タイガー・ウッズ「プレーするたび右足は腫れ上がり…」壮絶なリハビリからの復帰戦に親子大会を選んだ意味【舩越園子の砂場Talk】

今週、事故で右足に重傷を負ったタイガー・ウッズがついに実戦復帰する。復帰戦に選んだのは、トッププロが親や子など近親者とペアを組んで出場するPNCチャンピオンシップ。まだ万全とは程遠いはずの状態を押して出場する意味とは?

タイガーの実戦復帰は愛息チャーリーくんと組んでのペアマッチ

 今週(12月18日~19日)、フロリダ州オーランドで開催されるPNCチャンピオンシップで、タイガー・ウッズが長男チャーリーくんとプレーする姿を世界に披露する。

昨年のPNCチャンピオンシップでフィストバンプするタイガーとチャーリーくんの幸せそうな1枚。この数カ月後に生死の境をさまようことになるとは思いもしなかっただろう 写真:Getty Images

 今年2月の交通事故で右足に重傷を負ったウッズが試合形式の大会に出場するのは、言うまでもなく事故後初めてとなる。

 事故直後は命さえ危ぶまれたウッズだが、あれから1年もたたないうちに試合に出場することは、まさに奇跡的な復活である。

 振り返れば、ウッズの奇跡的なカムバックは過去にも何度かあり、そのたびに世界中のファンが「信じられない復活劇だ」と目を丸くしながら喜んだ。

 最も最近の「奇跡的なカムバック」は、2017年4月に受けた4度目の腰の手術からの復活だった。

 18年4月のマスターズ開幕前の会見で、米メディアは興奮気味にウッズの偉大なるカムバックへの彼の想いを尋ねた。だが、ウッズは穏やかな笑顔を浮かべながら「まあまあ、落ち着いて。スローダウンしよう」と、熱くなっていた米国人記者をなだめると、静かにベン・ホーガンの話を始めた。

「すべてのスポーツにおいて最も偉大なるカムバックを遂げたのはミスター・ホーガンだ。バスにひかれ、それでも彼はカムバックし、メジャー優勝を遂げた。最大最高のカムバックだった」

 スラスラとホーガンの歩みを語ったウッズの姿は、ウッズがホーガン復活のストーリーを何度も何度も読み返し、暗記するほど熟読していたことを如実に物語っていた。戦線離脱していた間、「光が見えない」と悲嘆に暮れていたころのウッズは、きっとホーガン復活の実話に自分自身の希望の光を見い出していたのだろう。

 そうやってウッズは苦悩の日々を乗り越え、18年秋のツアー選手権で復活優勝を遂げ、19年春のマスターズを制してメジャー15勝目を挙げて完全復活をアピール。ウッズのあのカムバックは、ホーガンに並ぶ大復活劇だった。

 その年の秋、ウッズは日本で開催されたZOZOチャンピオンシップを制し、米ツアー通算82勝目を挙げて、サム・スニードの記録に並んだ。

 そして今回、ウッズは自身が大会ホストを務めるヒーローワールドチャレンジ会場で、事故後初の会見に臨み、再び「ミスター・ホーガン」に言及した。

「フルタイムでツアーに参戦することは、もう決してない。でも年に数回、試合を選んで出場することはできる。かつてのミスター・ホーガンがそうだったように、試合をピックアップして戦うことはできる」

 やっぱり今回も、ウッズの希望の光はホーガンだったことを伺い知ることができる言葉だった。

 そして、ウッズが今週のPNCチャンピオンシップ出場を決めた背景にも、ホーガンの前例が手本となって存在していたのだと思う。

昨年は父子で7位入賞した直後に腰の手術を受けた

 かつてホーガンは、交通事故後の体を包帯でぐるぐる巻きにした状態で米ツアーの大会に復帰したと言われている。重傷を負ったウッズの右足は、もはや包帯でぐるぐる巻きではないものの、今でも黒いサポーターで覆われており、その回復状態がどれほどのものであるかは、ウッズと彼のドクター以外には本当のところは分からない。

 リハビリ段階では、「なんとかラウンドできるようになってからも、歩いてプレーするたびに右足は腫れ上がり、そのたびにアイシングをする繰り返しだった」とウッズは明かした。PNCチャンピオンシップに出る意志を表明したとはいえ、それがイコール、右足の回復という意味にはならず、おそらく、そこにはウッズのかなりの無理や我慢があるのではないだろうか。

 それでも出場する理由は、何より息子への想いだ。チャーリーくんと一緒に試合に出て、父子で戦いたい。ゴルフに対する父の姿勢を示し、試合での戦い方や考え方を息子に現場で直に伝えたい。そういう想いがあるからこそ、ウッズは多少無理をしてでも、多少の痛みを我慢してでも、PNCチャンピオンシップに「出よう」「出たい」と思ったのだと私は思う。

 そう言えば、スイングもちょっとした仕草も瓜二つのウッズ父子が話題と注目を独占した昨年のPNCチャンピオンシップの際も、実を言えば、ウッズは腰に激痛を感じており、それでも無理を通して2日間を戦い抜いた。36ホールをなんとか戦い終え、ウッズ父子は7位に入賞。その直後、ウッズは5度目の腰の手術を受けた。

 今回のPNCチャンピオンシップには、交通事故による重傷からの回復途上にある右足で挑むわけで、多かれ少なかれ、ある程度の痛みとの戦いになるであろうことは、ウッズ自身、覚悟の上なのだろう。

 そんなウッズの姿勢は、間違いなくゴルフ史に刻まれ、必ずや後世へ語り継がれる。かつてホーガンのカムバックに刺激され、ホーガンに並んだウッズは、その後、スニードの記録に並び、そして再びホーガンのカムバックを範として、ホーガン以上の復活を遂げようとしている。

 こうやって歴史は紡がれ、レジェンドが生まれては、それを上回る新たなレジェンドが誕生する。あたかも輪廻のごとき連なりを、あらためて痛感させられるウッズ復活のプロセスに、だからこそ世界の熱い視線が注がれている。

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チャーリー・ウッズ 写真:Getty Images
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昨年のPNCチャンピオンシップでフィストバンプするタイガーとチャーリーくんの幸せそうな1枚。この数カ月後に生死の境をさまようことになるとは思いもしなかっただろう 写真:Getty Images

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