルに飛ばす選手たちのパワーには驚かされる。次々にピンそばに付けてくるアグレッシブで正確なショットの数々、遠くからでもポンポン入れてくるパットの数々を目の当たりにすると、彼女たちの技術力は、今や米女子ゴルフのそれを凌ぐほどのハイレベルなのではないかと思えてくる。
そういう高い技術力を身に付けている選手たちがひしめき合っていることは、選手層がどんどん厚くなっていることの証だ。
その状況を言い当てる一言は、英語なら「コンペティティブ」がピッタリだ。「コンペティティブ」の「コンペ」は、ゴルフコンペの「コンペ」で、「戦い」の意。その変形である「コンペティティブ」は、高いレベルで競り合うことを意味している。
米ツアー選手たちは、しばしば「この大会は、とてもコンペティティブだ」などと表現するのだが、今、日本の女子ゴルフの世界も「とてもコンペティティブ」だ。
いざ、最終日の優勝争いは若林舞衣子と堀琴音の一騎打ちの展開になり、パワーでも正確性でも、ほぼ互角のパフォーマンスを披露していた2人は、72ホールでは決着できず。サドンデス・プレーオフへもつれ込んだ。
若林は通算3勝を誇る33歳のベテラン選手。一方の堀は25歳で未勝利。2人は年齢も実績も異なるが、共通点もある。
若林は2019年に第一子となる男の子を出産し、2020年に復帰したが、出産を経た肉体の変化や戦線から離れていたブランクなど不安要素は多々あった。しかし、若林は「出産してからのほうが思い切りよくプレーできるようになった」と、肝が座った様子だった。
堀は2014年に美人姉妹の妹として注目のデビューを果たしたが、なかなか初優勝が挙げられず、やがて不調になり、2018年にシード落ち。そんなどん底から這い上がってきたからこそ、堀も肝が座っていたのだと思う。
最終日のスタート前、若林は「やるべきことをやって、それを貫ければ、勝てるんじゃないかな」、堀は「今日もアンダーを目指して、プレーが終わったら優勝できているように頑張りたい」。若林も堀も一心不乱に優勝の二文字を追いかけるのではなく、「やるべきこと」、「アンダーで回ること」を目指していた。
戦う相手は自分自身。だからこそ、視線を「優勝」から少しずらして挑もうとしていたところに、不安や苦悩を乗り越えてカムバックしてきた選手ならではの静かな闘志の燃やし方が感じられた。
観戦していたファンは「どちらにも勝ってほしい」と祈るように願い、温かいエールと拍手を贈り、その温かさは冷たい雨と空気を介して選手にも伝わった。
優勝争いはプレーオフにもつれ込み、3ホール目でパーパットを沈めた堀が、プロ入り7年目にして、悲願の初優勝。
「長かったです。優勝できると思っていなかったので、こんなに嬉しいんだなと思いました。(シード落ちしたときは)絶望しかなくて、この世の終わりぐらいの気持ちでしたけど、復活して優勝できて本当に良かった。いろんな方に支えていただいたおかげですし、応援してくれたファンのおかげです」
堀琴音が流した涙の意味
堀の正直な実感が、今の日本の女子ゴルフの現状を、そのまま物語っていた。
技術力の高さや選手層の厚さ、生存競争の厳しさを示す言葉は「コンペティティブ」。期せずして落ちてしまったら、この世の終わりとまで感じてしまう。
しかし、堀には、支えてくれる人々がいて、応援してくれるファンがいた。そこに2ウェイ、3ウェイ、いやいや、もっとたくさんのマルチウェイなコミュニケーションが網羅され、広がっているからこそ、日本の女子ゴルフは熾烈だが、温かい。
「やり抜くだけという気持ちで頑張りました」
やり抜いた堀。やり抜かせた周囲。双方が呼応し合った空気に思わず涙を誘われた。
堀琴音、万歳。日本の女子ゴルフ、万歳。冷たい雨に降られた4日間だったが、桂ゴルフ倶楽部を去るファンも、そして私も、心はすっかり温まっていた。
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