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【舩越園子の砂場Talk(バンカートーク)】心ないギャラリーに今こそ届けたい言葉「デシャンボーに優しくね」
BMW選手権でパトリック・カントレーとの米国人対決に敗れたブライソン・デシャンボー。世界トップクラスの実力者でありながら、その強烈な個性ゆえに、喧騒にさらされることも多くなっています。今回は、そんなデシャンボーについて語ります。
傷心のデシャンボーに投げつけられた心ない言葉
米男子ツアーのプレーオフシリーズ第2戦、BMW選手権の優勝争いは、ブライソン・デシャンボーとパトリック・カントレーのサドンデス・プレーオフにもつれ込み、6ホールにわたる激闘へと発展した。
どちらも甲乙つけがたいゴルフをしていたからこそ、なかなか決着せず、手に汗握る展開になったのだが、最後は6メートルのバーディーパットをねじ込んだカントレーが、3メートルを外したデシャンボーを下して勝利。試合会場で見守っていたギャラリーも、TV観戦していたゴルフファンも、合計24ホールのエキサイティングなバトルを存分に楽しんだことだろう。
しかし、そんな素晴らしいドラマに水をさす出来事があった。勝者カントレーを潔くたたえた敗者デシャンボーがクラブハウス方向へ上がっていこうとしたとき、ロープ際のギャラリーの1人が皮肉を込めて、「よくやった、ブルックシー」という言葉を投げつけたのだ。
「ブルックシー」とは、ここ数年、デシャンボーとの確執が報じられているブルックス・ケプカのこと。スロープレー問題などが発端で不仲になったデシャンボーとケプカのさまざまな応酬が報じられ、ある時期からギャラリーが意図的にデシャンボーに向かって「ブルックシー」と声をかけるようになった。デシャンボーが不快感や怒りをあらわにすると、それがさらに報じられ、SNSでも拡散されることの繰り返し。米メディアは「ネバーエンディング・サーカス」とまで書いている。
敗北を喫したばかりの傷心のデシャンボーに投げつけられたその言葉も、心ないギャラリーが発した揶揄だった。プレーオフの途上でデシャンボーのボールがクリークに飲み込まれたときも、ギャラリーから拍手が巻き起こった。それでも必死に戦った末に敗北し、さらに揶揄の声を浴びせられたデシャンボーが、あまりにも気の毒でならなかった。
繰り返してほしくない“モンティ”の悲劇
ふと、“モンティ”のことが思い出された。モンティとは、1990年代終盤から米国でギャラリーから揶揄され続けていたスコットランド出身のコリン・モンゴメリーのこと。彼は欧州ツアーや世界で30勝以上も挙げながら、米ツアーではどうしても勝てず、惜敗するたびに顔を真っ赤にして悔しがった。
モンティのストレートな物言いは、ときに米国のゴルフファンへの不平不満のように受け取られたのだと思う。それが彼に対するギャラリーの揶揄をあおる形になり、しばしば優勝争いに絡んだモンティは、そのたびに激しい野次を飛ばされ、決め手のパットを外すたびに大きな拍手を浴びせられた。その様子は、見ているのが辛いほど痛々しかった。
そんなモンティに、ついに救いの手が差し延べられたのは2002年の夏。ニューヨーク近郊のべスページで開催された全米オープンの際、米国のゴルフ雑誌は「Be Nice to Monty(モンティに優しくね)」と記した赤いバッジを2万5000個も試合会場に持ち込み、無料でギャラリーに配布した。
それは、モンティのゴルフのパフォーマンスに悪影響を与えるほどの揶揄をこれ以上、黙認することはできないという米メディアとしての責任感やプライドから生み出された対処法であり、モンティに対する彼らの優しさの表れでもあった。
だが、その全米オープンでモンティはあえなく予選落ちとなり、結局、彼は米国の土の上では一度も勝つことなく、現役時代を終えた。母国スコットランドの大会では、毎回、地元ファンから「モンティ、モンティ!」と割れるような拍手喝采を受ける英雄が、米国では毎回、激しく野次られたことは、彼が米ツアー未勝利で終わったことと無関係ではなかったはずだ。
あのモンティの悲劇を繰り返してはいけないと私は思う。デシャンボーはすでにメジャー1勝を含む米ツアー通算8勝を挙げているが、野次が激化してからは最終日に崩れるケースが増えており、ここ1か月は取材拒否をするなど、彼のメンタル面に何かしらの変化が起こっていることは明らかだ。
そんなデシャンボーに、せめて私はこうしてコラムを書いて呼びかけることしかできないが、どうか1人でも多くのゴルフファンの心に届いてほしい。
「Be Nice to DeChambeau.(デシャンボーに優しくね)」
この言葉が、米国の一部の心ないギャラリーにも、どうか届きますように――。
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