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批判も処罰も免れ高額賞金ゲットの日本選手は勝ち組!?「リブゴルフ」で一番得をするのは誰か?
先週ついにスタートした新ツアー「リブゴルフ・インビテーショナルシリーズ」。PGAツアーはもちろん、世界中のメディアからも批判の集中砲火を浴びる中、現時点では誰が得をした? 最後に笑うのは?
記者締め出し現場に「知らなかった」はずのノーマンが
グレッグ・ノーマン率いるサウジアラビア資本の新ツアー「リブゴルフ・インビテーショナルシリーズ」の初戦が、6月9日から11日の3日間、ロンドンのセンチュリオンGCで開催された。
開幕前も開幕後も、注目を集めたのは周囲の喧騒ばかりだった。
例えば、初日の様子を報じた米ゴルフウィーク誌のウェブサイトのトップニュースは、こんな話だった。
フィル・ミケルソンの昨秋の発言が今年2月に突然公表されて大騒動と化し、ミケルソンがほぼすべてのスポンサー契約を失って、しばし姿を消したことは、すでに周知の事実。
あの発言を公表した米国人記者アラン・シプナック氏は、さらなるミケルソン取材に意欲を燃やし、メディア・クレデンシャルをきちんと入手した上でセンチュリオン入りした。
だが、初日のラウンドを終えたミケルソンの囲み取材に加わろうとすると、数人のセキュリティーに阻まれたそうだ。
「なぜ僕だけが入れない? 誰の指示だ?」
セキュリティーたちは無言のままシプナック氏を遮り続け、シプナック氏が抗議のメールをノーマンに送ると、ノーマンは「全然知らなかった。教えてくれてありがとう」と返信してきたという。
ところが、シプナック氏とセキュリティーたちの押し問答の様子を捉えた動画がシプナック氏のスマホに送られてきた。その動画にはシプナック氏の背後から押し問答を凝視しているノーマンの姿がばっちり写っていた。
「知らなかったはずはないだろう? これを見ろ!」
シプナック氏は怒りの言葉を添えて、その動画をノーマンへ送り付けたそうだ。まるで子どものケンカである。
リブゴルフに対する米メディアの論調は、概して批判的で厳しい。だが、理詰めで批判していると感じられるものはむしろ稀で、感情的な批判が目立つ。
シプナック氏とノーマンのこのドタバタ劇だって、本来なら当事者以外のメディアがトップニュースで報じるような内容ではない。
だが、リブゴルフやノーマンをネガティブに伝える上では、もってこいの出来事ゆえに、ビッグニュース扱いになったのだろう。
ノーマンの恨みとPGAツアーのプライドが衝突
ゴルフ界に子どものケンカのような喧騒が広がっている背景には、大人たちの強い意地と高いプライドが交錯している。
もしもノーマンがリブゴルフ創設にあたり、米欧両ツアーと協調し、共存していく意向や姿勢を見せていたら、ゴルフ界は今、未曽有の拡大成長に向かって前進していたのかもしれない。
しかし、ノーマンには1990年代半ばごろに立ち上げようとしていた新ツアー構想を実現寸前でPGAツアーに阻止された恨みがあり、彼は自身の意地とプライドをかけて雪辱に燃えている。
逆にPGAツアーには、そんなことを許してなるものかという意地があり、これまで半世紀以上、世界一のプロゴルフツアーとして君臨してきたプライドがあり、それらがすべての思考と言動に先行している。
PGAツアーが現役選手17名のメンバー資格停止を決める日がやってくることを、かつて誰が想像しただろう。
いやいや、それ以前に、ジュニアゴルファーたちが夢見るPGAツアーのメンバーシップを自ら返上する選手が次々に10名も現れることを、かつて誰が予想したことだろう。
しかし、その10名には、それぞれの事情や想いがあるのだろう。
そして、メンバーシップは返上しないことを主張しているミケルソンには、ミケルソンなりの想いがあり、PGAツアーで通算45勝を挙げ、四半世紀以上にわたって貢献してきたという自負があるのだと思う。
新天地で再スタートを切ることは、そんなにも批判されることなのか。PGAツアーで必死に勝ち取ったメンバー資格や生涯シードをあっさり抹消されるほど、リブゴルフに出ることは悪いことなのか。
