年末年始ネット通販に注意!「SIM2が1万円台」なんてうまい話は詐欺 年配ゴルファーを標的か

コロナ禍での巣ごもり需要でネットショッピングは大きく売り上げを伸ばしていますが、中には悪質な詐欺サイトも。最近はゴルファー、特に年配層を狙った悪質ネットショップも跋扈しているようです。

怪しさ満点のフェイスブック広告をたどっていくと

 最近、フェイスブックなどのSNSを利用したネットショッピング詐欺が横行しているようです。

その指、ちょっと待った!

 筆者が何気なくフェイスブックを眺めていたところ、「広告」として表示された投稿で、テーラーメイドの人気ドライバー「SIM2 MAX-D」の写真とともに、こんな文言が躍っているものが目に留まりました。

「20%~70%OFFとお得にプライスダウンです!!!」

 投稿者が会社名でなく個人名だったこともあり、「怪しさ満点だな」と思った筆者は投稿をタップすることなくスルーしたのですが、その後もフェイスブックの画面をスクロールしていくと、業者と思しき名前も含め同様の怪しい投稿が出るわ出るわ。なぜか“釣り餌”にされているのは「SIM2」シリーズのドライバーばかりだったのですが、中には「特価(税込):10,390円」などと謳っているものさえありました。

 できるだけ関わり合いになりたくなかった筆者ですが、好奇心が勝ってしまい、クレジットカード番号等を入力しなければ問題ないだろうと、意を決してそのうちの一つを覗いてみることにしました。

 すると、中は意外にもしっかりしたつくり。感心している場合ではないのですが、本物のテーラーメイド公式サイトと色使いやフォントの使い方も似通っており、ロゴも大きくふんだんに使っているので、パッと見で公式サイトと錯誤してしまう人も中にはいるかもしれない、と思わせるデザインでした。

 ただし、商品一覧のトップに「よくうれる売れるせーひん製品」(原文ママ)という変な日本語が書いてあったり、「ドライバー」と書くのが普通なところ「ドライバ」と音引きがついていなかったりと、仔細に見ていけば手抜かりはありました。しかし、「SIM2 MAXドライバ」が1万6500円などと、圧倒的に安い値段にばかり目が行ってしまうと、見落としてしまうかもしれません。

誤字脱字の特徴が似てるのでコイツら同一人物かも

 別のサイトはもっと巧妙で、「先着100名様限定価格」「ネット通販限定モデル」「クリスマス限定先着特典」といった煽り文句がトップに躍っており、数量や期間限定だからこの値段で売れる、という理由付けをすることで信ぴょう性を高めていました。ただ、このサイトもなぜか「SIM2 MAXドライバー」を「SIM2 MAXドライバ」と表記しており、もしかすると前述のサイトと同じ悪質業者がアカウントを変えて投稿しているのかもしれない、と思わせました。

 さらにこのサイト、ご丁寧にも「安心支払」という見出しで「クレジットカードのセキュリティはSSLというシステムを利用しております」と暗号化による個人情報の保護をアピール。何を白々しい、と思いつつもさらに画面をスクロールすると、「運営会社について」として企業情報も載せていました。

 そこにショップ名として記載されていたのは「ゴルフ用品なら株式会社プレスト」。実在するわけないだろうと思いながら、念のためコピペしたショップ名をググってみると、予想に反してヒットしました。しかも、本体の公式サイト以外に「楽天市場」や「PayPayモール」の支店もあります。「ゴルフプレスト」という屋号で大手ECモールに出店しリアル店舗も構える、しっかりした素性のお店だったのです。

 では、「SIM2」を1万円台で売っている怪しいサイトは本物だったのか? いえ、そうではありません。そのサイトの店舗情報を見返すと、電話番号は記載されておらず、住所も微妙に本物の「株式会社プレスト」とは異なります。さらに決定的なのは、記載されたURLを直打ちして飛ぼうとすると、セキュリティーソフトが起動して「このウェブサイトは安全ではない可能性があります。この画面を閉じてください。」と警告を発するのです。

1日平均5件の問い合わせのうち実際に被害に遭った人は年配が多い

 ここまで来ると、そうそう引っかかる人はいなさそうにも思えますが、実態はどうなのでしょうか。名前を騙られている株式会社プレストに電話で取材を試みると、驚きの事実が判明しました。以下、ゴルフプレスト店舗運営責任者である徳山明伸さんの話。

「実は2カ月ほど前から弊社を騙るネットショップにまつわるお問い合わせが増えたんです。電話とメールを合わせて、平均すると日に5件ほどでしょうか」

 悪質サイトには電話番号の記載はないものの、店名から調べて電話やメールをしてくるようです。1店舗で1日5件も身に覚えのない出品についての問い合わせに対応し、それが毎日続くとなると相当の負担です。同店ではサイトのトップに「当店を装った悪質な偽サイトにご注意ください」と、赤枠で囲った大きな文字で記載し、注意喚起を図っていますが、まだ問い合わせが止む気配はないようです。徳山さんが続けます。

