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40年前、5歳のウッズが応えたクリスマスインタビューで感じた「時代の変化」と「用具の進化」【舩越園子の砂場Talk】
米TV局がクリスマスに合わせて公開したタイガー・ウッズの幼少期のインタビュー。ウッズが希望したクリスマスプレゼントの内容から感じた、時代の変化と用具の進化とは何だったのか?
40年前にウッズが希望したプレゼントは近年のツアーでは見ることのないクラブだった
日本は、お正月こそが1年で最大の節目の行事のように感じられるが、アメリカはニューイヤーよりクリスマスのほうが圧倒的に盛り上がり、クリスマスが終われば、もはや1年は終わったも同然という感覚になる。
そのぶん、人々がクリスマスに寄せる想いは強く、クリスマスをどう過ごすか、クリスマスにどんなギフトを誰に渡すかは、アメリカの人々の大きな関心事となる。
2020年はコロナ禍で静かなクリスマスになってしまったが、2021年は米ゴルフ界のスター選手たちも思い思いのクリスマスを過ごしたようで、「それぞれのクリスマス」が米メディアによって紹介され、賑わっていた。
そんな中、とても印象的だったのは、米TV局がクリスマスに合わせて公開したタイガー・ウッズの幼少期のインタビュー映像だった。
それは1981年12月に撮影されたもので、当時のウッズは6歳の誕生日を間近に控えた5歳児だったが、TVカメラの前に1人で立ち、大人のインタビュアーから投げかけられた質問に、自力で一生懸命に応えていた。
「サンタクロースは何を持ってくるのかな?」と問われたウッズは、ちょっぴり恥ずかしそうに下を向いたまま「I don’t know.(わからない)」。
インタビュアーは質問の仕方を少しだけ変えて、「サンタクロースに何を持ってきてほしい?」と問いかけると、ウッズはなにやら泣きそうな小声になり、「I don’t know.(わからない)」。
そこでインタビュアーが「ゴルフクラブかな? ボール? ゴルフバッグ?」と具体的に例を挙げると、それがヒントになったのか、5歳児ウッズの口元がちょっぴり緩み、「いいことを思い付いたぞ」という顔つきになった。
「うーん、1番アイアンと2番アイアンかな?」
精一杯、背伸びして考え付いたと思われるウッズのそんな返答を聞いたインタビュアーは、思わず「アッハッハッ」と苦笑した。その様子を見たウッズは、「よし、笑わせたぞ!」「どうだ!」と言わんばかりに眉毛を上方へ動かしながら目を見開き、得意げな表情を見せた。
わずか5歳の子どもがサンタクロースにお願いするクリスマスプレゼントの候補が、1番アイアンと2番アイアン。その返答が、あまりにも大人びていることに驚かされたが、今の時代のキッズ・ゴルファーがウッズと同じように背伸びをしながらサンタクロースにクリスマスプレゼントをお願いするとしたら、きっとそれはロングアイアンではなく、「ユーティリティー」「ハイブリッド」「レスキュー」と言うところだろう。
しかし、40年前のあの時代は、ゴルフ天才児ウッズが大人のゴルファーになった自身の姿を思い描きながら求めた憧れのクラブが、1番アイアンと2番アイアンだった。そこに、隔世の感があった。
5歳のクリスマスにウッズがサンタクロースから実際にもらったプレゼントが本当に1番アイアンと2番アイアンだったのかどうかは明かされてはいない。
だが、1996年にプロ転向し、翌年のマスターズを2位に12打差で圧勝し、スターダムを駆け上がっていったウッズは、ことあるごとにドライビングアイアンを愛用していた。
「超」が付くほどの個性的なクラブがあふれていた90年代の米ツアー会場
時代の変化と用具の進化の下、ウッズも、米ツアー選手たちも、ゴルフバッグの中身を徐々に変化させていったことは、今さら言うまでもない。
現代のトッププレーヤーたちのバッグの中では、モダンテクノロジーを駆使して開発された最先端のクラブばかりが燦然と輝いている。だが、そんな彼らのクラブセッティングに個性がなくなってしまったことが、少々淋しくもある。
私が渡米して米ツアー会場に通い始めた1990年代半ばから2000年にかけての時代は、選手にも彼らの用具選びにも強い個性が感じられ、個性的な選手たちのニーズに応えるべく、大小さまざまな用具メーカーがユニークな品々を開発しては米ツアー会場でアピールしていた。
米ツアーの全選手がパーシモンからメタルクラブへ持ち替えた以降も、粛々とパーシモンドライバーを製作しては持ち込む職人もいた。
あるときは、あの名車ポルシェの設計理念と技術を駆使して開発されたという「ポルシェ・デザイン」のドライバーも登場。ジョン・クックが「名品だ」と感嘆の声を上げていた日のことが、昨日のことのように思い出される。
だが、私が今でも忘れられない究極のクラブは「ダイヤモンドの微小のクラスター(粉)をフェース表面に散りばめている」とうたわれていたウェッジだ。
インパクトの際、「ダイヤモンド・クラスターがボールをホールドし、絶妙なスピンをもたらす。まるで手で投げるように自在に強さや方向をコントロールできるんだ」と、そのメーカーのツアーレップは力説してくれた。
私が半信半疑で聞いていると、「ウソだと思うなら、この試作品をキミにあげるから使ってみてくれ。クリスマスプレゼントだ」と差し出してきた。それでも私は、そのウェッジが、どこか眉唾もののように感じられたせいか、もらっても全然嬉しくなかった。
しかし、自宅に戻り、半信半疑のまま試してみたら、驚くなかれ、本当にボールが表面に吸い付くような感覚が得られ、以後、長いこと、このウェッジは私のバッグの中の最重要クラブになっていた。
当時は、まだUSGAやR&Aによるクラブの規制が緩く、「超」が付くほどの個性的なクラブが次々に米ツアー会場にお目見えし、「あの選手が、あの試合で使った」という実例が、ユニークなクラブメーカーの生命線になっていた。
それは、ある意味、ゴルフ用具の世界におけるシンデレラ的サクセスストーリーを追いかけるビッグな夢への挑戦でもあった。
昨今の米ツアー会場では、もはや、そういう光景は見られなくなり、「ああ、時代は変わったのだな。選手たちのニーズも変わったのだな」と頷かされる。
だが、ダイヤモンド・クラスターがきらめくウェッジが米ツアー会場でアピールされ、少なくとも数人の選手たちがそのウェッジをバッグに入れて試合に挑んでいたあの時代は、実にのどかで、いい時代だった。
そして、あの時代があったからこそ、今があるのだと、つくづく思う。5歳児ウッズの愛らしい受け答えを眺めつつ、そんな郷愁の念に浸った。
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