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「明日目覚めたら、また挑み直す」タイガーが世界に見せた本当の“マスターズの奇跡”【舩越園子の砂場Talk】
スコッティ・シェフラーの優勝で幕を下ろしたマスターズ。一方で最注目はツアー復帰したタイガー・ウッズがどれだけやれるのか。ウッズのキャリアのほとんどを見てきたゴルフジャーナリストの舩越園子氏はどう見たか。
「ウッズの名前がずっと載っている」
タイガー・ウッズにとって24回目となった今年のマスターズは、彼が出場できたこと、戦えたこと自体が、そもそも「奇跡」だった。
だが、「出る以上はW(Win=優勝)を目指す」を信条としてメジャー15勝を含む通算82勝を挙げてきたゴルフ界の王者だからこそ、ウッズも世界中のファンも、彼が優勝争いに絡むことを本気で期待し、そんな「さらなる奇跡」が「タイガーなら起こるかもしれない」と本気で信じたように思う。
いや、誰もが、そう信じたかったのだと私は思う。
2021年2月のあの壮絶な交通事故から、わずか14カ月。だが、事故当初は命すら危ぶまれ、重傷を負った右足は切断さえ検討されていた。
再び歩くこと、再びゴルフをすることができるようになるかどうかさえ分からなかった状況から、わずか508日で戦線復帰したことは、まさに“ミラクル”だった。
マスターズの出場者リストに「ウッズの名前がずっと載っている」と、米国のファンやメディアが期待混じりに騒ぎ始めたのは、3月に入ってからだった。
「マスターズで勝てると思うか?」「I do.(そう思う)」
フロリダのホームコース、メダリストGCで「タイガーが歩いて練習ラウンドしている」「キャディーのジョー・ラカバを伴って練習しているのは、本格復帰が近い証拠だ」と、目撃談が次々に出回った。
その数日後、今度はジョージア州オーガスタのローカル空港にウッズのプライベートジェットが着陸した場面がパパラッチによって捉えられ、それから小1時間後、ウッズがオーガスタナショナルGCを長男チャーリーくんやジャスティン・トーマスと歩いて回ったことが米メディアによって大きく報じられた。
それでもウッズ本人からは「マスターズに出る」という言葉はなかなか発せられず、世界中がその一言を今か今かと待っていた。
その一言を一番口にしたかったのは、本当はウッズ自身だった。だが、右足が72ホールに耐えきれるかどうか、戦い通せるかどうかの判断はなかなかできず、だからウッズは「出るよ」と言いたくても言えなかった。
しかし、マスターズ・ウイークが始まろうとしていた4月3日の日曜日、ウッズがツイッターで発信した「これからオーガスタへ行く」の一言は、「出るかどうかの判断は、試合が始まるときになる」という条件付きだったにもかかわらず、世界のゴルフ界を喜びとともに駆け抜けた。
そして、会見が行なわれた5日、ウッズが口にした「今のところ、プレーできると感じている」の一言は、これもまた「今のところ」という条件付きだったにもかかわらず、「タイガーが出る」ことが確定したかのように、ブレーキング・ニュース扱いで世界を駆け巡った。
さらには「勝てると思うか?」の質問にウッズが「I do.(そう思う)」と答えたことで、ウッズのマスターズで戦線復帰するという奇跡への期待は、ウッズ優勝というさらなる奇跡への期待へ発展。ウッズ・フィーバーは最高潮へ達した。
「W(勝利)」と「WD(棄権)」の間で揺れた4日間
いざ、初日。ウッズはピンクのシャツと黒のパンツ姿で現れ、筋肉隆々であることが一目瞭然だった上半身は、完治していない右足に大きな不安が残る分、その不安を少しでも補おうと考えたウッズが上半身を鍛え抜いてきたことを如実に物語っていた。
一見、普通に歩いているようで、彼の右足は歩けば歩くだけ腫れ上がり、痛みも増す状態。「毎日、氷風呂でアイシングだ」「必要なのは、たくさんのアイス(氷)だ」と語るウッズが初日を1アンダー、10位タイで発進したときは、ウッズがかつてのウッズと同じように本気で「W」を目指し、それが不可能ではないことを誰もが感じた。
しかし、その一方で、右足の腫れも痛みも増していく現実の中、ウッズ自身は常に「WD(棄権)」を余儀なくされる可能性と常に隣り合わせのぎりぎりの状態で戦っており、グリーン上でパットのラインを読む際も、しゃがむことができず、中腰が精一杯。
10位タイで発進した初日と19位タイで予選通過を果たした2日目は、マスターズでの戦線復帰を目指して必死の努力を積んできたウッズに神様が授けたご褒美だったようで、右足をひきずるように歩く姿がどんどん露わになっていった週末2日間は、どちらも自己ワーストの78を喫し、「W」からは、どんどん遠のいていった。
「誰もが日々、それぞれのチャレンジに取り組んでいく」
通算13オーバー、47位は望んでいた順位ではもちろんなかった。
だが、以前と変わらぬサンデー・レッドシャツに身を包み、変わらぬ戦意を全身で示しながら戦ったウッズが、18番グリーンへ向かって、右足をやや引きずりながら上り傾斜を歩いていったとき、グリーンを取り巻いていた大観衆はスタンディングオベーションで彼を迎えた。
かつては優勝の「W」だけを目指したウッズが、このマスターズでは途中棄権の「WD」と常に背中合わせの状態で、痛みに耐え、アイシングを繰り返し、右足をひきずりながらも歩き通し、4日間を戦い切った。
そんなウッズにオーガスタナショナルの大観衆も世界中のファンも、誰もが惜しみない拍手を送り、彼の「奇跡のマスターズ」は静かに幕を下ろした。
そのドラマを目の当たりにして、心に一番刺さったウッズの言葉は、自己ワーストの78を叩いた3日目のラウンド後、優勝の「W」から、すっかりかけ離れながらも、最終日を目指して彼が口にした、こんなフレーズだった。
「僕は毎日、戦っている。毎日がチャレンジ。誰もが日々、異なるそれぞれのチャレンジに取り組んでいく。明日目覚めたら、僕はまた、新しい何かを目指して挑み直す」
その姿勢を、全身全霊をかけて世界に見せてくれたこと、伝えてくれこと。
それこそが、タイガー・ウッズの「マスターズの奇跡」だった。
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