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コラム

甲子園制覇の瞬間も共に… ジャンボ尾崎のエースキャディーが明かす最後の“心のキャッチボール”

2026.02.13 小川 朗(日本ゴルフジャーナリスト協会会長)
小川朗 ゴルフ現場主義! 尾崎将司

昨年12月23日に逝去したジャンボこと尾崎将司さん。小学校入学前からの幼馴染で、甲子園優勝、プロゴルファーになってからはエースキャディーとして尾崎さんを支えた佐野木計至さんが、最後の“心のキャッチボール”を明かします。

「宍喰の海とか、山とか、(自分で建てた)お墓の写メを送ってもらったんです」

「まっちゃん」「かずし」と呼び合った幼馴染がジャンボこと尾崎将司さんとエースキャディーの佐野木計至(さのき・かずし)さん。その佐野木さんは尾崎さんの様態が悪化する直前に、二人きりで面会する機会を得ています。2日間にわたる心のキャッチボールの内容を、佐野木さんはあふれ出す思いと共に語ってくれました。

 昨年の12月10日、11日。病床のジャンボ尾崎さんを見舞ったエースキャディーの佐野木さんは、最後の言葉を交わしました。

「前の日はよくしゃべったんだけど、11日は声もかすれて苦しそうだった。ずっと遠くを見ているような顔しているから『もう(宍喰に)帰りたいんじゃない?』って聞いたんです。そうしたら『うん』とうなずくんですよ。あの人が、そんなこと言うなんてね。ちょっと弱気になってんのかな、と思って、その後すぐに墓守をしている宍喰の知り合いに電話しました。宍喰の海とか、川とか、(自分で建てた)お墓の写メを送ってもらったんです」

 尾崎さんと佐野木さんは同じ墓地内にお墓を購入していました。尾崎さんは「誰が来てもジャンボ尾崎の墓と分かるものに」と注文を出し、昨年の9月にゴルフボールをかたどった墓石が完成。長男の智春さんから墓石の写真を見せられ「これで安心して逝ける」と満足げに語ったと言います。

ジャンボは愛用した「将」のマーク入りのキャップをがん闘病中だった佐野木氏に贈った 写真:清流舎
ジャンボは愛用した「将」のマーク入りのキャップをがん闘病中だった佐野木氏に贈った 写真:清流舎

 その時、墓を含めた故郷の風景写真を現像して、尾崎さんに渡したのがトレーナーで株式会社ジャンガーの宮下修代表取締役。すでに宍喰に帰ることはままならない状況ながら、写真をずっと見て故郷に思いを馳せていたそうです。

 佐野木さんは尾崎さんより一つ年下ですが、その縁は生まれた時から。「お産婆さんが一緒で、保育所も幼稚園も小学校も中学も高校も一緒。僕が『まっちゃん』と呼んで、ジャンボが僕のことを『かずし』と呼んでいました。中学に入ると野球部の先輩になったので、それからは『尾崎さん』って呼ぶようになって。高校時代は野球部の練習が終わるとバスで家まで帰るんだけど、最後は二人。アイスキャンディーを買って、食べながら帰ったのを覚えています」

 その徳島県立海南高校野球部が日本一になるのです。1964(昭和39)年4月5日。同校野球部は春の選抜高校野球に出場し、エース尾崎さんの3連続完封もあり決勝に進出。広島の尾道商業と対戦します。6回に2点を先行されながら、7、8、9回と1点ずつを加えて逆転した徳島海南は、9回裏2アウト満塁ツースリーのピンチに直面。しかし尾崎さんが最後のバッターをファーストフライに打ち取ります。そのウイニングボールをつかんだのが、佐野木さんでした。
 
 この試合、4番に座る尾崎さんは同点にした8回に大きな3塁打を放っています。まさに「二刀流」と呼べる活躍でした。昨年、最後の日々は闘病生活を続けつつ、大谷翔平選手の活躍を楽しみにしていたという尾崎さん。佐野木さんはジャンボ軍団の金子柱憲が2021年に上梓した『誰も書けなかったジャンボ尾崎』(主婦の友社刊)でこう語っています。

「もしジャンボが本気で努力していたら、それこそメジャーリーガーになっていたと思う。高校時代だって、努力なんて皆無。『練習は10分でも早く切り上げて、映画観に行こう』というタイプだから。とにかく天才だと、俺は思うよ」

 甲子園に優勝した年の秋、東京オリンピックの聖火リレーが徳島にもやってきます。第1走者に選ばれたのが佐野木さんで、尾崎さんも第3走者として聖火ランナーを務めました。「当時は商店街にも活気があった。そこを走ったんだ」と、佐野木さんは当時を振り返りました。

「佐野木の言うことを聞いて天下を取る」

 尾崎さんはその後、西鉄ライオンズの1位指名を受け入団。しかし芽が出ずプロゴルファーに転身します。それは佐野木さんの人生にも大きな影響を与えることになります。「野球をやめて2、3年した頃、ジャンボから『これからはゴルフの時代だ。お前もやれ』と言われてゴルフを始めたんです。キャディーを初めてやったのは広島オープン(1976年)。杉本英世さんとのプレーオフで、いきなり優勝だった」(同書より)。

