「カネ」「対立」乾いた話ばかりの米ゴルフ界に潤いをもたらした名物キャスターと少年の交流物語 | e!Golf(イーゴルフ)|総合ゴルフ情報サイト

「カネ」「対立」乾いた話ばかりの米ゴルフ界に潤いをもたらした名物キャスターと少年の交流物語

グレッグ・ノーマンの新ツアー設立を巡る対立など、乾いた話題ばかりの昨今の米ゴルフ界だが、久しぶりに心に潤いを与える話題が届いた。マスターズ名物キャスターと彼に憧れる少年の9年にわたる交流の物語。

マスターズ覇者のカプルスは学生寮の同質

 昨今の米ゴルフ界はPGAツアーとグレッグ・ノーマンの新ツアーとの対立やビッグマネーになびく選手たちの動きなど、乾いた話ばかりが聞こえてくる。

1992年マスターズで優勝したフレッド・カプルス(左)と親友のジム・ナンツ 写真:Getty Images

 そんな中、心が潤う素敵なストーリーが久しぶりに届いた。

 アラバマ州バーミンガムに住むコー・マードックくんがハイスクール卒業式に出席する際に締めたネクタイにまつわる感動の物語が、米ゴルフ界で秘かなる話題になっている。

 マードックくんのネクタイの話をする前に、まず、この話を聞いていただきたい。

 みなさんは、ジム・ナンツという米CBS局のスポーツキャスターをご存じだろうか。ナンツは長年、マスターズ中継のメインキャスターとして実況を務めており、米ゴルフ界では「マスターズ中継と言えば、ジム・ナンツ」と言われるほど、彼の存在はゴルフファンの間に浸透している。

 ナンツの独特の優しく低いボイス、落ち着いた口調は、厳かでありながら華やかな「ゴルフの祭典」マスターズの雰囲気とうまくマッチしており、彼の実況は四半世紀以上もの間、米国の大勢の視聴者から愛されている。

 ナンツは1992年マスターズ覇者で米ツアー通算15勝を挙げたビッグスター、フレッド・カプルスの親友としても知られている。

 ナンツとカプルスはヒューストン大学の寮で同室だったルームメイトどうしだ。プロゴルファーを夢見ていたカプルスとスポーツキャスターを目指していたナンツは最初からとても気が合い、2人は夜な夜なマスターズ最終日の大詰めの場面を想定した「実況ごっこ」をして夢を膨らませていたという。

 やがて2人はどちらも夢を叶え、カプルスはPGAツアーで戦うプロゴルファーになり、ナンツはCBSのキャスターとしてマスターズ中継を担当するようになった。

 92年のカプルスのマスターズ優勝を実況したのもナンツだった。表彰式が終わり、優勝者のさまざまな行事を終えたカプルスがようやく宿舎に戻った日曜日の真夜中に、中継関連の仕事を終えたナンツがやってきて、今度はカプルスがナンツにグリーンジャケットを羽織らせたという逸話もある。

 そんなバックグラウンドを持つナンツのマスターズ中継は、だからこそ、大勢のゴルフファンから絶賛され続けている。

幼い孫のため恐るべき行動力を示した祖母

 冒頭の高校生、マードックくんが「僕もジム・ナンツのようなスポーツキャスターになりたい」という夢を抱いたのは、今から10年ほど前のこと。マードックくんは、まだ7歳だった。

 マードックくんの両親は「ナンツにお手紙を書いてみたら?」と息子に勧め、マードックくんはCBS局宛に手紙を出すと、ナンツからはサイン入りの写真を同封した返事が届き、マードックくんは飛び跳ねながら喜んだ。

 可愛い孫の夢を知った祖母は、あれこれ手を尽くし、翌年のマスターズの観戦チケットを3枚入手。そして、息子(マードックくんの父親)と孫を連れて2013年マスターズ観戦へ赴いた。

 オーガスタ・ナショナルの18番グリーン脇にはCBS局のTVタワーが据えられている。恐るべき行動力を示す祖母は、そのTVタワーの下に立っていたオーガスタナショナルの警備員に孫の夢の話、ナンツに手紙を出したら返信が届いた話を聞かせた。

 すると、その警備員はTVタワーの中にいたCBS関係者にその話を伝え、それが「伝言ゲーム」と化して、ナンツの耳に入った。

 そして今度は逆向きの伝言ゲームが起こり、「表彰式が終わるまで待っていてほしい」というナンツの声がマードックくんに届いたのだそうだ。

「ヒーローに会えるかもしれない」と興奮しきりだったマードックくんと父親と祖母は、あのとき届いたナンツの声は「まるで天の声のようだった」と振り返っていた。

 表彰式が終わったころには、オーガスタナショナルは日が暮れてすっかり暗くなっていたが、ナンツは約束通り、マードックくんを迎えに来た。

 そして、クラブハウスの一角にあるバトラー・キャビンへマードックくんを招き入れ、ほんの数十分前に優勝者のアダム・スコットがグリーンジャケットを羽織ったその場所にマードックくんを座らせて、しばし会話を楽しんだ。

 会話の最後に、ナンツは自分が締めていた紫色のネクタイを外し、ネクタイの裏面にサインペンで「コーくんへ。夢は大きく!」というメッセージを書いて、マードックくんにこんなことを言ったそうだ。

「コーくん、僕はね、個人的に自分のネクタイを誰かにあげるのがそもそも好きなんだけど、こうして最終日の夜にネクタイを誰かにあげることは、マスターズの伝統のようになりつつあるんだ。今夜、僕のこのネクタイにこのメッセージを込めて、キミに贈りたい。いつか、キミがハイスクールを卒業するときに、是非とも、このネクタイを締めてセレモニーに臨んでほしい」

ナンツが贈ったネクタイを締めて高校の卒業式へ

 それからもコーくんとナンツは手紙のやり取りを続け、すくすくと成長していったマードックくんは、あれから9年が経過した今年、ハイスクールの卒業式を迎え、迷うことなく、ナンツから贈られた紫色のネクタイを締めてセレモニーに出席。

 今年の秋からは、祖母の故郷であるノースカロライナ州内の大学へ進学することが決まっている。

「あの(13年の)マスターズでの経験があったからこそ、僕のゴルフへの愛が深まった。ジム・ナンツが僕に授けてくれた衝撃は、僕にとって本当に大きなものだった」

 ゴルフのTVキャスターを夢みる一人の少年と米国のゴルフ中継キャスターの代表的存在であるナンツの長年にわたる触れ合いのストーリーは、米国のゴルフ文化がなぜ深く、なぜ素敵で、なぜ長く愛されているかを物語っている。

 トッププレーヤーとトップアマのようなスポットライトを浴びているどうしの触れ合いではなく、ゴルフ中継を担当するキャスターとキャスターを夢見るフツウの少年の触れ合いだからこそ、このストーリーに心を動かされる。

名物キャスターと少年、9年前と今の2ショット写真

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