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コラム

米ツアーで存在感増す「統計のプロ」 選手にゲームプラン授ける“頭脳”の仕事とは?【舩越園子の砂場Talk】

2022.03.02 舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
砂場Talk(バンカートーク) 米国男子ツアー

世界最高峰の米PGAツアーで頂点を目指す選手には、キャディーやスイングコーチ以外にもさまざまなスタッフが関わっている。そんな中でも最も新しい仕事の1つが「統計のプロ」。彼らはどう選手をサポートし、パフォーマンスを向上させているのだろうか?

メンタルトレーナーに続いて登場した「重要な助っ人」

 その昔、メンタルトレーナーの存在は欧米ゴルフ界でもあまり知られておらず、米ツアーでいち早くメンタルトレーナーを付けたデービス・ラブが周囲から奇異の目を向けられた時代もあった。

PGAツアーでは「ショットリンクシステム」を使って選手の1打1打を記録。データ解析は格段にしやすくなった 写真:Getty Images

 しかし、メンタルなゲームであるゴルフにおいて、メンタルトレーナーが果たす役割がきわめて大きいことが徐々に理解されていき、今ではメンタルトレーナーは選手を支える重要な「助っ人」として、大半の選手のサポートチームの一員になっている。

 そして、この10数年、トッププレーヤーのサポートチームには、もう1人、新たな「助っ人」として、ある別のプロフェッショナルが加えられつつある。

 あれは2013年の終わりごろだった。2年連続で年間2勝を挙げ、光り輝いていたブラント・スネデカーに好調の秘訣を尋ねた。すると彼は「統計のプロのおかげだ」と明かしてくれた。

 スネデカーが「統計のプロ」と呼んだのは、マーク・ホートンなる英国人のことだった。選手のパフォーマンスに関するあらゆるデータを集め、それらを分析し、その選手に最適な戦略や戦術を数学的に見出して指導する専門家だ。

 英国出身のイアン・ポールターから紹介され、米ツアーで最初にホートンを雇ったスネデカーの獲得賞金総額は、10年の約160万ドルが11年には約360万ドルへ、2012年には約500万ドルまで上昇。フェデックスカップの年間王者にも輝いた。

 そんなスネデカーの成功例を目にして、ザック・ジョンソンやジェイソン・デイなど多くの米ツアー選手たちもホートンにデータ解析を依頼した。そして、ホートンの助言に基づくゲームプランやコースマネジメントを実践し、次々に成功を収めていった。

 かくして、米ツアーでは「統計のプロ」の存在が認められるようになった。

プレーヤーとして限界でもゴルフIQを誰かのために生かしたい

 ホートン登場からほぼ10年が経過した今、米ツアーでは新たな「統計のプロ」が秘かなる人気を集めている。

 ハンター・スチュワート、28歳。以前は全米屈指のトップアマチュアで、15年ウォーカーカップ(米国対英国・アイルランドの男子アマチュア対抗戦)にはブライソン・デシャンボーらとともに出場した実績もある。

 同年にプロ転向し、早々にPGAツアーに挑んでトップ10入りも果たした。しかし、16年からはスイングをいじったり、飛距離を伸ばそうと試行錯誤しているうちに自分を見失い、出口の見えないスランプへ。挙げ句に、17年にスキーで右ひざを故障。

 それでも這い上がり、19年には下部ツアーに挑んだ。しかし「もはやプレーヤーとしての自分に限界を感じた」そうだ。

 とはいえ、そのときスチュワートが感じたのは肉体的限界であり、自身のゴルフにおける観察力や考察力、分析力や判断力には依然として自信があった。

「僕のゴルフIQを誰かのために生かすことはできないだろうか。そうだ、僕はトッププレーヤーの頭脳になろう」

 そう思い付いたスチュワートは、その日から「統計のプロ」になることを決意し、動き始めた。PGAツアーが誇るショットリンクから膨大なデータを引き出して解析し、助言するサービスを、最初はミニツアーや下部ツアーの選手たちに無料提供。

 すると、スチュワートのサービスは誰からも喜ばれ、すぐに口コミで噂が広がった。19年の秋にはPGAツアーからも正式にクレデンシャルが発行され、会場入りが許可された。

 PGAツアーの会場でスチュワートがまず出会ったのは、大学ゴルフの大会でしばしば腕を競い合ったかつてのライバル、マーベリック・マクニーリーだった。スタンフォード大学出身で頭脳明晰、日ごろから数学的アプローチでゴルフを考えるマクニーリーは、すぐに「統計のプロ」に興味を抱き、スチュワートの解析サービスを受け始めた。

「このホールは攻めにくい。だから嫌いだ」とマクニーリーが言えば、「なぜ攻めにくいと感じるか?」「なぜ嫌いだと思うか?」の答えを、スチュワートはデータ収集と分析によって見出した。

 そして、マクニーリーが最も得意としている9番アイアンを最大限生かしつつ、そのコース、そのホールを攻める詳細なゲームプランを作り上げ、マクニーリーに実践させた。

 その効果は歴然だったそうで、マクニーリーは「これほど素晴らしい仕事をするスチュワートは、僕専用の『統計のプロ』として独占したいぐらいだ」。

 もちろん、それは半分は冗談、しかし半分は本音だったのだろう。

両手を広げて迎え入れるからこそ新たな分野の「プロ」が生まれる

 ともあれ、スチュワートにデータ解析や助言を依頼する米ツアー選手はどんどん増え、今ではスコット・ストーリングス、マシュー・ネスミスといった若手選手10数人がスチュワートの「クライアント」になっている。

 スチュワートはトーナメントウイークの月火水に試合会場でクライアントの選手と一緒にコースを歩き、練習ラウンドに付き添い、選手の言葉や意見、感じ方を聞き取る。

 水曜の夜には試合会場から自宅へ飛んで帰り、木曜から日曜はテレビ観戦しながら取れるだけのデータを自ら取り、ショットリンクのデータと照らし合わせながら膨大な解析作業を行なう。

 そして翌週、解析結果を携えて次なる試合会場へ赴き、そこで再びクライアントの選手と向き合い、結果を伝え、一緒に歩き、意見を吸い上げ、そして再び、それらを解明したり解析したりの作業に取り掛かるのだそうだ。

 その昔、まだ存在価値が理解されていなかったメンタルトレーナーをPGAツアーは大きな心で試合会場へ迎え入れ、その結果、メンタルトレーナーやメンタルトレーニングの重要性がゴルフ界においても認められていった。

 それと同じように、今度は「統計のプロ」という職業が生まれ、その存在の重要性が認められつつある。

 実績がないうちから、そうした人々を「ウエルカム」と両手を広げて受け入れてきたPGAツアーの心の広さがあったからこそ、新たな何かに特化されたプロフェッショナルの「市民権」が確立され、それが選手たちのさらなる向上につながっている。

「統計のプロ」が秘かなるブームとなった背景には、そんな経緯とストーリーがあった。

 米ツアーや世界に挑む男女双方の日本人選手たちにとっても、「統計のプロ」は、きっと頼もしい「助っ人」になるのではないだろうか。

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