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- 開幕4戦は“敗者復活”“新星誕生”が2人ずつ あらためて感じるPGAツアーが築いてきた引き上げシステムの尊さ
PGAツアーは2024年シーズン開幕から4戦を消化。ハワイでの2戦は優勝経験者のカムバック、米本土に移っての2戦は大学生アマ、31歳のルーキーと、個性豊かなチャンピオンが誕生した。昨今はリブゴルフに押され気味だが、PGAツアーが築き上げてきた新人も一度は沈んだ選手も引き上げるシステムは依然としてゴルフ界に不可欠だ。
ハワイではスランプからカムバックした2人のベテランが躍動
2024年のPGAツアーは、これまで4試合が開催され、いずれもユニークなチャンピオンが誕生した。
その背景には、PGAツアーが選手のために設定しているさまざまなシステムが見て取れ、実際に選手たちの拠り所となっていることが、あらためてよく分かった。
今季開幕戦のザ・セントリーを制したのは、38歳のベテラン選手、クリス・カークだった。かつてのカークはPGAツアーで通算4勝を挙げ、2014年にはフェデックスカップの年間王者に王手をかけたほどのトッププレーヤーだった。
しかし、最終戦のツアー選手権でビリー・ホーシェルにタイトルを奪われると、翌年からは一転して絶不調となり、優勝からも優勝争いからも遠ざかっていった。そして、19年頃からはアルコール依存症に陥り、ツアーを欠場しがちになった。
カークの症状は悪化し、ゴルフクラブを握ることさえできなくなっていったが、愛妻と3人の子どもたちのために禁酒を誓い、必死にリハビリに励んで、なんとかツアーへ復帰した。そして、昨年2月のホンダクラシックで7年9カ月ぶりの復活優勝を挙げ、そして今年の開幕戦で再び勝利して、通算6勝目を挙げた。
カークは「家族や友人知人、ツアー仲間の励ましのおかげで復活できた」と振り返っていたが、彼が戦いの場へスムーズに復帰できたことは、直接的にはPGAツアーの公傷制度のおかげと言っても過言ではない。
そうした選手救済のためのシステムがPGAツアーに整っていて本当に良かったとつくづく思う。
今季第2戦のソニーオープンinハワイを制したのは、グレイソン・マレーという米国人選手だった。
最終日の優勝争いは大混戦となり、キーガン・ブラッドリー、アン・ビョンフン、そしてマレーの3人がサドンデスプレーオフへ突入。そして、最も長いバーディーパットを残し、最も不利に見えたマレーが、12メートルを見事に沈め、勝利を手に入れた。
マレーは30歳の米国人選手。17年のバーバソル選手権で初優勝を遂げたものの、その後は不調に陥ってシード落ちした。しかし、下部ツアーのコーンフェリーツアーを経て、今季からPGAツアーに返り咲き、カムバック早々に、いきなり復活優勝を果たした。
「ここまでの道のりは決してイージーではなかった。ゴルフをやめようと思ったこともあったが、ネバーギブアップの精神で頑張り続けてきた。ハードワークが報われたという想いでいっぱいだ。ゴルフの神様のおかげだ」
感無量の様子でそう語ったマレーだが、彼がPGAツアーに復帰することができた直接的な理由は、コーンフェリーツアーという下部ツアーがあり、その下部ツアーからPGAツアーへのゲートウェイが設定されていたおかげである。
下部ツアーはPGAツアーの傘の下に、あたかも当たり前のように存在しているせいか、その有難さが忘れられがちになる。下部ツアーはPGAツアーでシード落ちした選手が「都落ち」のように流れつく暗い世界のように思われることは多い。
だが、もしも下部ツアーがなかったら、シード落ちした選手たちは、草の根のミニツアーなどを転々としながらPGAツアーへの復活を狙う過酷な道をたどることになる。
そう考えると、マレーの復活は、PGAツアーの下に下部ツアーという優れた受け皿があってくれたおかげだったと言えるのではないだろうか。
エリートアマと31歳ルーキーが彗星のように現れる
