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収入増で選手は「ウエルカム」のはずが!? PGAツアーの囲い込み策で問われる“4つの是非”
シーズン最終戦「ツアー選手権」開幕に先立ち、PGAツアーが新シーズンに向けた施策を発表。リブゴルフ対策としての選手に対する手厚いケアは諸手を挙げて歓迎されるかと思いきや、論議を呼んでいる部分もある。
「義務試合数は年間20試合」の是非
PGAツアーのジェイ・モナハン会長が8月24日の会見で発表した来季に向けての新施策は、ツアー史上初の試みが多々含まれる「大改革」だが、米ゴルフ界では、その是非が侃々諤々の論議を呼んでいる。
なぜ今、PGAツアーが斬新な改革を行なうのかと言えば、もちろん「リブゴルフ対策」であることは明らかだ。
しかし、リブゴルフへの対抗心が強すぎて、「大切なものが見失われかけている」といった批判も聞かれている。
これまでは、PGAツアーの選手たちに課されていた義務試合数は年間15試合だった。しかし、来季からは「トッププレーヤー」は年間20試合への出場が義務付けられることになった。義務試合数が15試合以上に増やされるのはツアー史上初である。
その20試合は、賞金が2000万ドル級に格上げされる12試合とメジャー4大会、プレーヤーズ選手権、新設される3大会の合計20試合という具合に指定されている。
なぜ義務試合がきっちり指定され、義務試合数も大幅に増やされたのかと言えば、「スター選手が勢ぞろいしている大会だからこそ、ファンは楽しみにして見てくれる」と考えるローリー・マキロイら選手の意見が反映され、採用された様子である。
「トッププレーヤー」とは、PGAツアーが昨年創設した新たなボーナス制度「PIP(プレーヤー・インパクト・プログラム)」の上位20名と定義されている。
ゴルフの実力も人気も高いスター選手が勢ぞろいする大会が年間20試合も開催されるとなれば、「毎試合、48名のスターが必ず揃う」とうたっているリブゴルフに「フィールド(顔ぶれ)」という点で勝ることができる。
そして、来季のリブゴルフは年間14試合ゆえ、PGAツアーが「スター勢ぞろい大会」を年間20試合とすれば、勢ぞろいする「頻度」という点でも勝ることができる。
しかし、そもそもPGAツアーを支持する選手や関係者、専門家からは「義務試合数は年間15試合のみで、しかも出場したいと思う試合を選んで出場できるという自由こそが、リブゴルフにはないPGAツアーの良さだ」と言われていた。
それなのに、今回の大改革によって指定された20試合の出場を義務付けることは「良さが失われるのではないか」「まるでリブゴルフ化ではないか」等々、懸念や批判の声も上がっている。
「PIPが指標」の是非
「トッププレーヤー」を定義するために用いられることになったPIPとは、PGAツアーが昨年、突然創設した新ボーナス制度だ。
選手たちのグーグル検索やSNSへの登場頻度といった人気度やアピール度を数値化したQスコアに基づいてランク付けし、ボーナスを支給する制度で、このPIPを創設した目的は、スター選手たちのリブゴルフへの流出を食い止め、PGAツアーにつなぎ止めるためだった。
来季からは人気度を測るQスコアを廃止し、ファンによる認知度を新たな指標とした上で、来季は現行PIPと新PIPの双方の上位20名が「トッププレーヤー」と定義され、年間20試合(以上)の出場義務が課されることになった。
義務試合数が増やされることと引き換えに、PIPのボーナス支給対象はこれまでの10名から20名へ倍増され、支給総額も5000万ドルから1億ドルへ倍増されることになった。
スター選手たちの懐が一層潤うことは「リブゴルフ対策」となりえるのだろう。しかし、問題視されているのは、「トッププレーヤー」というものがPIPに基づいて定義されることの是非だ。
人気度にせよ、認知度にせよ、スター性をランク付けするPIPのトップ20名と、ゴルフそのものの実力に基づくトップ20は「必ずしもイコールにはならない」と指摘する声が方々から聞こえてくる。
たとえば、昨年のPIPの優勝者は、交通事故で重傷を負い、驚くほどの「露出度」を記録したタイガー・ウッズだった。昨年も今年もリッキー・ファウラーのゴルフは絶不調に近いが、イケメンでナイスガイの彼の人気度や認知度は依然として高い。だが、ファウラーのランキングは下降の一途だ。
そう考えると、PIP上位者が義務試合に指定された20試合の本来の出場資格を満たせないケースも起こりえる。その整合性を、どうやって取るのかは疑問である。
さらに言えば、米国人ではない外国人選手は、多くの場合、米国内での人気や認知、露出の度合いは米国人選手より劣りがちだ。日本の大スターである松山英樹だって、米国における露出度は、決して高いとは言えない。
それは、日本ツアーにおける外国人選手の活躍が、日本メディアになかなか取り上げられないことと、よく似た現象である。
そんなふうに、PIPには不公平性や不透明性が感じられることは事実だが、そんなPIPが20試合出場が義務付けられる「トッププレーヤー」を定義するための適切な指標になりえるのかどうかも疑問視されている。
「支度金」「予選落ち手当て」は是、「最低保証」は非?
