片手打ちは練習ルーティンとしていつもやっていた
◆国内女子プロゴルフ<ニチレイレディス 6月16~18日 袖ヶ浦カンツリークラブ・新袖コース(千葉県) 6621ヤード・パー72>
ニチレイレディス最終日、岩井明愛・千怜の双子姉妹は、優勝した山下美夢有とは明愛が3打、千怜が5打離される結果に終わったが、ツアー史上初、姉妹が最終日最終組で競演するという歴史的快挙に値するプレーを見せた。中でも圧巻だったのが、明愛が見せた8番パー4でのバーディーだ。

ティーショットを左に曲げ、ラフから放った第2打はグリーンに直接落ちたもののスピンがかからず、奥にあるバンカーに向かって一直線に転がる。なんとか手前のラフに止まったものの、右足だけをバンカーに入れなければアドレスがとれない状況だ。
クラブを持たずに素振りをしてみたもののしっくりこない。左打ちならバンカーに足を入れることなく打てるが、今一つ安定性に欠けると判断。今度はクラブを極端に短く持って右足をバンカーに入れてアドレスし、素振りをしたものの、やはりしっくりこない。最終的に右手1本でボールを打つことにした。
「ピンまでは14ヤードありました。54度のウェッジで6ヤードキャリーさせて8ヤード転がす計算でした」
練習する際、本格的にボールを打つ前に、右手1本、左手1本でボールを軽く打つ選手は少なくない。明愛もその一人で、片手打ちは練習ルーティンに組み込まれていた。とはいえ、試合で試したことは一度もない。練習でうまくいっても試合では同じようにいかないのがゴルフでもある。
「片手打ちはリスクがあるので、シャンク、チャックリ、トップなどのミスが出そうだけど、うまくラフから出せるのかな」と、妹の千怜でさえ半信半疑だったのだから、ギャラリーはさらに不安を感じながら見守っていた。ゆったりとしたスイングから放たれたボールは、きれいにラフから飛び出し、グリーンに着地。そこからスルスルとピンまでのラインに完全に乗り、そのままカップの中へ消えていった。
「素直にうれしかったですね。一番確率が高いと思う打ち方を選択したら右手1本でのアプローチになりました」
ボールがカップに入った瞬間、ギャラリーから大歓声が上がり、両手を挙げてバンザイポーズを見せた明愛。その後、千怜とグータッチを行った。山下をして、「ホンマにすごいですね。あのバーディーで勢いがさらに加速したと思いましたし、自分もバーディーを取らなければと、少し焦りました」と思わせるほどの1打だった。同時に、見ていたギャラリーに、これぞプロの技術だという夢を与えたのは確かだ。
また、千怜も最終18番パー5で初めてボギーを叩いたものの、4連続バーディーを含む5バーディーを奪い、山下に詰め寄る健闘を見せた。
「最終日最終組は2人の夢でしたが、ラウンドできてうれしかったですし、本当に楽しかったです」と、声をそろえた明愛と千怜。
今年は全米女子オープン、全英女子オープンが2人を待っている。最終組とは言わないまでも、上位をキープし、海外メジャーでも同組で回るのが次の夢となった。今の勢いならそれほど遠くない将来に叶えてしまうのではないだろうか。
岩井 明愛(いわい・あきえ)
2002年7月5日生まれ、埼玉県出身。双子の妹・千怜(ちさと)とともに、高校ゴルフの名門・埼玉栄高のダブルエースとして活躍。同校を8年ぶりの全国高等学校ゴルフ選手権・団体戦優勝に導いた。21年にプロテスト合格。JLPGAツアーに本格参戦した22年はメルセデス・ランキング40位でシード獲得。23年「KKT杯バンテリンレディスオープン」で待望の初優勝を果たした。Honda所属。
岩井 千怜(いわい・ちさと)
2002年7月5日生まれ、埼玉県出身。双子の姉・明愛(あきえ)とともに、高校ゴルフの名門・埼玉栄高のダブルエースとして活躍。同校を8年ぶりの全国高等学校ゴルフ選手権・団体戦優勝に導くなどした。2021年にプロテスト合格。2022年は「NEC軽井沢72ゴルフ」で初優勝、翌週の「CAT Ladies」で2週連続優勝を果たした。ツアー通算4勝。Honda所属。