優勝者が着るのは“仮”の1着!? まだまだ自慢できる「グリーンジャケット」のトリビア

メンバー以外ではマスターズの歴代優勝者のみが名誉会員として袖を通すことが許されるオーガスタナショナルGCの「グリーンジャケット」。門外不出の1着だけに、逸話やトリビアには事欠きません。

松山英樹がチャンピオンズディナーや表彰式で着用

 タイガー・ウッズが復帰し、注目が集まったマスターズの余韻もそろそろ冷めてきましたが、例年、この時期に多くのゴルフメディアが取り上げるテーマに「グリーンジャケット」があります。

昨年のマスターズで悲願のグリーンジャケットを獲得し、最高の笑顔を見せた松山英樹 写真:Getty Images

 とりわけ今年の日本のメディアは、昨年松山英樹が優勝し、火曜日のチャンピオンズディナーや表彰式にそのグリーンジャケット姿で現れたため、例年以上に話題にしたように思います。

 そこで、今回はマスターズの象徴「グリーンジャケット」に関して、根掘り葉掘りしてみました。

グリーンジャケットは本当は「グリーンコート」だった?

 グリーンジャケットはオーガスタナショナルGCのメンバーの証で、メンバーはクラブ内での着用が義務付けられています。

 ところで、TBSテレビのマスターズ中継で長年解説をされた故・岩田禎夫氏の著書『マスターズ 栄光と喝采の日々』には「メンバーはグリーン・コートと呼ぶ」と書かれてあります。

 デーブ・ロギンズが歌うマスターズ中継のテーマソング「オーガスタ」の歌詞にも「Who’ll wear that green coat on Sunday afternoon?」とあります。

 このジャケットの着用制度ですが、もともとクラブ創設者のひとり、ボビー・ジョーンズのアイデアでした。

 オーガスタナショナルGCが開場する3年前の1930年。ジョーンズはロイヤルリバプールGCで開かれた全英オープンに出場。招かれた夕食会で、同GCのメンバーが揃いの赤いブレザーを着用していることに強い関心を持ちました。

 マスターズが始まって4年目の1937年。観戦のパトロン(ギャラリー)や普段のゲストプレーヤーが、何かあればすぐにメンバーに尋ねられるよう、分かりやすくする必要性を感じ、ロイヤルリバプールのブレザーをヒントにグリーンジャケットを採用したのです。

「マスターズグリーン」と呼ばれるそのカラーは開催時にコースを染めるライグラスの色で、世界共通の色見本では「PANTONE342」と指定されます。
 
 メンバーのグリーンジャケット着用には、レストランの従業員に請求伝票を誰に渡せば良いかを知らせる目的もある、との記述も目にしましたが、真偽は不明です。

優勝者には後日採寸した“本物”が贈られる

 マスターズの優勝者に贈られるようになったのは1949年から。最初に袖を通したのはサム・スニードでした。優勝者は、同クラブの「名誉会員」という立場になり、彼らのグリーンジャケットはチャンピオンズ・ロッカーに生涯保管されることになります。

 基本的に門外不出のグリーンジャケットですが、その年の優勝者に限り、翌年の大会まで持ち出すことが許されています。

 昨年は松山英樹がマスターズの直後、グリーンジャケットを手に日本に帰国する姿がアトランタ空港でとらえられ、画像がSNSにシェア、話題になりました。

 そのとき手にしていたのは、オーガスタナショナルGCが表彰式用に用意してある仮のジャケットでした。いわゆる「吊るし」の一着。正確に採寸し、1カ月ほどかけて縫製されたオーダーメイドは、後日、ガーメントケースに入れられて送られてきます。

 優勝者は翌年大会まで手元に置けますが、その期間がわずか5カ月しかなかったのがダスティン・ジョンソンです。彼が優勝した2020年大会はコロナ禍のために、11月開催だったからです。

 反対に、前年19年大会に勝利したタイガー・ウッズは1年7カ月もの間、いつでも自由に着用することができました。

 タイガーのマスターズ優勝回数はジャック・ニクラスの6回に次ぐ5回です。でも、グリーンジャケットの保有期間は計5年7カ月で、ニクラスに5カ月及ばないだけです。

ゲーリー・プレーヤーは優勝していないのに持ち帰った

 優勝者の持ち出しは1年間という決まりに反した選手がいます。3度優勝のゲーリー・プレーヤーです。

 初優勝の翌1962年、プレーヤーはアーノルド・パーマーとプレーオフを争い、惜敗しました。

 そのショックのためか、プレーヤーはグリーンジャケットの返却を忘れ、そのまま母国の南アフリカに帰ってしまいます。

 するとすぐに、オーガスタナショナルGCの初代会長で、何事にも厳格なクリフォード・ロバーツから叱責の電話がありました。

 そのときの2人の会話をプレーヤーは次のように紹介しています。

「ゲーリー、ジャケットはそこにあるのか?」(ロバーツ)

「はい」(プレーヤー)

「よし、わかった。だが、これまでここから持ち去った者は誰もいない」(ロバーツ)

「ミスター・ロバーツ、そんなに欲しいのなら、取りに来てはどうでしょう?」(プレーヤー)

 プレーヤーによれば、それ以上の口論には至らず、ロバーツはプレーヤーが人前で着用しないことを条件に翌年までの保管を許したそうです。

 プレーヤーとグリーンジャケットと言えば、今年、歴代優勝者のひとり、アダム・スコットがポッドキャストの番組で面白い逸話を紹介しています。

 スコットはチャンピオンズ・ロッカーをプレーヤーと共有しています。つまり、同じロッカーに2人のグリーンジャケットが吊るされているわけです。

 スコットによれば、プレーヤーはほぼ毎年、少なくとも1日は間違えてスコットのジャケットを着て、コースに出てしまうのだそうです。

 ロッカーに残された、身長168センチのプレーヤーのジャケットは、身長183センチのスコットには小さすぎて、腕を通すこともできないとスコットは笑いながら明かしていました。

門外不出のジャケットがオークションに出品!?

 クラブによって厳しく管理されるグリーンジャケットですが、2017年、オークションに出品される騒ぎがありました。

 競売にかけられたのはマスターズを2度制したバイロン・ネルソンのものを含む、全3着。その名も「グリーンジャケット・オークションズ」(現名称は「ゴールデンエイジ・オークションズ」)というゴルフグッズ専門のオークションサイトに出品されたのでした。

 この事態に、すべてのグリーンジャケットの所有権を主張するオーガスタナショナルGCは、それが本物だとすれば盗まれたものであるとして、裁判所にオークションの停止を請求。結果、訴えは認められ、出品はストップされました。

 この3着は果たして本物だったのでしょうか? 残念ながら、詳しい続報は見当たりません。

 反対に、2度とオーガスタナショナルGCに返却されず、優勝者のもとにあるジャケットがあります。

 1970年優勝のビリー・キャスパーの1着です。

 というのは、2015年に彼が亡くなると、夫人のシャーリーさんがオーガスタナショナルGCに懇願し、グリーンジャケットを着て埋葬することが許されたからです。

 過去3度優勝のニック・ファルドは、グリーンジャケットについて「どんな屈強な男でも、これを授与されるときは感無量になる」と語っています。

 それほど世界の名手たちが渇望するグリーンジャケット。次に袖に手を通すのは誰なのでしょう。

【写真】松山英樹の足元はこのシューズ アシックス「GEL-ACE PRO M」を見る

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