今季第3戦のザ・アメリカンエクスプレスを制したのは、アラバマ大学2年生、20歳のアマチュア選手、ニック・ダンラップだった。ダンラップは21年の全米ジュニア、23年の全米アマチュアを制したトップアマチュアとして、ザ・アメリカンエクスプレスにはスポンサー推薦で出場していた。
昨今、PGAツアーの大会は、将来有望なアマチュアに積極的に推薦出場をオファーする傾向になりつつある。
ひと昔前のPGAツアーでは、たとえ成績は低迷していても、根強い人気を誇る選手にスポンサー推薦を出す傾向が強く、その代表例が、不調になってからのジョン・デーリーだった。
しかし近年は、未来のゴルフ界を担う若者に「少しでも早くPGAツアーを経験してもらおう」「1人でも多くの若者に推薦出場をオファーしよう」という流れになり、リブゴルフが創設されてからは、その流れが一層加速されている。
ダンラップは、ザ・アメリカンエクスプレスにも、次なるファーマーズインシュアランスオープンにも、スポンサー推薦で出るチャンスをもらい、そのチャンスを彼は見事にモノにしたことになる(注:後者は開幕前に棄権した)。
ところで、大学生ゴルファーと言えば、PGAツアーには全米のカレッジゴルフのトッププレーヤーにPGAツアー出場資格を授けるPGAツアー・ユニバーシティーというシステムがある。
これは、優秀な若者をPGAツアーに引き寄せ、確保するために創設されたシステムだ。大学ゴルフの世界からダイレクトにPGAツアーにつながるゲートウェイが設けられていることは、カレッジプレーヤーの大いなる励みになる。
今季第4戦のファーマーズインシュアランスオープンでは、フランス出身のマシュー・パボンが勝利を挙げ、PGAツアー初のフランス人チャンピオン誕生となった。
パボンは「ハイスクールからはアメリカに行った」そうだが、高校卒業後は大学には進学せず、フロリダ州内外のミニツアーなどで苦節7年を過ごした。
その後、欧州へ戻り、チャレンジツアーを経てDPワールドツアーの選手となり、昨年10月のスパニッシュオープンで初優勝。そして、DPワールドツアーのポイントランキングのトップ10には翌年のPGAツアー出場資格が付与されるという昨季から開始された新システムのおかげで、今季からPGAツアーメンバーになったルーキーだ。
31歳にして新人という現実からは、これまで彼がいかに苦労を重ねてきたかがうかがえる。しかし、もしもDPワールドツアーのポイントランキング上位10名にPGAツアー出場権が授けられるという新システムが導入されていなかったら、パボンはPGAツアーにデビューしていなかっただろうし、ファーマーズインシュアランスオープンで勝利を挙げることも、起こりえなかったことだろう。
DPワールドツアーからPGAツアーへ進むゲートウェイが創設された背景には、両ツアーがリブゴルフ対策のために手を取り合おうと誓い合った経緯がある。リブゴルフに対抗するために戦略的提携を結び、その延長線上で定められたのが、DPワールドツアーからPGAツアーへの夢の扉だった。
この扉のおかげで、日本の久常涼も今季からPGAツアー選手になることができた。
そして、PGAツアーにつながるゲートウェイは、それ以外にもある。昨年12月からは、コーンフェリーツアーのQスクール(予選会)でトップ5に入れば、そのままPGAツアーへ進むことができるようになり、一発勝負や一発逆転も夢ではなくなった。
昨今、PGAツアーはスター選手をリブゴルフに奪われ、輝きを欠いている。だが、そのぶん現在のPGAツアー選手をPGAツアーに留め、何かの理由で窮地に陥った選手を救済するため、そして未来のPGAツアーを担う選手を確保するために、PGAツアーはなかなか頑張っている。そして、頑張った人、頑張ったことは、いつか必ず報われる。
PGAツアーに輝きが戻る日は、必ず来ると信じたい。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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