“口は災いの元”ミケルソン、ガルシア…メジャーチャンピオンたちの舌禍が情けない

今週始まる全米プロへの出場をディフェンディングチャンピオンのフィル・ミケルソンが辞退した。原因は自らの舌禍。最近、メジャー覇者たちの無責任な放言が目立つようになったことを嘆く声は後を絶たない。

前年覇者がメジャーに出られなかった4例は傷病や死亡のみ

 今週19日から開幕する全米プロゴルフ選手権で前年覇者のフィル・ミケルソンの姿は見られない。

「悪童」と呼ばれた若い頃のような性格に逆戻りしてしまったかのようなセルジオ・ガルシア 写真:Getty Images

 ゴルフのメジャー4大会すべてにおいて、ディフェンディングチャンピオンが連覇に挑むことができなかったケースは、過去にはわずか4例しかない。

 最も近年では、2015年全英オープン直前に友人たちとサッカーに興じて足首を故障し、欠場せざるを得なくなったローリー・マキロイのケースが記憶に新しい。

 2008年全米プロを欠場したタイガー・ウッズも故障(右膝)が理由だった。1999年全米オープンを制したペイン・スチュワートが2000年全米オープンに挑むことができなかったのは、優勝から3カ月後に飛行機事故で亡くなってしまったからだった。

 今週の全米プロへの出場を自ら辞退したミケルソンの欠場理由は、もちろん死亡ではなく、傷病でもないが、明確な理由が明かされたわけでもない。

 だが、傍から見れば答えは明白。「口が災いした」ことで、彼はメジャー大会連覇に挑む貴重なチャンスを自ら手離す結果になった。

 ミケルソンの発言が問題視された一件については、ゴルフファンの方々は、すでにご存じのことと思うが、コトの経緯をいま一度振り返ると、PGAツアーとグレッグ・ノーマン率いる新ツアーの双方に対してミケルソンが昨年11月のインタビューで口にした侮蔑的発言が、今年2月に公表されるやいなや、その発言は世界のゴルフ界を駆け巡り、大騒動へ発展。

 ミケルソンはほぼすべてのスポンサー契約を失い、謝罪声明を出すと同時に一時休養を宣言。以後、公の場に姿を現わすことなく、もちろん試合にも出ていない。

 今週の全米プロにも、6月の全米オープンにも、さらにはノーマンの「リブ・ゴルフ・インビテーショナルシリーズ」初戦のロンドン大会にもエントリーしたことが報じられた際、ミケルソンのエージェントは「あらゆる選択肢を準備したにすぎず、必ずしも出場するわけではない」と補足していた。

 そして、最終的にミケルソン本人が「全米プロには出ない」という結論を出したというわけだ。

 残念なのは、彼が「出ない」という結論を出したことではなく、彼が残念な発言をしてしまったことだ。

 スター選手、大物選手、スポットライトの下で人々の視線を集める人物、集めがちな人物が発する言葉には、社会に対する影響力や重みがある。

 だからこそ、発言には慎重でなければならない。軽率に発してしまった言葉は瞬く間に拡散され、それが長い年月をかけて築き上げてきたものの崩壊にさえつながりかねない。

 ミケルソンの発言は、その最たる例となりつつあり、それが残念でならない。

ガルシアがPGAツアーからいなくなるならノーマンの手柄!?

 発言が大きく問題視された直近の例といえば、2週間前のウェルスファーゴ選手権でセルジオ・ガルシアが口にした大人げない発言が思い出される。

 クリークを越えて深いラフの中に消えたボールを探す際、クリークを渡る手立てを見い出したり、実際に渡って移動したりしていた時間が、ボール探しに与えられる3分間にカウントされるか、されないか。
ガルシアは「カウントされない」と考えていた。しかし、その場にいたルール委員は「カウントされる」「すべてが所要時間に含まれる」と考え、ガルシアが移動を始めたタイミングでストップウォッチを押し、3分が経過した時点で「時間切れだ。1ペナでドロップだ」とガルシアに言い渡した。

 その裁定に不服を覚えたガルシアは、即座に怒声を上げた。

「このツアー(PGAツアー)から離れる日が待ちきれないよ。ここから早く脱出したい。あと数週間もすれば、もうアナタなんかを相手にする必要はなくなる!」

 この日の夜、PGAツアーはルール委員の計測の仕方が誤りだったことを伝える声明を出した。つまり、ガルシアのほうがルールを正しく認識していたことがわかったのだが、時すでに遅し。

 ルールの認識の正誤はさておき、暴言を放ったガルシアに対する評価、評判は、すっかり地に堕ちてしまっている。

「ノーマンの新ツアーがガルシアを連れていってくれるなら、それは新ツアーによるゴルフ界への最大の貢献になる」

 米メディアの記事には、そんな記述も見られるほどだ。

唯一無二の「ザ・シャーク」から「単なる1匹のサメ」に!?

「口は災いの元」であることを、今度はノーマンが世界に示し、自分で自分の立場を一気に悪化させつつある。

 ノーマンが創始しようとしている新ツアー「リブ・ゴルフ・インビテーショナルシリーズ」の初戦は6月9日からロンドンのセンチュリオンGCで開催が予定されており、ノーマンは5月11日、欧米メディアを招いて「メディアデー」を開催した。

「Liv」の文字をデザインしたロゴマークが付されたバックスクリーンも用意され、そのスクリーンの前に座ったノーマンは、誇らしげな表情を輝かせながら、世界のメディアの質問に饒舌に答えていた。

 ノーマンのツアーを資金面で支えているのはサウジアラビアの政府系ファンドであることから、欧米メディアからはサウジアラビア国内で近年に起こった殺害事件や人権侵害など世界各国から激しく批判されている事件に対するノーマンの意見を求める質問が飛んだ。

 すると、ノーマンは「誰だってミスはおかす」「私は過去は振り返らない。前しか見ない」と語り、挙げ句に「私は政治家ではない。政治には関与しない」「サウジ政府と私は無関係」と言い放った。

 そんなノーマンの返答を米メディアは激しく批判し始め、米国紙USAトゥデイのウェブサイトには強硬な批判記事が掲載された。

「ノーマンは欲の塊、醜さの縮図だ。かつてThe Shark(ザ・シャーク)と呼ばれたノーマンは、もはやA shark(ア・シャーク)にすぎない」

「The」が「A」に変わり、シャークの頭文字が大文字の「S」から小文字の「s」に変われば、英語の意味合いは「唯一無二のすごいシャーク」から「大勢のサメのうちの単なる1匹」に格下げされる。

 かつて、敬意や憧憬の念を込めて「ザ・シャーク」と呼ばれたノーマンを、「そこらへんにいる単なるサメ」と呼び捨てた同紙の記事は、「そんなノーマンのツアーに参加しようとしている選手をサポートしているスポンサーは、契約を解消すべきだ」とも綴り、その対象となるべき選手として「ミケルソン、ガルシア」の名前を挙げている。

 ふと気づけば、自身の発言で自身の立場を悪化させたミケルソン、ガルシア、ノーマンが、揃いも揃って同じ方向を向いている。

 これは偶然ではなく、まさに必然。口は災いの元だが、その災いは偶発的に起こるわけではなく、発言を発する人物の人間性や思考や胸の内が反映され、何かをきっかけにして、発せられるべくして「口をついた」ものに他ならない。

 だからこそ、メジャーチャンピオンに輝いた選手たちが揃いも揃って自ら招いた舌禍が、あまりにも情けなく、悲しく、複雑な気持ちにさせられる。

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