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ゴルフ県代表コーチが自己破産を選択するまで―14冊の取材ノートから― 【小川朗 ゴルフ現場主義!】
「無料でホームページが作れる」という甘い誘いは、やがて1600万円の負債へと変わった。ティーチングプロの女性が巻き込まれたのは、被害総額46億円規模ともいわれる契約トラブル。崩れた日常と再出発までを追う。
最終章を迎えたゴルフスタジアム事件
「こんにちは。篠田プロでいらっしゃいますか?」。2015年だから、もう10年以上前のことになる。
中部地方の小都市にあるゴルフ量販店の一角でレッスン業を営んでいたティーチングプロ・篠田はるみ(仮名)の前に現れたのが、Tという営業マンだった。
その数日前に電話でアポを取られたはずなのだが、はるみにはその記憶があまりない。「怪しい営業の電話には絶対出ないことにしているので、所属していたゴルフ場経由か、付き合いのあるプロの名前を出されたのかもしれない。当時、ゴルフ量販店の試打コーナーでクラブアドバイザーをしながらレッスンもしていたので、そこに来てくれと伝えたのだと思います」と遠い目をして振り返る。

ここで篠田の生い立ちについて触れておこう。篠田は中部圏の温泉街で生まれたが、幼少期からシングルマザーの家庭で育った。幼稚園に優しくて大好きな先生がいて、卒園アルバムには「保母さんになりたい」と書いた。弟らの面倒もよくみる長女の気持ちはその後も変わらず、保育科のある短大に進み、めでたく保育士になる夢をかなえた。
首都圏の保育園に就職して2年が経ったころ、地元のゴルフ場内にある託児所からリクルートされる。これに応じて転職すると中古の7番アイアンをプレゼントされ、仕事の合間にコースを回るうち、篠田はゴルフにハマった。
フロントの仕事も任されるようになった3年後、知人から「ゴルフ練習場を立ち上げるので手伝ってほしい」との依頼を受ける。再度転職して1年が経った頃、今度は練習場にいたプロから、ゴルフ場に所属してティーチングプロになることを勧められた。
26歳からはゴルフ場の研修生としてプロを目指し、29歳の時2度目の受験でプロ合格。30歳になった年からレッスンを始め、指導助手からC級、B級とステップアップし、40代前半にして見事ティーチングプロフェッショナルA級の資格を取得した。
40代半ばに15年間勤めた練習場が閉場となり、新たな職場であるゴルフ販売大手の大型店舗に設置された鳥カゴでレッスンをしながら「クラブアドバイザー」として営業もしていた。
保育士の経歴からジュニアの体験会やスナッグゴルフのイベントなどの声がかかる。国体(現・国スポ)には県代表のコーチとして選手を引率する立場にもあった。
「ホームページが作れたら、楽になりますよ」
冒頭のシーンに話を戻そう。こうした多忙な日々を送る篠田を訪ねて売り場にやってきたTは慣れた口調で、こう切り出した。「ホームページ作りませんか?」。ホームページ……。それがあれば、もっと効率よく稼げるかもしれない。はるみがその話に興味を示したのは、このところ抱えていた悩みに原因があった。
忙しいわりに利益が上がらないのだ。ラウンドレッスンを週に1、2回こなし、練習場でレッスンの枠も持ち、生徒たちを引率してのゴルフ合宿やバス旅行も好評。時には海外まで足を伸ばすこともあった。
しかし2011年の東日本大震災以降、「ゴルフ熱が下火になって」500万あった売上は徐々にダウンしていた。週に一度の休みはあるが「自分のゴルフが楽しみの一つでもあるんで、その日もラウンド」。まさに365日ゴルフ漬けのような日々を送っていたこともあり、燃料費や交際費などで2割は消えた。年収ベースでは300万円台にとどまっていた。
悩みを明かすと、そこにTはつけこんできた。
「ホームページが作れたら、楽になりますよ。予約業務も簡略化できて、効率よくスケジュール管理ができ、人気が上がればレッスンフィーの値上げもできるかも」
確かに、自分で予約を受けて、スケジュールを調整する煩わしさには辟易している。Tのセールストークに、少しずつ魅力を感じ始めている自分がいた。
だが同時に、警戒心も頭をもたげた。「でもホームページって、作るのにも、維持するのにも、相当お金がかかるんでしょ?」
Tが我が意を得たり、の表情でこう答えた。
「ページに広告を載せていただければ掲載料で相殺できますので、制作費も管理費も実質無料になりますよ」
「……ふーん」。目の前に積まれた資料をパラパラとめくっていると、見慣れた名前が目にとまった。
何勝もしている有名選手が東京・大崎のゴルフスタジアム関連施設でスクールを開校していた。
「この選手もゴルフスクールを開いているんだ」とはるみがつぶやくと、Tは笑顔でうなずいた。「そうですよ」。こんな有名選手も関係しているのなら、大丈夫だろう。そう思い込んだ。
契約へと大きく傾いたはるみの心の中に、一抹の不安が芽生えたのが、ホームページの制作費と維持費が広告の掲載料でタダになるとはいいながら、「(ゴルフ練習用ソフトの)DVDの購入代金として、ローンを組んでほしい」と言われた時だ。
「何でDVDを買わなきゃいけないの?」というはるみの問いに、Tはこう答えた。「事業として成り立たせるために、DVD代金を合わせて支払っていただいています。でも大丈夫ですよ。月々の支払と同額の広告掲載料を、篠田さんの口座に間違いなく送金しますから」。
その流れでTは「屋号を決めてくれ」という注文も出してきた。篠田は個人事業主であるため抵抗を感じたが「ホームページを作るために皆さん作ってもらっています」と言って見せられた「活動拠点」の一覧には、付き合いのあるプロ仲間の苗字が付いたゴルフスクールが並んでいた。それに倣って、名前だけの屋号を「篠田ゴルフスクール」に決めた。
それでも一抹の不安が残ったため、すでに契約していたプロ仲間に連絡すると「お金も振り込まれているし、問題ないよ」との答え。これですっかり信用し「篠田ゴルフスクール」もセールストークに使われていた資料にあった「活動拠点」の仲間入りを果たす。自分の名前も同じように、新規勧誘のツールになっていたことを自覚するのは、ずっと後のことだ。
篠田自身にとって、ここでハンコを押してしまったことが、それから9年にわたる苦難の日々への第一歩となる。屋号を決めて契約したこともまずかった。消費者であれば、「消費者ホットライン」や「国民生活センター」に駆け込むこともできる。しかし消費者契約法は、事業者と消費者の間の情報や交渉力の格差を是正するための法律。事件の被害者であるレッスンプロたちが信販会社、リース会社と法廷闘争へと持ち込んだ時、彼らは消費者ではなく事業者とみなされた。このことも、大苦戦する一因となった。
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