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周辺11市長がコースを貸さないよう嘆願も…リブゴルフ第2戦が何マイルも渋滞するほど盛況だった理由
6月30日~7月2日、リブゴルフの第2戦が米オレゴン州ポートランド郊外のパンプキンリッジGCで開催された。ポートランドや周辺の11市の市長が開催に反対の意を示したにもかかわらず、大会は大渋滞が発生するほど盛況。なぜだったのか?
オレゴンにPGAツアーのスターたちが来たことはなかった
賛否両論の大喧騒の中、米オレゴン州ポートランド郊外のパンプキンリッジGCで開催されたリブゴルフ第2戦(6月30日~7月2日)は、ブランデン・グレースが勝利を飾り、個人戦優勝賞金400万ドル(約5億4000万円)を獲得。日本の香妻陣一朗は6位に食い込み、80万ドル(約1億800万円)を手に入れた。
今大会の開幕前、ポートランド市とその周辺を合わせた11市の市長らは連名で、パンプキンリッジの所有会社であるエスカランテ・ゴルフへ嘆願書を送り、リブゴルフの開催コースとなることを辞退するよう求めていたという。
結局、その懇願は聞き入れられず、リブゴルフ第2戦が開催される運びとなると、9.11同時多発テロ犠牲者の遺族代表団は試合会場へ抗議に訪れ、リブゴルフとその背後にいるサウジアラビアに対する激しい批判の声を上げた。
遺族代表団は「フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソンらは、私たち遺族と向き合って話をする勇気は、きっとないだろうけど」と言いながら、リブゴルフ参加選手たちに遺族集会へ足を運んで遺族と対話することを必死に呼びかけていた。
そんなふうにリブゴルフに強い反意を唱える声が開催地やその周辺から聞こえてくる一方で、蓋を開けてみれば、パンプキンリッジには大勢のギャラリーが殺到し、最終日は周辺一帯の道路が大渋滞となってパニック状態に陥ったという。
リブゴルフの大会は48名の選手たちがショットガン形式(プレーヤーが1番や10番以外の途中のホールにも散らばり、同時にスタートすること)で一斉にティーオフするため、ギャラリーもほぼ一斉にコース入りを試みる。
そのため、試合会場の駐車場の入り口前にはギャラリーの車が長々と列をなし、その列はコース周辺からフリーウェイ(高速道路)の出口まで、さらにはフリーウェイ上まで延びていき、何マイルにも及ぶ長蛇の列ができて身動きできなくなったそうだ。
中には「お父さん以外の家族全員が車から降りて、フリーウェイ上からパンプキンリッジまで歩いて行った」といった人々もおり、運転手として車に残った人は「2時間も3時間もトイレにも行けず、フリーウェイ脇の茂みをトイレ代わりにした」そうである。
米国民の間からサウジに対する反感や反論が強く上がっている中で、そんな大渋滞に巻き込まれながらもリブゴルフ観戦に訪れた人々には、「ただ単純に私はゴルフが好き」「純粋にゴルフトーナメントを観たい」「トッププレーヤーのゴルフを目の前で見てみたい」等々、リブ批判派とはまた別の考えや思いがある様子だ。
米メディアによれば、「これまでオレゴンにPGAツアーのスター選手たちが来たことがなかったから是非とも見たい」という声もギャラリーからは聞かれたそうだ。
「米国民の誰もが税金を納め、その税金は政府や国を通じて他国へ何らかの形で供出され、そのお金が世界のどこかで武器や爆弾の製造に使われることだってある。だから、ゴルフ観戦を楽しむときに、その大会がどこのお金で成り立っているかを言い出したらキリがない」と自論を展開する人もいたという。
ロンドン郊外では約135億円の巨額支援を約束
そんなふうに、リブゴルフの初の米国開催となった第2戦の会場周辺は賛否両論が渦巻いて混沌としていた様子だが、初戦が開催されたロンドン周辺には、リブゴルフに賛同する声が広がり、感謝の言葉さえ多々聞かれたという。
