2021年LPGA重大ニュースの1位が「Qシリーズ」だった
昨年末、米女子ツアー(LPGA)の2021年シーズンを振り返る「重大ニュース・トップ10」が米ゴルフ誌のウェブサイトに掲載されていた。

10位は昨年1月に開催されたダイヤモンド・リゾーツ・トーナメント・オブ・チャンピオンズの18番グリーン脇で、タイ出身のジャスミン・スワンナプーラが交際中の恋人からサプライズでプロポーズされたラブ・ストーリー。
9位は2008年以来13年ぶりにLPGAの大会に出場し、ルール上の裁定がちょっとした騒動になりながらも、見事、予選通過を果たしたアニカ・ソレンスタムの話だった。
8位から2位のうちの3つは、米欧対抗戦のソルハイムカップにまつわる出来事が選ばれていた。
それ以外の面白いものと言えば、タイガー・ウッズの姪のシャイアン・ウッズが昨年の全米女子オープンの地区予選をトップ通過したことが6位。
ミッシェル・ウィーがチャリティ目的でデザインし、発売したLPGAのロゴ入りフーディー(パーカー)がバカ売れしたことが4位にランクインしており、どちらも興味深かった。
しかし、一番興味深いと感じたのは、最も重大なニュースと見なされて1位に選ばれた出来事が、渋野日向子や古江彩佳がトライして合格したQシリーズ(予選会)だったことだ。
日系企業のスポンサードに期待する米LPGA
米女子ツアーのQシリーズは昨年12月に行なわれ、8ラウンドの長丁場を戦い抜いて生き残った上位45位タイまでの合計46人が2022年シーズンの出場権を手に入れた。
Qシリーズそのもののスタイルや内容に変化があったわけでもないのに、レギュラーツアーを目指すためのQシリーズが米女子ゴルフ界の重大ニュースの1位に選ばれることは、異例中の異例だ。
とはいえ、過去にも同じようなことが少なくとも1度はあった。そう、宮里藍が2位に12打差を付けてトップ合格した2005年のQシリーズ(注:当時はQスクール)は、内外で大きな注目を集めたのだが、あのときと同様か、もしかしたらそれ以上に今回のQシリーズが大きな注目を集めた理由は、ひとえに「Shibuno」なのである。
米ゴルフ誌の記事には、こんな記述があった。
「アラバマ州ドーサンで(開催されたQシリーズで)46人の選手がLPGAのステイタスを得た。ハイランクのエリート・プレーヤーの中には、メジャー優勝者のヒナコ・シブノが含まれている」
そして、渋野が出場権を獲得したこのQシリーズを米ゴルフ誌がトップニュースに選んだ背景には、言うまでもなく米LPGAのツアーとしての姿勢や期待がある。
米LPGAの2021年シーズンを牽引していたのは、米国のネリー・コルダと韓国出身のコ・ジンヨンの2人だった。
コルダは東京五輪で金メダルを獲得。ソルハイムカップでも大活躍を見せ、米国チームの旗振り役を務めた。コは年間5勝、通算11勝を挙げ、350万ドル超を稼ぎ出し、プレーヤー・オブ・ザ・イヤーに輝いた。
日本から見れば、米女子ゴルフは米男子ゴルフ同様の華やかな世界に見えるのかもしれないが、実際に米LPGAの試合会場に足を運んでみると、男子のそれとのギャップに誰もが驚かされる。
もちろん、かつては華やかな舞台だったのだが、ソレンスタムやロレーナ・オチョアといったビッグスターが引退し、米国人選手の成績が振るわなくなってからのここ10数年、米女子ゴルフ人気は低迷の一途で、スポンサーや試合数の確保に四苦八苦している。
だからこそ、米国人選手が大活躍し、米国企業がスポンサーに名乗りを上げることが大いに期待されている。そして、米国以外の外国人選手が大活躍すれば、その選手に関連する国や地域の企業が大会のスポンサーとして名乗りを挙げるケースが増える。
その証拠に、コを筆頭に複数の韓国出身選手たちが活躍している現在の米LPGAには、キア、ヒューゲル・エア・プレミアといった韓国系企業がスポンサーに名を連ね、シンガポールやタイといった他のアジア諸国出身選手たちが奮闘しているおかげで、そうした国々での大会開催も実現している。
2022年から畑岡奈紗や笹生優花に加えて渋野や古江が米LPGAで大活躍してくれたら、今後、日本企業が米LPGAの大会スポンサーに名乗りを上げることも、あるのかもしれない。タイトル・スポンサーではないとしても、何かしらの形で米女子ツアーと日本市場との関連性が強まる可能性は高い。
米LPGAからも米メディアからも、そんな熱く大きな期待がQシリーズを突破した渋野や古江に寄せられているからこそ、Qシリーズが昨季の重大ニュースの1位に選ばれたのだ。言い換えれば、彼女たちには米ゴルフ界の救世主になることが期待されている。
ツアールーキーながら大きな期待を寄せられている渋野と古江
渋野も古江も米LPGAに初めて本格参戦しようとしているチャレンジャーであり、外国人ルーキーである彼女たちに寄せられているそうした期待は、あまりにも多大で重すぎる。

いわば、渋野と古江には、挑戦者と救世主の両方を同時にこなすことが求められているわけで、それは、考えただけでも気が遠くなるほどの難行のはずである。
しかし、スマイルを輝かせる渋野や、肝の据わったゴルフを見せる古江なら、そんな離れ技をやってのけるかもしれないではないか。チャレンジャーでありながら、米女子ゴルフを盛り上げ、スポンサーを呼び寄せて米女子ツアーを繁栄させる救世主になってくれるのではないか。
戦う前から、それだけ期待されていることは、プレッシャーかもしれないが、光栄でもあるはずだ。
日本の挑戦者が米国で米女子ゴルフの救世主になることを、心から祈っている。