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デシャンボーが全米OP優勝に王手をかけた55ヤードのバンカーショット なぜ“クラブを持たずに”素振りをしたか?
多くのツアープロのコーチとして活躍している石井忍氏が、“ここはスゴイ”と思った選手やプレーを独自の視点で分析します。今回は「全米オープン」で優勝したブライソン・デシャンボーです。
番手を上げてもいつも通り振るための予行演習
メジャー第3戦「全米オープン」はブライソン・デシャンボー選手の優勝で幕を閉じました。最終日のデシャンボー選手はショットが荒れ気味でしたが、18番のティーショットはそんな1日を象徴するように左のウェイストエリアに飛んでいきました。ボールの近くには木の根、頭上には枝がせり出している厳しいシチュエーションです。ここから打ったセカンドショットは、フェアウェイを横切ってグリーン右手前のバンカーへ転がり落ちました。
ピンまでは残り55ヤード――。優勝を決めるには、ここから2打で上がらなければいけません。
2打目を終えたデシャンボー選手は、すぐにバンカーに向かわず、バンカーの上からライをチェックしながらグリーンへ上がります。そこで傾斜やグリーンの硬さを確認した後、バンカーに足を踏み入れました。
ボールの近くに立ったデシャンボー選手は、軽く素振りを始めました。興味深かったのは、その手にはクラブがなかったことです。彼はなぜクラブを持たずに素振りをしたのでしょうか。
距離が長いバンカーショットの打ち方は2通りあります。一つは大きい番手を持って通常のバンカーショットの要領で打つ方法。もう一つは、通常のバンカーショットを打つ番手を持って打ち方を変える方法。つまり、どちらの打ち方を選ぶかによって使うクラブが変わるわけです。
クラブを持った状態で素振りをすると、多少なりとも握り方や振り方に意識が行くことになります。ピュアな状態で状況を把握して最善の打ち方を選ぶため、デシャンボー選手はクラブを持たずに素振りをしていたと考えられます。
現地メディアの報道によると、この時デシャンボー選手が使ったのは55度のウェッジです。彼のキャディバッグには60度のウェッジも入っていますから、打ち方を変えずに番手を上げる方法で距離が長いバンカーショットを打ったことになります。
そのショットは、「今までのキャリアの中で最高。完璧に打てた」と本人がコメントしたほどパーフェクト。1メートル強にピタリとつけてパーパットを沈め、力強く拳を握って雄叫びを上げました。
距離が長いバンカーショットを苦手とする一般ゴルファーは多いですよね。デシャンボーはアイアンからウェッジまでクラブ長を揃えるという特殊なクラブセッティングをしていますが、全米オープンのクライマックスの1シーンは皆さんの参考にもなるはずです。
「ヘッドを砂にぶつけなければ」と考えすぎない
この状況から打つ場合、まずは2通りのうちどちらの打ち方が自分のイメージに合うかを考えて番手を選びましょう。打ち方を変えるときは、フェースを開く度合いを少なめにしてハンドアップに構えるのがコツ。手元を高めにすることでコックが入りにくくなり、砂を薄く取ることができます。
番手を変えるときは、サンドウェッジからアプローチウェッジやピッチングウェッジに持ち替えて、いつも通りに打てばOKです。
ちなみに、そもそもバンカーショットが苦手という人は、砂を多く取りすぎているのかもしれません。「ヘッドを砂にぶつけなければ!」と考えすぎず、左体重をキープしてボールの手前スレスレを狙ってヘッドを入れていくと、ボールがフワっと上がりやすくなりますよ。
ブライソン・デシャンボー
1993年生まれ、カリフォルニア州出身。2016年にプロ転向し、17年にPGAツアー初勝利。18年はシーズン4勝を挙げる活躍を見せた。その後、肉体改造でツアー屈指の飛ばし屋に変貌を遂げ、同ツアーのドライビングディスタンス1位を獲得。20年には「全米オープン」でメジャー初勝利。22年からは新リーグ「リブゴルフ」に参戦。24年の「全米オープン」では同大会2勝目を飾った。PGAツアー9勝(メジャー2勝)、欧州3勝、リブゴルフ2勝。
【解説】石井 忍(いしい・しのぶ)
1974年生まれ、千葉県出身。日本大学ゴルフ部を経て1998年プロ転向。その後、コーチとして手腕を発揮し、多くの男女ツアープロを指導。「エースゴルフクラブ」を主宰し、アマチュアにもレッスンを行う。
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