なぜ、そうなったのかと言えば、開催コースとなったセンチュリオンGC近郊の2つのカウンティー(郡)に対し、リブゴルフが「環境保全やゴルフ環境の開発整備、ゴルフというゲームの発展のために役立ててほしい」ということで、100万ポンド(約1億6400円)の寄付したからである。さらにリブゴルフは、長期的に1億ドル(約135億円)もの巨額を支援していくことも約束している。
同カウンティーの人々は大喜びでリブ・ゴルフを絶賛している。
「ローカルコミュニティーが100万ポンドもの寄付をいただける機会は滅多になく、このビッグマネーがもたらすインパクトは果てしなく大きい」
「私たちのカウンティーはリブゴルフの決断と地域社会への貢献に感謝と敬意を表したい」
「リブゴルフが記念すべき初戦の場として私たちのロンドンを選んでくれたことに感謝し、ロンドン住人であることを誇らしく思う」
ロンドン近郊の人々にとって、すでにヒーロー的存在となりつつあるリブゴルフは、その創設当初から「Liv to Give(与えるためのリブ)」というスローガンを掲げ、社会貢献の精神を強くうたっている。
これは、PGAツアーが「Giving back(お返しをしよう)」というスローガンの下、長年に亘って社会貢献や地域還元に努め、それによってファン層を拡大し、米国社会や世界から絶大なる支持や支援を得てきた経緯を範としていることは疑いようもない。
PGAツアーやDPワールドツアーからスター選手たちをお金で引き抜いているなどと批判されているからこそ、大会開催地の人々や自治体を味方につけ、外堀から固めていく手法を、ノーマンや彼が率いるリブゴルフのエグゼクティブたちは熟知している。
軍関係者と家族は無料、教育・医療関係者は割引
第2戦の開催地となった米オレゴン州ポートランドに対しても、リブゴルフは100万ドル(約1億3500万円)を寄付。地域の環境整備や子どもたちの教育環境の充実、さらには海軍特殊部隊への支援金として「役立ててほしいと願っている」という。
初戦も第2戦も15歳以下の子どもたちの入場料は大人が同伴であれば原則無料。大学生や教育関係者、医療関係者はディスカウント料金が適用され、現役の軍関係者とその家族は入場無料。
これらもPGAツアーが行なっている社会貢献とファンづくりのための施策にならったものだが、こうした優遇があてはまる人々は「それなら観戦に行こう」となったようで、パンプキンリッジに殺到し、大渋滞とパニックを引き起こすほどの大盛況になった。
ロンドンでの初戦は8000枚の入場チケットを用意。ポートランドでの第2戦ではチケット数は未発表。だが、いずれにしても、チケットの枚数をはるかに上回る大観衆が訪れたことは事実。
そして、ばら撒かれたチケットが多い様子ゆえ、一体、何人が入場料を支払ったのかも定かではない。
だが、潤沢なオイルマネーに支えられているリブゴルフは、チケット収入の少なさを憂慮する必要はない。その代わりに、今後は詰め寄せる大観衆をスムーズに誘導・整理し、地域の道路を大渋滞に陥らせないよう上手にハンドリングしていく方法を考慮していくことが求められる。
PGAツアーは大会会場周辺の道路に掲げる道路標識や看板の1つ1つから工夫を凝らし、丁寧に地域に対応してきた。そうした面においても、リブゴルフはPGAツアーに真摯に学ぶ必要がある。
逆に言えば、すでにリブゴルフがさまざまな面でPGAツアーにならうべき段階まで来ているということになる。
第3戦(7月29~31日)は米ニュージャージー州にあるドナルド・トランプ所有のトランプ・ナショナルGCベドミンスターが舞台となる。
果たして、9.11テロが起こったニューヨークにほど近いニュージャージーの人々がリブゴルフを受け入れるのか、大勢のギャラリーが観戦に訪れるのか、リブゴルフをサポートするのかどうかを、静かに見守りたい。
舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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