日体大の後輩・中島啓太とアマチュア優勝を争う
河本力の名前があっという間にスコアボードの上位まで駆け上がっていった。

2日目に16番パー5で9を叩いたのが響き、首位と6打差の23位タイにいた河本。その悪夢が吹っ切れたのか、この日はスタートの1番パー5でバーディーを奪うと、なんと5番までバーディーを重ねていく。圧巻だったのは、12番パー5だ。ピンまで202ヤード地点から6番アイアンを握ると、ピン左約4メートルにナイスオン。そのパットを沈めてイーグルを奪った。結局、1イーグル、7バーディ、ノーボギーの63をマーク。首位と1打差の通算14アンダーでホールアウトした。
「毎日4アンダーを目標としているのですが、昨日は73だったので5打も足りませんでしたが、今日はその分を取り返せましたね」と、帳尻を合わせられたことに納得した様子の河本。63はジャスティン・デロスサントスと並んでこの日のベストスコアだが、その喜びよりも16番を無事に乗り越えられたことに対してホッとした気持ちのほうが強いようだ。
河本にとっての悪夢をもう一度振り返ってみよう。16番パー5は577ヤードあり、前日はティーショットでドライバーを選択。セカンドショットでフェアウェイウッドを選択したが右サイドへOBを打ち、打ち直したボールが今度は左サイドへ。これが運悪くロストボールになる。一応見つけることはできたのだが、ボールの捜索のために認められる3分間を数秒過ぎていたため、打ち直しとなった。
「しばらくは落ち着けなくて、引きずっていました」と言いながらも、その後の11ホール(河本はINスタート)は1アンダーで回っていた。
「今日は絶対にパーで上がるぞと決めていました。そのためにはティーショットではドライバーを捨てようと。2番アイアンなら確実にフェアウェイの真ん中をキープできる自信がありましたから」
河本にとっては、まさにこの日のクライマックスを迎えたが、同じ轍を踏むつもりは一切ない。ティーショットを2番アイアンで刻むと、2打目を4番アイアンでグリーン右手前のバンカーまで運ぶ。そこからの3打目を3メートルに寄せて見事バーディを奪った。前日のリベンジを果たしたことに、「大満足です!」と、河本もようやく笑顔を見せた。
真っ先にアドバイスを求めたのはツアー48勝の中嶋常幸
覆水盆に返らずというが、前日の「9」は相当こたえたようで、ラウンド後も気持ちが落ち着くことはなかったという。その悪夢を振り払うために河本が最初に頼ったのは、姉の結でもなく、コーチの目澤秀憲でもなく、なんと中嶋常幸だった。
「すごい可愛がってくれるし、心配もしてくれるので……」
この日も自分の体験談を交えながら、気持ちを切り替えるようにアドバイスしてくれたという。確かに中嶋も91年の日本オープンでは、最終日に7番パー4で8を叩きながらも、最後まであきらめずに戦い、須貝昇とのプレーオフに持ち込み大会2連覇を飾っている。河本にしてみれば、中嶋のアドバイスは心強かったに違いない。
もちろん、中嶋らのアドバイスだけで63をマークできたわけではない。今年の頭に持ち球をフェードボールに変えていたが、なかなか自分のものにならず、1~2か月前にドローボールへ戻すことにした。とはいえ、目澤コーチは松山英樹に帯同して米PGAツアーを転戦中のため、自力で修正を続けていたという。それがようやくものになり、今大会から安定感が増してきた。この日もドライバーが好調だったこともあり、セカンドショットでウェッジを持つことが多く、比較的容易にピンそばにつけることができた。
今大会で優勝することで、来季以降のツアー出場権を手にできるのはアマチュアの河本も同じだ。来季はツアープロに転向することを目指すだけに、その思いは強い。しかし「そんなに簡単なことではないと知っていますし、明日も4アンダーを目指すだけです」と、気負いはない。まずは、16番以外のパー5でしっかりバーディを獲ることを第一目標にする。