来季からは、下部ツアーからの格上げなどで、新規にPGAツアーメンバーになる「ルーキー」や、シード落ちなどから格上げされてPGAツアーに復帰する「返り咲き選手」に、50万ドルが前払いで支給されることになった。
PGAツアー参戦を開始するにあたって、まず必要となる費用を賄うための「支度金」という意味合いの50万ドルは、「とても助かる」「素晴らしいサポートだ」と賞賛の声が多々上がっている。
この支度金は、現行の「プレー15」プログラムに代わって新規に導入される「アーニングス・アシュアランス・プログラム(収入最低保証制度)」の一環だが、制度全体に対しては、首を傾げる向きも多い。
この制度はPGAツアーメンバーで「トッププレーヤー」には数えられず、年間15試合以上出場の全選手が対象となる。自力で獲得した賞金が50万ドルを超えた場合は適用されないが、50万ドル以下しか稼げなかった選手には、差額分を支給し、全選手が最低50万ドル以上は稼げるようPGAツアーが保証するというもの。
今季開始された「プレー15」は保証額が5万ドルだが、来季からは10倍の50万ドルとなる。なお、ルーキーや返り咲き選手が受け取る50万ドルもこの制度の範囲内のため、別途で最低保証の50万ドルを受け取ることはできない。
しかし、50万ドルは超高額ではないものの、「収入をギャランティーすることは、リブゴルフ化のそしりを受けることになるのでは?」と眉をひそめる人々もいる。
フルシードではない選手が予選落ちした場合、その都度、必要経費分だけでもカバーできるようにということで、5000ドルの「予選落ち手当て」を支給することに対しては、金額が「少額」であることも含め、大方は「是」と見ている様子だ。
「予選落ちのない大会」の是非
今年の全英オープン開幕前、タイガー・ウッズはリブゴルフに対する自身の意見を明かし、「(リブゴルフでは)4日間72ホールを戦うことや年間を通してツアー日程をこなしていく経験をするチャンスが一度も得られないことになる可能性もある。それは正しいことではない」と批判した。
そして、「長い目で眺めたとき、リブゴルフが良い方向に向いているとは僕は思わない」と言い切った。
よくよく振り返ってみると、ウッズは「4日間72ホールを戦うこと」の大切さは強調していたが、「予選落ちの有無」には直接言及はしていなかった。
だからと言って、予選落ちのない大会を推奨していた様子もないのだが、2024年以降はPGAツアーの大会に「予選落ちのない大会」が増えていく可能性が高いと言われている。
来季はセントリートーナメント・オブ・チャンピオンズやWGCマッチプレー選手権、プレーオフ3試合は、すでに予選落ちのない大会となることが確定している。
そして24年以降は、20試合の「義務試合」に含まれているジェネシス招待、アーノルド・パーマー招待、メモリアルトーナメントなどが、出場人数をあらかじめ大幅に絞った上で予選落ちのない大会に変更される可能性を、すでに米メディアは指摘している。
現状では、モナハン会長は「出場資格等を変更するつもりはない」と語っているが、リブゴルフに翻弄されている昨今、さまざまな新施策が突然、創設・導入されたことを思えば、いつ何が起こっても不思議ではない。
賞金額がアップされ、新たなボーナス制度が創設され、選手たちの実入りが増えることは、当然、選手たちにとっては「ウエルカム」であるはずだ。
しかし、その目的が「リブゴルフ対策」のみで、ファンのためのものにはならないとしたら、あるいはゴルフというゲームのためにならないとしたら、それは、まさに本末転倒である。そして、目的はさておき、選手たちの実入りを増やすためにPGAツアーが発表した数々の新施策は、選手たちの間で、新たな疑問も生んでいる。
「これだけ賞金やボーナスを増やすためのお金は、一体どこから来るのか?」
「PGAツアーに、こんなにお金があったのだとしたら、なぜ今まで選手に還元されなかったのか?」
「リブゴルフが創設されず、すべてが以前のまま進んでいたら、このお金はどこへ行き、どうなっていたのか?」
モナハン会長の返答は、秀逸だった。
「これまでPGAツアーは財政管理をすこぶる慎重に行なってきた。そうやって、コツコツ増やしてきた蓄えを、ツアーの発展と成長に役立てることができる」
長い歴史、真摯な歩み、その結実。リブゴルフになくて、PGAツアーにあるものこそが、PGAツアーの何よりの「良さ」である。
それだけは、これまでも、これからも、変わってほしくない。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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