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“リブゴルフの春”は突然終わる!? “履歴”付きで押し出された選手たちの行き場はどこに?
移籍した選手たちにとってはまるで理想郷のように語られてきたリブゴルフだが、今後に暗雲も垂れ込め始めている。高額な賞金を求めて出場した選手がさらなるトップ選手の加入により押し出されたら、果たして彼らが戻る場所はあるのか?
「リブゴルフは他のツアーに出ることを禁止したりはしない」
PGAツアーに背を向け、リブゴルフへ移籍したバッバ・ワトソンは、膝を故障しているため、実際にリブゴルフの試合でプレーするのは「おそらく来年から」とのこと。しかし、9月2日から米ボストン郊外で開催された第4戦からは「ノン・プレイング・キャプテン」として参戦開始した。
リブゴルフの選手が来年以降のメジャー4大会に出場できるかどうかは、今なお決定に至っておらず、曖昧な状況が続いている。
マスターズ2勝のワトソンは、「来年、マスターズには出場できないかもしれないけど、『出られません』と言われたら、もはや出たいとは思わない。子どもたちにも、そう言っている」と、すでに割り切っている様子だ。
ワトソン自身は7月末にリブゴルフへの移籍を発表。その数日後の8月10日にPGAツアーのメンバーシップを自ら返上しており、その際は「古巣に対するせめてもの気遣い」「潔い」と彼を賞賛する声が少しばかり上がった。
だが、彼は「(過去3勝を挙げた)トラベラーズ選手権だけは本当は今でも出たい。今は亡き父が生前、僕の優勝を目の前で見た唯一の大会だからね」と、ちょっぴり寂しげに語った。
とはいえ、そんなふうに思い出深い大会に2度と出られなくなる道を選んだのはワトソン自身だ。もちろん、彼自身だって、そこは重々承知しているはずであり、後悔するどころか、「リブゴルフに出た選手の出場を禁止するPGAツアーのやり方はおかしい」と、今度はかつての古巣を痛烈に批判した。
そして、「リブゴルフは他のツアーに出ることを禁止したりはしない」と、リブゴルフを絶対視する発言を口にした。
PGAツアーのプレーオフ最終戦、ツアー選手権が終了した直後、新たに6名がリブゴルフへ移籍。今年の全英オープン覇者、キャメロン・スミスもその1人だが、ワトソン同様、スミスも「リブゴルフ選手を締め出すのは、おかしい。PGAツアーのやり方は間違っている」と批判した。
そして、「リブゴルフはゴルフの未来の姿だ」と絶賛した。
ダスティン・ジョンソンらビッグスターと並みの選手の待遇格差
しかし、傍から冷静に眺めてみれば、こんな見方ができる。
ワトソンは故障していてプレーすることさえできないのにリブゴルフから契約を持ち掛けられ、「ノン・プレイング・キャプテン」というライダーカップやプレジデンツカップ以外ではお目にかかることがない肩書きをもらい、その肩書きで「参戦する」というスペシャル待遇をもらっている。
スミスは、全英オープン覇者で世界ランキング2位というハイステータスの持ち主であることを考えると、複数年契約で数億ドル(数百億円)をオファーされたことは想像に難くない。
リブゴルフ創設当初から、フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソン、ブルックス・ケプカといったビッグスターたちは、高額の契約金で複数年契約を交わしたと言われている。
そんなスペシャル待遇を受けている選手たちにとっては、「今後」がギャランティーされているリブゴルフは、ビッグマネーも約束された理想郷なのだろう。
だが、リブゴルフは「素晴らしい理想郷だ」と聞かされて、いざ来て、すでに出てみたものの、行き場を失いつつある選手、帰る場所を失いかけている選手もいる。
リブゴルフから「追い出されたのか」「押し出されたのか」、リブゴルフに「カムバックできるのか」も明かされてはいないが、初戦、第2戦、第3戦と進むにつれ、新たな参加選手が加わるたびに誰かの名前が出場者リストから消えている。
1試合48名しか出場枠がないのだから、1人増えたら1人減るのは当然のこと。ちなみに、第4戦ではスミスなど6名が新規に参加し、入れ替わりに8名の名前がリストから消えた。
「おそらく彼らは、リブゴルフには戻ってこない」
8名のうち4名は、谷原秀人、香妻陣一朗、木下稜介、稲森佑貴の日本人選手で、他は南ア選手が2名、オーストラリア選手が1名、アリゾナ州立大学に留学中のスペインのアマチュアが1名だった。
AP通信のベテラン記者は「おそらく彼らは、リブゴルフには戻ってこない」とツイッターで発信。
それが「戻れない」のか、「戻らない」のかは定かではないが、いずれにしても、リブゴルフに参加したことが既成事実となった選手には、その履歴が何かしらの意味を持ち、何かしらの影響を及ぼしていることは、着目すべき「重大ポイント」だ。
たとえば、リブゴルフに出場した日本人4名は、10月のZOZOチャンピオンシップ出場が不可となった。
もちろん、今になって突然そういう決め事がなされたわけではなく、リブゴルフに参加した選手がPGAツアーの大会や共催大会に出場できなくなることは、リブゴルフが創始される以前から何度も強調され続けている。
情報収集が不足していた選手や周囲にしてみれば、リブゴルフとの対立を深めるPGAツアーによって「急襲された」ように感じているのかもしれないが、PGAツアーに今さら不平不満を言うのは、お門違いだ。
むしろ批判されるべきは、PGAツアーやさまざまなゴルフ団体との確執を作り出し、解決できないまま強行突破的に新たなツアーを船出させ、さらに対立を煽るような言動を取り続けているリブゴルフのやり方にある。
「リブゴルフに出た」という履歴ができた選手が、メジャー4大会をはじめ、将来のさまざまな「戦う場と機会」を否定されかねない事態を、リブゴルフは何も解決できていないまま、今なおトッププレーヤーたちをスペシャル待遇で次々に招き入れ、それ以外の選手は、呼ぶだけ呼んで、不要になったら、あっさり見放している。
アマチュアにしてリブゴルフに参加したデビッド・プイッグの今年の全米アマ出場可否を巡り、米ゴルフ界では賛否両論が巻き起こり、USGA(全米ゴルフ協会)は「リブゴルフから賞金は受け取っていない」という本人の主張を尊重して出場を許可したが、試合会場は野次の嵐だった。
それでも負けじとベスト16まで進出したプイッグは「僕は裕福な家庭の出身ではないから、家族のために稼がなければならない」と語り、今後もリブゴルフへ出場し続ける意思表示をしていた。
だが、第4戦の直前、日本人4名と同様に彼の名前も出場者リストから突然、消えた。
スペシャル待遇でリブゴルフに移ったトッププレーヤーたちは、今は「我が世の春」を謳歌しているのだろうが、複数年契約が終わるとき、あるいは「何か」が起こったとき、その春が突然、終わることを、今のうちから覚悟ぐらいはしていたほうが良さそうである。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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