車を持たない若者・女性が他のショッピングのついでに立ち寄れる
東京・新宿が“ゴルフの街”に生まれ変わろうとしています。

高島屋新宿店が9階のゴルフ売り場を「Golf Maison(ゴルフ・メゾン)」としてリニューアル。同売り場内では既に、2500本のクラブを揃えた「有賀園ゴルフ THE CLUB」が3月16日からオープンしました。4月20日のグランドオープン時には、高感度な15のウエアブランドも揃い、ゴルフ用品約300平米、ゴルフウエア約700平米合わせて約1000平米と、関東の百貨店では最大級のゴルフ売り場となります。
ゴルフはコロナ禍で3密を避けるスポーツとして、若い世代や女性を中心に80万人以上が新規や復活ゴルファーとして参入したと推計されています。ゴルフ場は平日を含めて盛況で、練習場はなおさら若者や女性の姿が目立つなど、ブームと言っていい状況になっています。こうした顧客層の変化が、百貨店が都心に大型ゴルフ売り場を誕生させる要因になったことは間違いありません。
従来のような大型の郊外店は街道沿線で車がないと行けませんでしたが、都心の大型店は車を持たない若い世代、女性が気楽にアクセスできます。心理的にもゴルフの専門店は初心者には敷居が高い印象を持っている人も多かったですが、この点も新宿という土地柄なら他のショッピングや食事のついでに立ち寄れる気軽さも大きいと言えます。
高島屋新宿店では2打席の試打ブースもあり、試打や計測、フィッティングもできます。ただ最近は、お店で試打するなどして品定めをしてもその場では買わず、ECサイトでより安い価格で目当てのクラブを購入するという流れもあります。
こうした「ショールーミング」と呼ばれる消費者の行動は、ゴルフショップに限らず実店舗を構える小売業全体にとって頭の痛い問題です。このような逆風の中で実店舗が取り得る対応は、商売の基本である「接客」に尽きると考えられています。
ゴルフであれば、クラブやウエアを売るだけでなく、顧客のゴルフライフのサポートに徹して「ゴルフ用品を買うのであれば、あのお店の信頼できるあの店員に相談してから」となることが、高額な家賃を払う実店舗がECサイトに対抗する最良の手段ということです。
都会の中で「時間を消費できるスペース」としてゴルフは有効
高島屋新宿店・企画宣伝部の広報・PR担当、吉岡真夏氏は、この関東の百貨店で最大級となるゴルフ売り場のコンセプトについてこう説明します。
「これまで当店をご利用くださっていたお客様、新しくゴルフを始めた方、またはゴルフに関心をお持ちでない方にもお立ち寄りいただいて、シミュレーションゴルフやパターをお楽しみいただき、百貨店ならではのゆったりとしたスペースで、時間を過ごしていただけましたら」
筆者もこの売り場に行ってみましたが、売り場の中で40平米はあるパター売り場のグリーンで、買い物客が時間を忘れてパターを選んだり、計測器でパッティングのストロークを確認する姿が見られました。
百貨店の戦略として、お店の中でいかに時間を消費してもらうかが、ひいては商品の購買・消費につながるとの考え方なのでしょう。そのような意味で、ゴルフ売り場は大人の遊び場として都会のオアシス的な存在になり得ます。また、年齢や男女を問わず引き付けるゴルフというスポーツの特性が、ゴルフ売り場そのものの収益を期待するだけにとどまらず、百貨店の中で集客の戦略的な存在となることが期待されているのでしょう。
実際、高島屋新宿支店長の難波斉執行役員はTBSテレビのインタビューで、リニューアルしたゴルフ売り場について「需要が拡大していることと、時間を消費できるスペースという意味では、今後非常に有力なコンテンツ」と期待を口にしていました。
新宿はこの高島屋新宿店だけでなく、伊勢丹新宿本店もゴルフ売り場をリニューアルします。4月にはスポーツ専門店のアルペンがJR新宿東口に延べ床面積1万2300平米の超大型スポーツ専門店「アルペンTOKYO」をオープンし、この中には他のスポーツとともにゴルフ専門店「ゴルフ5」の大型店も入ります。
コロナ禍を受け、3密を避けられるスポーツとして若者や女性に人気となったことで、都内でゴルフショップといえば上野・御徒町といった時代から、若者の街・新宿がその中心となることも、時代の流れと言えるのかもしれません。