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“ワッグル13回”ヤジられてもルーティンを貫いた全英王者B・ハーマン 闘志に火をつけたギャラリーの心ない一言

2023.07.25 舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
ブライアン・ハーマン 全英オープン 砂場Talk(バンカートーク) 米国男子ツアー

36歳のブライアン・ハーマンの優勝で幕を下ろした今年の全英オープン。終わってみれば6打差の圧勝だったが、その実力に懐疑的な見方をするギャラリーも多く、ワッグルの回数が多いことなどからヤジを飛ばされることもしばしばだった。崩れそうになりながらも最後まで戦い抜くことができたハーマンの闘志の源とは?

「ブライアン、アナタに勝機はない」

 ロイヤルリバプールが舞台となった今年の全英オープン。開幕前の注目は、前回、この地で開催された2014年大会の覇者、ローリー・マキロイに集まっていた。

優勝が決まり、キャディーのスコット・ツエーとハグを交わすブライアン・ハーマン。傘の中にはたくさんのグローブが 写真:Getty Images
優勝が決まり、キャディーのスコット・ツエーとハグを交わすブライアン・ハーマン。傘の中にはたくさんのグローブが 写真:Getty Images

 前週のジェネシス・スコティッシュオープンを制したばかりのマキロイが、いい感触と流れを携えたまま、ロイヤルリバプールにやって来るのだから、マキロイ優勝の可能性は高いだろうと予想されていた。

 しかし、リーダーボードの最上段に躍り出たのは、36歳の米国人選手、ブライアン・ハーマンだった。初日を4アンダー、4位タイで好発進したハーマンは、2日目に65をマークし、通算10アンダーで単独首位へ浮上。すでに2位に5打差をつけ、断トツの首位に立っていた。

 リーダーボードにハーマンの名前が登場することを開幕前に予想していた人は、世界中にどのぐらいいたのだろうか。そう思えてしまうほど、彼の圧倒的なリードは予想外だった。

 SNSには「ゴルフは4日間72ホールだからね」などというフレーズを付して、「ハーマンは土日で崩れる」と揶揄する声が少なからず上がった。

 実際、3日目のハーマンは出だしからボギーを喫し、2位との差は4打へ、3打へと縮まっていった。だが、その後にしっかり立て直し、2位との差を5打に戻して、再び単独首位で54ホールを終えた。

 それでも多くのゴルフファンは、マキロイやジョン・ラームがハーマンをとらえ、逆転勝利する大どんでん返しを期待していたのだろう。風雨の中で始まった最終日、ハーマンはまたしても序盤の2番と5番で2ボギーを喫し、2位との差は、わずか3打になったが、ちょうどそのとき、ロープ際を歩いていたハーマンの耳にギャラリーのこんな声が入ってきたそうだ。

「ブライアン、アナタに勝機はない」

 その一言が、緊張とプレッシャーで揺れていたハーマンの心に火をつけた。

「いや、僕は勝てる。僕なら勝てる。絶対に勝ってみせる。あの言葉を聞いたとき、僕はそう思った」

 6番パー3で4メートルのバーディーパットを捻じ込み、こぶしを握り締めてガッツポーズ。7番では8メートルを沈め、2位との差を再び5打へ戻した。

 それが、最終日のハーマンのゴルフを好転させたターニングポイントだった。

 そこから先は、ハーマンが持つパットの妙技が花開き、とりわけロングパットの距離感には目を見張るものがあった。

 グリーンをとらえ損ねた13番パー3では、この日、3つ目のボギーを喫したが、「ブライアン、オマエなら勝てる。絶対にやれる。ブライアン、頑張れ!ブライアン、頑張れ!」ハーマンはポーカーフェイスの下で、終始、そうやって自分自身にエールを送り、自分なら勝てるのだと信じ続けていたという。

 追撃を試みるマキロイやラーム、キャメロン・ヤング、ジェイソン・デイらのパットは、肝心な場面でことごとくカップに嫌われた。
しかし、ハーマンのパットだけは面白いようにカップに吸い込まれていった。14番では12メートル、15番では3メートルのバーディーパットがカップに沈み、最後には2位に6打差をつけて、ハーマンの圧勝。自分を信じ続けたことが、彼の最大の勝因だった。

「輝きは他の選手たちに奪われ、僕はいつも陰っていた」

 ロイヤルリバプールの80個のポットバンカーの中でも、17番、18番のグリーンサイドのバンカーは「何が起こるか、分からない」といわれる超難関ゆえ、たとえ2位に6打差をつけていても、「18番でグリーンに乗せるまでは、勝てるとは思わなかった」とハーマンは振り返った。

 実際、ハーマンの18番の第3打はグリーン右サイドのバンカーにつかまった。しかし、危なげなく打ち出し、ピン1.5メートルに付けると、ようやくハーマンの頬が緩んだ。

 初めて笑顔を見せたのは、72ホール目のグリーン上。それは本当に長い道のりだったが、彼がこれまで歩んできた日々は、もっと長い歳月だった。

「ジュニア、アマチュア時代の成績は輝かしかったけど、プロになってからは、輝きは他の選手たちに奪われ、僕はいつも陰っていた」

 それでも2014年ジョンディアクラシックと17年ウェルズファーゴ選手権を制し、通算2勝を挙げたが、ハーマンは「この12年間、シーズンエンドのプレーオフシリーズに連続出場していることが何よりの誇りだ」と、常々言っていた。

 身長168センチ。小柄ゆえ、パワーや飛距離では勝負できないと腹を括り、ショットの精度を高めることと小技を磨くことに、ずっと取り組んできた。

 PGAツアーの統計では、ドライバーの平均飛距離は294.1ヤードで142位だが、ドライバーの精度は67%を上回り、14位にランクされている。そして、グリーン周りの小技とパットでは、さまざまなカテゴリーでトップ10に数えられている。今大会でも、フェアウェイキープ率とパットのランキングで1位にランクされた。

 正確なショット、手品のようにカップに沈めたパットは、幼少時代から決して変えなかった故郷ジョージアのスイングコーチ、ジャック・ランプキンから伝授された「秘伝の技」だ。

「ブライアン、オマエは、ついに勝った」
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