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- 来年から約10万円までアマチュアも賞金もらってOK!?「競技ゴルフには金がかかる」を変えられるか
世界のゴルフを統括するR&AとUSGAは、来年からアマチュア規定を大きく変更するというリリースを出しました。他のスポーツと比べても厳格にアマチュアとプロを線引きしているゴルフですが、アマの置かれる状況はどう変わるのか、日本ゴルフジャーナリスト協会会長の小川朗氏が取材しました。
肖像権を宣伝・広告に使うこともOKに
2022年1月1日から、アマチュアゴルファーの置かれる環境が大きく変わることになります。スポンサーからのサポート契約が認められ、賞金も700ポンドもしくは1000米ドルを超えない範囲で受け取れるようになるというのです。
R&A発のニュースとして、JGA(日本ゴルフ協会)のホームページ内に10月27日付でアップされている記事には「これまで(アマチュアゴルファーに対して)制限されてきた、競技費用を受け取ることや、スポンサーやエージェントと契約を締結することや、氏名・肖像を宣伝・広告に利用することを制限する規則は撤廃され、金銭的な援助を必要とするエリートアマチュアが様々なサポートを受けることができるようになります」との一文が明記されました。
その一方で、大幅に簡略化された形になったとはいえ、アマチュア資格を失うことになる主要4項目は残されました。
その4項目とは……
「賞の限度額(700ポンド/1000米ドル)を超える賞を受け取ること、またはハンディキャップ競技で賞金を受け取ること」
「プロフェッショナルとしてプレーすること」
「技術指導をすることに対して報酬を受け取ること(ただし、現在のすべての例外は今後も適用となる。例えば、教育機関でのコーチングや、認可されたプログラムを援助すること)」
「ゴルフクラブのプロフェッショナルとして雇用される、またはプロフェッショナルゴルファーの協会の会員となること」
この簡略化された取り組みを達成するため、以下の重要な変更が導入されました。
受け取ることができる賞に関して、スクラッチとハンディキャップ競技を区別。
賞の規則はゴルフコース上、またはシミュレーターでプレーされるティーからホールへの競技だけに適用され、ロングドライブ、パッティングのみの技術を争う競技は適用外。
すべての広告、関連費用、スポンサーシップの制限を撤廃。 スポンサーシップの制限が撤廃されたことにより提供される新しい機会と、スクラッチ競技で限度額(700ポンド/1000ドル)までの賞金を受け取ることができる。
こうした変更により、R&A側は「ゴルフ関連費用の資金拠出の方法を求めているエリートアマチュアゴルファーに、かなりの恩恵をもたらすでしょう」と胸を張っています。
日本はアマチュア規定の適用が特に厳格
今回のルールの裏に、どんな事情が隠されているのでしょうか。
世界アマ、アジア大会など国際大会の日本代表団長、監督を歴任している川田太三氏は、驚きの事実を明かしてくれました。
「ここまで、あまりに時間がかかりすぎた感があります。例えば日本はアマチュア規定に対して、ものすごく真面目に対応してきました。丸山茂樹選手や宮里藍選手が優勝しても『ハイ、ご苦労さん』でオシマイでした。一方で他国には、好成績を挙げた選手たちに、多くの褒賞が与えられた話を聞いたことがありました。例えば1982年のアジア大会では、優勝したインドチームの選手には、それぞれ家1軒が贈られました。選手全員が大富豪の子息という事情もあったにせよ、そうした話は確かにありましたよ」
各国バラバラの対応状況が、長年続いていたわけです。そもそもアマチュアゴルファーが賞金をもらえない理由は、どこにあるのでしょうか。川田氏がこれまでのいきさつをこう解説してくれました。
「かつては、プロゴルファーの生活は苦しかったのです。そこでプロの生活をアマチュアゴルファーが邪魔してはいけない、という考え方が根底にありました。アマチュアが技術を解説してお金をもらっちゃいけない、というルールも、そこから生まれているわけです。でも時代が変わり、今やプロゴルファーは4日間72ホール回っただけで、2億円もらえるようになった。アマチュアゴルファーが一生かけて稼ぐ額を、4日で稼ぐようになって、立場が逆転してしまってからずいぶん経ちます。今やアマチュアの方がよっぽど苦しい。R&AやUSGAの悪口を言うわけじゃありませんが、そうした現実に対応するには、時間がかかりすぎたともいえますよね」
そうした現実がある一方で、メーカー側は来年から規定を気にせずに、アマチュアゴルファーにスポンサードの申し出ができそうです。あるゴルフメーカーの関係者は、匿名を条件に今後の展開を予想してくれました。
「2年くらい前から、そういう動きはありました。JGAを通して選手育成を視野に入れた調査目的のアンケートもありましたから。R&Aも各国のナショナルフェデレーション(統括団体)からいろんな意見を吸い上げて、今回の改訂の参考にしていたと思います。ただ、早い段階から素質のある選手を青田買いしたとしても、そのまま育つかどうかは分かりませんからね。各メーカーも予算が限られていますから、しばらくは慎重になるんじゃないでしょうか」
恩恵を得られるのはトップ選手に限られる?
ここのところ金谷拓実、中島啓太と現役大学生がプロの大会で優勝するという快挙が続いている大学ゴルフ界は、今回のルール改正をどう見ているのでしょうか。東京大学ゴルフ部の井上透監督に話を聞きました。
「ジュニアの早期育成に拍車がかかるんじゃないですか? 早くうまくなれば、早い段階でサポートしていただけるところに行ける。功罪はあるでしょうね。これがあるからといって、ゴルフを始める動機にはならないでしょうし。大学スポーツ自体にもあまり変化はないでしょうね。個人に対してOBがサポートする、という形にはなりずらいと思うんですね。現状と変わらず、チームに対してという形になるでしょうし。むしろマスターズに出るような、ナショナルチームクラスのトップ選手への青田買いが顕著になるのでは。選手と早い段階で複数年契約をしてしまうこともあるかもしれませんね」
改定のリリースにも出ている通り、やはりエリートと呼ばれるゴルファーに限定されてしまいそうな雲行きです。
法政大学の田中徳市監督は、大学ゴルファーの厳しい現実を明かします。
「大学生ゴルファーの置かれている状況は厳しいですよ。ゴルフは他の競技に比べて出費が多いのは確かです。(大学が)ゴルフ場も持っているわけじゃないですし。遠征費もかかりますし、プレー代もかかります。そうした出費をOB会からの寄付や校友会からのサポートで賄っていますが、それだけでは収まりません。やはり学連(日本学生ゴルフ連盟)がゴルフ場にプレー代だけでも払えるような形などを、今後は作っていかなければいけないのですが」と、課題が山積みであることも指摘していました。
さて来年、この改定がどんな形となって現れるのでしょうか。
「1、2の3で急に変わって、スイスイ行くかなというと、どうかなと思う。その反動で、元に戻るんじゃないか、という懸念もありますよね」
こう指摘したのは前出の川田氏。この一大改革、ふたを開けてみないとどうなるか分からないというのが、現状のようです。
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