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何がノーマンを混迷の新ツアーへと駆り立てるのか?「なるほど」と「不可解」が同居する半生
世界のゴルフ界を揺るがしている新ツアー創設への動き。その中心人物であるレジェンドゴルファー、グレッグ・ノーマンは、毀誉褒貶の激しい人物でもある。果たして何がノーマンを駆り立てるのか?
世界のゴルフ界を混乱させているノーマンの原点とは?
PGAツアーの大物選手たちが、こぞってPGAツアーに忠誠を誓い、グレッグ・ノーマン率いる新ツアー「リブ・ゴルフ・インビテーショナル・シリーズ」には「行かない」「出ない」という意思を示してからも、依然として世界のゴルフ界はノーマンに振り回されている。
そんな中、どんな意図があったのかは不明だが、先日、米ESPN局が、よりによって「グレッグ・ノーマン特集」を放送した。
番組の内容は、単純に眺めれば、ノーマンのキャリアを振り返るドキュメンタリー番組。
そして、描き出されていたドキュメントは、実に秀逸。まだ私自身が日本で大学生活を送っていた時代の出来事も多々含まれており、それらを映像でまじまじと眺めた私は、思わず「へー」と引き込まれていった。
メジャー最終日首位からの敗北が続く「サタデースラム」
ゴルフのメジャー4大会を同一年にすべて制することは「年間グランドスラム」と呼ばれている。同一年ではなく、キャリアを通じてメジャー4大会を制するのは「生涯グランドスラム」。
そして、タイガー・ウッズが2000年の全米オープンを皮切りに、全英オープン、全米プロを制し、年が明けると2001年マスターズでも勝利し、カレンダー・イヤーをまたいでメジャー4大会を制したことは「タイガースラム」と呼ばれ、これまた偉業とみなされている。
だが、その昔、「サタデースラム」という、ある意味、屈辱的な「スラム」を達成してしまった選手がいた。それが、ノーマンだった。
1986年マスターズは、帝王ジャック・ニクラスが46歳にして優勝し、メジャー18勝目を挙げた歴史的な大会として知られているが、あのとき最終日を単独首位で迎えたのは、ニクラスではなくノーマンだった。
ニクラスはノーマンから4打も遅れてスタートしたが、2人の差は徐々に縮まっていき、最後はニクラスが9アンダーで逆転勝利。ノーマンは1打及ばず、2位タイに甘んじた。
その年、ノーマンはシネコックヒルズで開催された全米オープンでも3日目を単独首位で終え、優勝に一番近い位置で最終日を迎えた。しかし、終わってみれば、勝利したのはレイ・フロイドで、最終日に75を叩いたノーマンは12位に終わった。
そんなふうに、何度も何度もメジャー初優勝に王手をかけては惜敗に終わったノーマンは、同じ1986年にインバーネスクラブで開催された全米プロでも、54ホールを終えて首位に立ったが、最終日はボブ・トウェイに破れてしまった。
年間4つのメジャー大会のうちの3大会で3日目を首位で終えながら、いずれも最終日に敗北したノーマンのことを、米メディアは「サタデースラム」「3(スリー)ラウンド・プレーヤー」などと呼んだそうだ。
全米プロの最終日、勝敗を分けたのは、トウェイが決めた奇跡のチップインだった。しかし、敗北会見に臨んだノーマンに米メディアは「敗因は、キミがまたまたチョークした(ビビった)からかい?」などと失礼な質問を投げつけ、ノーマンは「僕がチョークして負けたんじゃない。ボブが素晴らしいチップインを決めて勝ったんだ。アナタたちは何を言っているんだ、信じられない!」と激しい形相で怒声を上げた。
まだ私が学生だったあのころ、世界のゴルフ界では、そういう経緯ややり取りがあったことを、私は今回のESPNの特集番組で初めて知らされ、「なるほど」と思った。