そんな疑問や怒りが胸の中でうごめいているからこそ、ミケルソンを筆頭とするリブゴルフ参加選手たちの言動はどんどん硬化し、エスカレートし、古巣やその周辺の人々にケンカを売る方向へ向かってしまうのだろう。
9.11テロの遺族が「リブゴルフ」参戦取りやめを直訴
事態を複雑にしているのは、米メディアや米国の人々がリブゴルフを激しく批判する背景に、ゴルフの領域を越えた事情があるという点だ。
米国には、9.11同時多発テロや米ワシントンポストに所属していたジャーナリストの殺害事件へのサウジアラビア政府の関与を疑い、厳しく非難している人々がいる。
米メディアからは、リブゴルフが「スポーツウォッシングである」と批判する記事も発信されている。
AFP通信によると、初戦が開幕した直後の10日(米国時間)には、9.11テロの遺族が米国人選手のミケルソンやジョンソンらの代理人に宛てた公開書簡で、「サウジ発の今回の取り組み(リブゴルフ)への参加を考え直してほしい」と訴えたそうだ。
そうした複雑な事情の中で、「どの主張、どの指摘が正しいか、正しくないか?」と問われたら、返答に窮する。
だが、少なくともゴルフそのものを報じる際に、一部のメディアや関係者、あるいはゴルフファンが「感情的になっているのではないか?」と問われたら、「なっていると思う」と答える。
冷静に考えれば、ゴルフの世界に「超」リッチな新ツアーが創設され、選手たちの戦う場が広がり、ゴルフファンが観戦できるものが増えるという話は、本来なら誰にとってもウエルカムな話のはずである。
しかし、さまざまな事情と感情が渦巻いているがゆえに騒動ばかりが巻き起こる。
新ツアーの創設という本筋とは別の事情が多々絡んでいるがために、人々の複雑な感情が絡み合い、その結果、大人たちが子どものケンカのような喧騒を巻き起こし、一層、感情的になっている。
日本ツアー選手権優勝3000万円、リブゴルフ15位タイ3400万円
そんな喧噪の中、リブゴルフができて一番得をするのは誰なのだろうかと考えた。
初戦はチャール・シュワーツェルが勝利を挙げ、優勝賞金400万ドルにチーム戦の賞金を加えた合計475万ドル(約6億4000万円)を獲得した。
2011年マスターズ覇者だが、16年以降は勝利から遠ざかり、世界ランキング126位まで後退していたシュワーツェルは、南アフリカ出身だが、長年、米欧両ツアーを主戦場にしてきた選手だ。
「すごいプレッシャーを感じていたけど、優勝できて、正直、とても、ほっとした」
そんなシュワーツェルを絶賛したのは、同じ南ア出身のレジェンド、ゲーリー・プレーヤーだった。
「チャールは実に賢く、ビッグマネーを手に入れた」
ところで、PGAツアー側かリブ・ゴルフ側かの意思表示をせず、その狭間にとどまっている日本ツアーから初戦に参加した3名の日本人選手は、そもそもPGAツアーともノーマンともサウジアラビアとも特別な関わりはないに等しく、彼らからとやかく言われる必然性もなく、米メディアから批判の対象にされることもなく、その意味では、今回の48名の出場者の中では最もノーマークに近い存在だった。
批判の目も向けられず、喧噪や騒動とも無縁。ストレスフリー、プレッシャーフリーで参戦できる環境に、少なくとも今はある。
13位タイになった木下陵介は36万ドル(約4800万円)、15位タイになった香妻陣一朗は25万ドル(約3400万円)、38位タイの谷原秀人は14万ドル(約1900万円)を獲得。
ちなみに6月上旬に開催された日本のメジャー大会、BMW日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップの優勝賞金は3000万円、2位は1500万円。
リブゴルフがいかに楽に稼げるかは一目瞭然。ちなみに、リブゴルフは予選落ちのない3日間大会ゆえ、出場しさえすれば、毎試合、最下位でも12万ドル(約1600万円)が必ず手に入る。
それを、どう捉えるか――。決めるのは選手。評価するのは周囲。
そんな諸々の事情と環境の下、最後に笑うのは誰なのか。そこに興味はある。
舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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