フェースの反発性能にはルール上の規制がある
ゴルファーであれば、レベルや年齢に関係なく、1ヤードでも遠くに飛ばしたいと考えるでしょう。飛距離を伸ばすには、スイングを磨いたり、トレーニングをしたりとさまざまな方法がありますが、最も手っ取り早いのは、より飛距離性能の高い新しいドライバーを購入することです。そのため、メーカーから新製品の発表があると、心おどる気持ちになるゴルファーも多いのではないでしょうか。
そんなゴルファー心をわしづかみにした今年の最新モデルがテーラーメイドの「ステルス」です。長年開発してきたという、カーボン素材を60層も重ねて成型したまったく新しいタイプのフェースが採用され、真っ赤にコーティングされたその見た目は、いかにも飛距離が伸びそうな印象を受けました。
新しい素材や製法でドライバーの性能が上がるのは、ゴルファーとしては喜ばしいことですが、心配になるのはゴルフクラブの反発規制です。ドライバーの場合、「ペンデュラムテスト(振り子式簡易測定器)」というフェースに鋼球を当てて接触時間を見る計測方法で、257μs(マイクロセカンド)を超えるとゴルフ規則においては、「不適合」のクラブとなってしまいます。
これは2008年から施行された規則で、「Spring Like Effect」の頭文字を取って「SLEルール」と呼ばれています。
SLEルールが施行されて以降、メーカー各社はいかに反発係数の上限を超えずにドライバーの性能を高めるかに苦心してきました。ヘッドはルール上限の460ccへと大型化しましたし、大型化した分、重心位置を細かくコントロールすることで、ミスに強く、安定して飛ばせるドライバーが次々に生み出されたのです。
そういった背景を考えると、新しいフェース素材や製法を開発しても、単純に反発力アップとはならないことが分かるはずです。一方で、多くのメーカーが独自の新素材を用いて、ドライバーの性能を高めたとうたっています。これはどういうことなのでしょう?
比重や強度が素材によって異なることがポイント
現在、ドライバーのフェースに新素材が用いられているのは、ヘッドの設計自由度がより高まることが最大の理由となっています。
たとえば、テーラーメイド「ステルス」でカーボンをフェースに使っているのは「軽い」からです。一般的なチタン素材のフェースに比べて、カーボンの比重はかなり軽く、メーカー公表値で40%の軽量化に成功しているようです。フェースを軽くできれば、その分の重量をヘッドの他の部分に配分することで性能を高めることができますし、フェース自体を大型化して、よりミスヒットに強くすることもできます。
反発規制をルール内に収めつつも、ヘッドとしての性能を高めることが可能になるわけです。
テーラーメイド以外にも、タイトリストの「TSi」シリーズでは、航空宇宙の分野で使われる「ATI 425チタン」がフェース素材に採用されています。この素材は、一般的なチタンに比べて、より強くしなやかであることが特徴で、より精密なフェースの設計が可能になります。フェースの厚みを極端に変えることで、打点がズレても芯に近い反発力を持たせることができますし、打感や打音といったフィーリングに関わる性能をコントロールすることもできます。
このように、フェースに新素材を用いることで、よりドライバーの性能を高めることができるわけです。SLEルールがあるため、シンプルに反発性能アップとはいきませんが、弾道が適正化されたりすることで飛距離が伸びる可能性は十分にあると言えるでしょう。