“寄せる”と“入れる”という目的の違い
米国女子メジャーのシェブロン選手権が開催されました。優勝したのはアメリカのジェニファー・クプチョ選手。通算14アンダーでツアー初勝利をメジャー大会で飾りました。

日本人では、渋野日向子選手、笹生優花選手、畑岡奈紗選手、古江彩佳選手、横峯さくら選手が出場。日本人最高位は通算10アンダーで4位タイに入った渋野選手でした。
さて、そんな渋野選手のプレーを見ていてユニークだったのが、パッティングのルーティンです。
いつでも同じ準備動作を踏んでアドレスに入るのが一般的なルーティンですが、渋野選手のアドレス前の動作は一定ではありません。
例えば、ロングパットの時はボールの後ろに立ち、カップと正対して素振りをした後にアドレスに入ります。一方、ショートパットやミドルパットになると、素振りをせずに構え、そのままストロークを始めるのです。
最終日のあるホールでは、こんなシーンがありました。15メートルくらいのファーストパットが2メートルオーバー。
入れごろ外しごろの微妙な距離は丁寧に打ちたくなるものですが、渋野選手はマークをしてボールのアライメントラインを合わせることなく、そのままストロークしてカップインさせたのです。
渋野選手のパッティング・ルーティンは、なぜ一定ではないのでしょうか。それは恐らく“寄せるパット”と“入れるパット”という目的の違いがあるからです。
ロングパットで大切なのは、距離感を合わせることです。渋野選手はボールの後ろに立ち、カップやラインを見ながら素振りをすることで、タッチのイメージを出しているのでしょう。
一方、ショートパットやミドルパットなどの“入れるパット”で怖いのは、ヘッドがスムーズに動かなくなることです。
入れたい気持ちが強くなるほど、体のどこかに力が入るもの。ショートパット前の素振りを否定するわけではありませんが、ストローク前に時間をかけるとイメージが薄れ、プレッシャーを感じてしまうケースもあります。
渋野選手が“入れるパット”で素振りをしないのは、気持ちよくストロークすることを優先させているからだと思います。
前述した2メートルの返しのパットでマークしなかったのも、イメージが出ているうちに打ったほうがカップインできると感じたからでしょう。
時には気持ちを優先した自然体のストロークを
ルーティンには、リズムを良くしたり、再現性を高めたり、メンタルを安定させる効果があると言われています。それは間違いではありませんが、準備動作を意識するあまり、動きがぎこちなくなっては本末転倒です。
ルーティンを取り入れてもうまくいかない人は、気持ち良さを優先させて、自然体でストロークしてみてはいかがでしょうか。
渋野日向子(しぶの・ひなこ)
1998年生まれ、岡山県出身。2019年のAIG全英女子オープンでメジャー初制覇。同年は国内ツアーでも4勝をマークし、賞金ランキング2位と躍進した。2020-21シーズンは、スタンレーレディスゴルフトーナメントと樋口久子 三菱電機レディスゴルフトーナメントで勝利。今季は米ツアーを主戦場に戦う。国内ツアー通算6勝。サントリー所属
石井 忍(いしい・しのぶ)
1974年生まれ、千葉県出身。日本大学ゴルフ部を経て1998年プロ転向。その後、コーチとして手腕を発揮し、多くの男女ツアープロを指導。「エースゴルフクラブ」を主宰し、アマチュアにもレッスンを行う。