何が「なるほど」なのかと言えば、そんな屈辱的な称号を授けられ、煮え湯を飲まされたノーマンの胸の中で悔しさや情けなさ、報われない気持ちが膨らんでいったことは疑いようもなく、そうした諸々が積りに積もった結果、彼がゴルフの戦いとは少々異なるアングルからの戦いに手を染めていったことが「なるほど」と頷けたのだ。
「グレッグ、明日の最終日は……」ニクラスの金言
しかし、それとは逆の意味で「なるほど」と頷かされた場面もESPNの特集の中には、ちゃんと含まれていた。
やはり1986年。ターンベリーで開催された全英オープンで、ノーマンはこのときも3日目を終えて単独首位に立っていた。ちなみに、そのときノーマンから1打差で2位に付けていたのが中嶋常幸だった。
最終日を明日に控えた土曜日の夜のこと。その年のマスターズでメジャー18勝目を挙げたニクラスがレストランで食事をしていると、そこにノーマンが入ってきたそうだ。
オーガスタナショナルでノーマンを逆転で抑え込み、自身がグリーンジャケットを羽織ったニクラスは、悲願のメジャー初優勝に手を伸ばしては惜敗を繰り返す若きノーマンを何とかして勝たせてやりたいと、そのとき思ったそうだ。
「グレッグ、まあ、ここに座りなさい」
ニクラスはノーマンを傍に座らせ、こんなアドバイスをしたという。
「グレッグ、明日の最終日は、グリッププレッシャーに気をつけなさい」
過度に緊張すると、ついついクラブを強く握り過ぎてしまったり、逆に手を緩めてしまうこともある。
しかし、どんなときもグリップの握り方は「強すぎず、弱すぎず」。そこに意識を集中することが、万事を良き方向へ導くのだとニクラスはノーマンに説いて聞かせたそうだ。
いざ最終日。ノーマンはサンデーアフタヌーンを見事に戦い抜き、2位に5打差で圧勝。ついに悲願のメジャー初優勝を達成したノーマンは、ウイニングパットを沈めた直後、誰よりも先にニクラスに挨拶をしたい一心で、18番グリーン脇にそびえていたテレビ塔へ一目散に向かっていった。
ノーマンがテレビ塔の下から見上げると、テレビ塔の中で解説をしていたニクラスが窓から上半身を乗り出し、落ちそうになりながら、ノーマンと握手し、ハグし、勝利を喜び合った。
まるで仲の良い兄弟のように、ニクラスはノーマンの頭を撫でたり、握手をしたり。ノーマンも無邪気で素直な笑顔を輝かせながら、「ジャック、ナイスアドバイスをありがとう。おかげで勝つことができた」とお礼を言った。2人とも涙を浮かべていた。
その場面は、誰もがゴルフの良さや素晴らしさに心を打たれるであろう素敵な1シーンだった。
2人はマスターズで真剣勝負を戦い合った同士だったからこそ、心の底から相手を思い合うことができ、心が通じ合い、そして讃え合うことができたのだと思う。
そんな感動を味わったからこそ、ノーマンは「グレート・ホワイトシャーク」と呼ばれる輝かしいビッグスターになることができたのだろう。だからその場面は、そういう意味で「なるほどね」と頷ける場面だった。
勝ってナンボのゴルフ、稼いでナンボのプロゴルファーと考えれば、サウジアラビアの潤沢なオイルマネーで米欧両ツアーの選手たちを引き寄せようとしている昨今のノーマンの動きは、現役時代に何度も辛酸を舐めた彼だからこそ、なるほどと「解せる」動きだ。
しかし、ニクラスと交わしたあの素敵なハグや感動をノーマンが忘れるはずはないのになあと思えば思うほど、世界のゴルフ界の秩序をかき乱しながら、今、彼がやっていることには、淋しさとむなしさを感じさせられる。
ゴルフ界のレジェンドは、後世のゴルファーたちが振り返ったときに、「いい人だった」「素敵な感動を授けてくれた人だった」と思われる人物であってほしい。
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