「職務から離れ、心身を休養させる必要に迫られた」
PGAツアーのジェイ・モナハン会長が、リブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」との統合合意を電撃的に発表したのは6月6日のことだった。

その日のうちに米CNBCのニュースショーにPIFのヤセル・ルマイヤン会長と並んで出演したモナハン会長は、満面の笑顔を輝かせ、誇らしげだった。
しかし、その発表を「寝耳に水」で知らされたPGAツアー選手たちからは、モナハン会長に対する批判が噴出。
「選手からの信頼が地に堕ちた」と米メディアからも書き立てられると、モナハン会長は、驚きの発表からわずか1週間後の6月14日に、体調不良による休職を発表。
米ゴルフ界には「モナハン会長は、もうPGAツアーには戻ってこないのでは?」と見る「モナハン会長引退説」がまことしやかに囁かれ始めていた。
だが、モナハン会長は引退説を覆し、7月17日に会長職に復帰することを発表。久しぶりにカムバックした会長は、選手たちにメモを回してPIFとの統合合意の内容を再度説明するなど、当面はひっそりと活動していたが、プレーオフシリーズ第1戦のフェデックス・セントジュード選手権では、試合会場に足を運び、ほぼ2カ月ぶりに公の場に姿を現した。
8月8日には選手25名と向き合ってミーティングを開き、翌9日には米メディアとのラウンドテーブル・ディスカッションに参加した。
「再びジェイの顔を目の前で見ることができて良かった」
「ジェイが思った以上に元気そうで安心した」
リッキー・ファウラーやジョーダン・スピースといったナイスガイたちは、ヘルシーな姿で復帰したモナハン会長を笑顔で受け入れていた。
AP通信によれば、モナハン会長はキャリアで初めて自身の都合で職務から一時離脱せざるを得なかった経緯を、選手たちに正直に明かしたという。
「これまで私は、常に前のめりでアグレッシブに動いてきた。ビジネスの厳しい戦いに飛び込んでいくのが私のスタイルだった。しかし、今回だけは自分の不安がどんどん広がっていき、自分のためにも家族のためにも、一度、職務から離れ、心身を休養させる必要に迫られた」
ほぼ5週間の休養中、モナハン会長が何かしらのコンサルティングや治療を受けたのかどうかは明かされていない。だが、陽の当たる場所に再び戻ってきたモナハン会長は「私は以前よりずっと強くなってカムバックできた」と言い切り、自信も強気の姿勢も取り戻している様子を披露したという。
「もう2度と、こんなやり方はしない」
モナハン会長には、今になって後悔していることが、1つだけあるという。
それは、PIFとの交渉を水面下で秘密裏に進め、選手たちには何も告げず、彼らを暗闇の中に置き続けてしまったこと。そして、統合合意に達したことを、誰にも告げず、いきなり抜き打ちで発表してしまったことだ。
交渉に携わったのは、PGAツアー側はモナハン会長を含めた3名のみ。PIF側はルマイヤン会長1名のみだったと言われている。
この4名だけで会合を持ち、ルマイヤン会長があらかじめ用意していた「統合の青写真」に、モナハン会長側がいくつかの要望を加えるなどの調整を行ない、数回の会合を経て統合合意に達した。
そして、モナハン会長は6月6日に唐突に声明を出して統合合意を電撃発表。それから数時間後、今度は米CNBCのニュースショーに出演して、世紀の統合合意を広く世間に公表したのだが、「そうする前に、選手たちに内容を諮り、了承を得るべきだった」と悔やんでみせた。
「もう2度と、こんなやり方はしない」
そう誓ったモナハン会長の姿に心を打たれた選手は多かったようで、マスターズ覇者のジョン・ラームも全英オープン覇者のブライアン・ハーマンも「ジェイがいなかったら、PGAツアーは新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックの危機を乗り越えられなかったかもしれない」「ジェイのけん引力は素晴らしい」と高評価。
他の選手たちもモナハン会長に拍手を送り、米メディアも「モナハン会長は以前の決断力とリーダーシップを取り戻した」「モナハン会長は選手たちからの信頼を取り戻した」と報じている。