「クミちゃんの試合を見て同じくらい泣いていました」
◆国内女子プロゴルフ<大王製紙エリエールレディスオープン 11月17~20日 エリエールゴルフクラブ松山(愛媛県) 6575ヤード・パー71>
単独トップで迎えた最終18番のパーパットは、1メートルちょっとはある微妙な距離。これを沈めれば11年ぶりの優勝の前に、藤田さいきの頭にはこんなことがよぎっていた。

「本当に最後はこういう距離が来るんだなって。下りのラインでどっちに切れるのかも分からなかったので」
大きなプレッシャーがかかるなか、打った球はスーッとカップに吸い込まれた。通算21アンダーで2位の鈴木愛を1打差で振り切り、11年35日ぶりの優勝を手にした。
「もう最後は普通にはいられないなと思っていたので、私らしくと思って泣きました」
その場で座り込んで大泣きする姿は多くの人の胸を打った。
10月に優勝した金田久美子に次ぐ2番目のブランクでの優勝。「クミちゃんの試合を見て同じくらい泣いていました」と涙目で笑う。今年36歳。長らく苦労してきた選手だ。
この日は前半2バーディー、後半15番では鈴木愛が先にバーディーをとって肉薄するところ、藤田もバーディーを入れ返して突き放す。その後も残りのホールをパーで切り抜け、ノーボギーの完璧なゴルフでツアー通算6勝目を飾った。
2007年のツアー初参戦から、シード獲得と喪失を繰り返し、QT行きも何度も経験してきた。「2018年は体が不調で手術したり、病気をしたりしながら、たくさん苦労もあった」。
そんな中で支えになったのは夫の存在だ。
「結婚してダメになったと直接言われて、嫌な思いをしているのを見てきました。それでも私がゴルフに集中できる環境をつくってくれて、ダメなときも2人で一緒に頑張ろうと前向きでいてくれた。いつも大丈夫、大丈夫と言ってくれたのは忘れません」
そう言うと、また涙が止まらなくなった。
もう一つは「今年10月に最終戦まで担いでもらう予定でいた(食道がんで亡くなった)キャディーのピヨさん(橋本道七三)さんのためにも勝ちたかった」という。
「池に入りそうなショットもあったけれど我慢した。見守ってくれているのかな」
何度も“感謝”の言葉を口にする藤田だが、「勝てるという確信を持てた」という大きな自信も得た。これで最終戦にも滑り込みで出場も決めた。22日で37歳となるが、自信と経験は、さらに高みを目指す大きな武器となるに違いない。
藤田 さいき(ふじた・さいき)
1985年11月22日生まれ、栃木県出身。2006年にプロテスト合格し、同年のプロミスレディスで初優勝し、翌07年には同大会を連覇。22年大王製紙エリエールレディスで11年ぶりのツアー通算6勝を挙げた。チェリーゴルフ所属。