筆者の取材に答えてくれた佐野木計至氏 写真:清流舎
筆者の取材に答えてくれた佐野木計至氏 写真:清流舎

 そんな佐野木さんが大切にしているのが1982(昭和57)年3月23日に贈られた尾崎さん自筆の書。今回、その裏に書かれている解説文も、佐野木さん自らが公開してくれました。「哲に屈して天下に勝つ」と読み、尾崎さんはその意味を「佐野木の言うことを聞いて天下を取るということ」と書いていました。

 ゴルフの世界でも結成された尾崎・佐野木コンビは、その後確かに、天下を取りました。2人で実に32勝。中日クラウンズ(95~97年)、KBCオーガスタ(96~98年)、ダンロップフェニックス(94~96年)の3大会・3連覇は、いずれも佐野木さんとのコンビでした。特に100勝目となったダンロップフェニックスの3連覇は佐野木さん自身も最も印象深い試合に挙げています。

「17番(パー3)で192ヤードのアゲンストを4番アイアンで右下3メートルにつけたんです。『どうだ?』とジャンボに聞かれたから『ワンボールスライス。左カップやったら強め』と答えた。そうしたら『いや、これは切れない』と言い出して…。あんなの入る道理ない。案の定、右に外れたのよ。18番に行きながら(尾崎さんが)『すまんかった』って。初めてだよ。試合中に謝ってきたの。それで『メイクスリー。3(イーグル)取ったら分からんよ』と返したんだ」(同書より)

 今も語り継がれる1995年11月19日、ダンロップフェニックスの最終日。ピーター・シニア、ロバート・ガメス、ブラント・ジョーブが横一線に並ぶ大混戦となり、尾崎さんが最終18番のパー5で2オンを狙います。

「残り222ヤード。そうしたらジャンボが3番アイアン持ってるの。『前のホール、アゲンストの192ヤードを4アイアンでいいショットしてるんだから、フォローだし4で行きましょうよ』と言ったら『よし、分かった』って。右のバンカーの左端から、軽いドローの球筋。それでピン右下8メートルに2オンよ。グリーンに上がっていく時にもう『左カップ内側。絶対間違いない』って確信していて、ガッツポーズも用意していた」(同)

 このイーグルパットを決め、見事優勝。2人がガッツポーズをしながら交錯して、尾崎さんが佐野木さんを突き飛ばすような形になってしまったのも、今となっては懐かしいシーンです。日本プロゴルフ選手権の初勝利、大会3連覇で決めた100勝目も舞台は同じフェニックスCC。尾崎さんにとって特別な場所であることは間違いありません。

 佐野木さんは尾崎さんとともに、海外へも出かけています。マスターズは10回、全米オープンは11回連続。全英オープンでも4回、バッグを担いでいます。そして最後の優勝となった113勝目の全日空オープン(2002年)も。ファンの知らないジャンボ尾崎の素顔を語れるのも当然でしょう。

 ボールマーカーの話もその一つです。実は昭和55年製造の50円玉しか使わなかったことも、同書で明かしていました。「ゴーゴー(55)のゴー(50)だから。その50円は1回使ったら終わり」(佐野木さん)。しかもコースに向かう車の中では、ハンカチに乗せた50円玉を握りしめながら、般若心経と不動明王の御真言を唱え続けていたというのです。「だから僕もすっかり覚えちゃった。ガッツポーズの時にも『ギャーティー!(羯諦=般若心経の文言の一部)』って叫んでたぐらい(笑)」。

「『1日でも2日でも生きてくださいよ』なんて安い言葉は言えないじゃん」

 しかし、そうした濃密な関係性を築いていた2人も、ここ5年は会うことがかないませんでした。佐野木さんは膀胱がんを患い、手術を受けています。いつもは高知龍馬空港に着いた尾崎さんを佐野木さんが迎えて、一緒に宍喰に帰るのですが、この時はそれもままなりませんでした。そこで尾崎さんは自らデザインした「将」の文字が入ったキャップをプレゼントしています。「この時は抗がん剤治療を続けていて、頭の毛のこともあって、僕を励まそうと、キャップをくれたんだと思う。『頑張るように』ってね。それがジャンボも同じような病気になっちゃって」(佐野木さん)。

 久々の再会は昨年暮れでした。「早く来ないと話ができなくなる」という知らせを受け、佐野木さんは千葉県内の尾崎邸に急行します。「10日の日は昔のバスの帰りみたいに、2人だけで話ができた。でも翌日は声がかすれて、つらそうだった。だから長時間おってもな、という感じにもなって。しゃべり通しならいいけど、二人だけで言葉が途切れると、その間がすごく嫌なんだよね。つらくて……」とため息をつきました。

「でも本人は『十分やったから、後悔はない』と言うからさ。そこで『1日でも2日でも生きてくださいよ』なんて安い言葉は言えないじゃん。だからとんちを効かせて『あっち(天国)に行ったら、すぐに練習しといてよ。行ったらまた(バッグを)担ぐよ』と言ったんだ。そうしたらうなずいてくれてね。右手を差し出してくれたんで、近づいて行って握手したんだよ。そうしたらもう一度、ぎゅっと握り返してくれた」

 最後の握手。「優勝してもハグすることもなく、ハイタッチして終わりだったのにね。だから帰る時は、つらかった」と言ってから、佐野木さんはこう続けました。「病院にも行かずに……。最後まで男だったよな」。

取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。

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