「問い合わせの内容は2種類に分かれ、一つは『実際に購入してしまって商品が届かない』というもの。もう一つは『随分安い価格だが本当か?』という確認。前者は年配の方が多く、後者は比較的若い方が多い印象です。『買った物が届かない』という問い合わせには、弊社には注文情報がなく購入されたのは詐欺サイトです、と明確にお伝えして、警察やクレジットカード会社に連絡していただくようご案内しています。値段等の確認でご連絡くださる方は、事情をお話しすると『やっぱりそうですよね』と納得されて電話を切られますね」

 やはり、年配層はネットショッピング等の事情にうとい人が多いためか、疑いなく購入してしまうケースが少なくないようです。そうなると、年配層にユーザーが多いゴルフ用品を意識的に詐欺の商材として利用しているのではないかと勘繰りたくもなります。

 悪質サイトが“釣り餌”にしている商品については、筆者が目にしたのがたまたまテーラーメイド製品だっただけなのかとも思いましたが、徳山さんによると、やはりほとんどがテーラーメイドで、少しだけブリヂストンのクラブセットやニコンの距離計が混ざるというのがゴルフ用品のラインナップのようです。

 しかし、犯人(とあえて言わせていただきます)はなぜか、ゴルフプレストの名前を騙ってテレビやPC、モニター、果てはチェーンソー(?)まで出品していると言うのです。犯人はいったい何を調子に乗っているのか、騙された人の悲しみ、ゴルフプレストの皆さんの迷惑を考えると、他人事ながら憤懣やるかたない気持ちになります。

フェイスブックの悪質広告に対抗する手段は「報告」のみ

 では、フェイスブック上に表示される悪質広告を止める手立てはないのでしょうか。

「それが、投稿の右上にあるメニューから『報告』ボタンを押すくらいしか手立てはなくて。もし、その『報告』が認められたとしても、悪質業者はすぐに違うアカウントをつくって新たな詐欺投稿をするだけです。定期的にSNS上をパトロールして、弊社を騙る業者を発見したらすぐ報告しているのですが、この2カ月だけで20件ほどの悪質広告を確認しました。他のショップさんが名前を騙られているケースも見られるので、逐一『やられてますよ』と教えてあげています」

 完全にいたちごっこの状態です。フェイスブックに関しては、確かに「ヘルプセンター」を見ても「不正利用の報告」の仕方を説明しているだけで、電話やメールで運営会社に直接苦情を申し立てる手段がないようです。テレビや新聞、雑誌といった、いわゆる旧メディアの場合、広告を掲載する際には法令や社内規定に沿うか否かの審査があり、基準を満たさないものははねられます。もし、審査基準を満たしているとして掲載された広告が犯罪につながった場合、そのメディアは社会的責任を免れません。なぜSNSの悪質広告は放置されているのでしょうか。

 消費者庁に見解を聞いたところ、何とももどかしい答えが返ってきました。

「(SNSの悪質広告の規制が進まないのは)表現の自由の問題があります。ただ、表現の自由と言っても人に迷惑をかけることはいけないわけで、その辺をどこまで考慮するかということになります。最近はプラットフォーマーの責任ということも言われており、ヨーロッパではすでに厳しい規制がありますが、(日本での議論は)これからというところです」(企画調整課・落合英紀さん)

 どうも国会議員を巻き込むような大きな議論を起こさない限り、なかなか規制は進みそうにありません。被害を受けて警察に届け出ても、なかなか動いてはくれないという話もあります。規制が進む前に悪質サイトのカモにされないよう、それまでは特に自衛の意識が必要だということです。

プラットフォーマーの責任追及が進まない日本での自衛手段

 最後に消費者庁の落合さんはいくつかの注意点を教えてくれました。

・書かれている言葉や文章がおかしい

・https:で始まるセキュアのサイトでない(ただし、中にはhttps:の悪質サイトも)

・相場に比べて値段が安すぎる

 上記のようなサイトは疑ってかかるべきだということです。冒頭紹介した「SIM2」安売りサイトもほぼ当てはまります。そして、大手ECモールなど信用できる場に出店している業者でない場合は特に注意が必要。2段階認証を採用しているショップ、代金引換で決済することなども対策として有効だと言います。当たり前のことのようにも思えますが、安さに目がくらんでしまうと、その当たり前のことを飛ばしてしまうこともあるかもしれません。欲しかったものがこんなに安い!というときほど、立ち止まって考え、基本的なチェックポイントを再確認してみることが重要です。

 コロナ禍の巣ごもり需要もあり、悪質サイトの被害が増えていることは間違いないようです。フィッシング詐欺に対する情報収集・提供、注意喚起等の活動を行うフィッシング対策協議会のデータによると、2020年の3月には9671件とまだ1万件に満たなかったのに対し、コロナ禍でその数は急角度で増加。21年8月には5万3177件にまで達しています。その後、5万件の大台は割り込んだものの、9月4万9953件、10月4万8740件、11月4万8461と、依然高い水準で推移しています。ゆめゆめ「自分だけは大丈夫」などと過信されませぬよう。

この記事の画像一覧へ(9枚)

画像ギャラリー

なぜか大言壮語で自信満々
公式サイトを装うが、日本語が変
異様に値段が安い
「限定」「早い者勝ち」など切迫感を煽る
「数量限定」などの文言で異様な安さを納得させようとする
物凄い数の「ひどいね」がついている
ロゴを大きくふんだんに使って公式っぽさを装う
「安心支払」ってどの口で言う!
その指、ちょっと待った!

最新記事