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“獄中2年半”から昨年出所のA・カブレラが全英シニアで5位 54歳のカムバックを支えるのは“服役中”に授かった息子への愛
今年の全英シニアオープンが終了。スコットランドの難コース、カーヌスティが舞台となった大会で躍動し、注目を集めたのはアルゼンチンのアンヘル・カブレラだ。メジャー2勝のカブレラだが、女性に対する恐喝・暴行の罪で服役し、昨年出所したばかり。54歳のカムバックを支えるものは?
元パートナーに対する恐喝や暴行でブラジル、アルゼンチンで服役
スコットランドの難コース、カーヌスティが舞台となった全英シニアオープンで、アルゼンチン出身の54歳、アンヘル・カブレラが大奮闘。勝利には及ばなかったものの、5位タイに食い込み、笑顔を見せた。
「カブレラ? 最近、全然見なかったなあ」などと、お思いの方々は少なくないのではないだろうか。
それもそのはず。カブレラは約2年半、ブラジルとアルゼンチンで“塀の中”にいたのだから、その間、彼の名前を聞くことはなく、彼の姿を見ることもなかったというわけだ。
しかし、昨夏に出所して、プロゴルフ界にカムバックしたと思った矢先、早々にシニアのメジャー大会で優勝争いに絡んだのだから、彼の復活ぶりはミラクル級と言っていい。
カブレラはPGAツアーで通算3勝を挙げた実力者だが、初優勝は2007年の全米オープン、2勝目は2009年のマスターズとメジャー制覇続きで、彼の勝機との巡り合い方は、これまたミラクル級だった。今どきの表現を借りれば、「カブレラはもっている」と言えそうである。
カブレラは1989年にプロ転向。2007年にPGAツアーにデビューした当時から、大柄な肉体から生み出されるパワフルでダイナミックな彼のゴルフは、米国のゴルフファンを魅了していた。
英語はほとんど解さず、英語を学ぼうとする姿勢すら見せなかったカブレラだが、愛嬌のある笑顔は可愛らしくもあり、そのせいか女性ファンは驚くほど多かった。
そして、他の大勢の選手たちがなかな勝つことができないメジャー大会で、「いとも簡単」と言わんばかりに全米オープンとマスターズを次々に制覇したカブレラの強運ぶりも、大勢のファンを唸らせていた。
しかし、彼は元パートナーの女性に対する恐喝や暴行等を行った嫌疑で21年1月に滞在先のブラジルで逮捕され、懲役2年の判決が下されて、刑務所入りとなった。
その後、別のパートナー女性に対しても同様に恐喝や暴行等を行ったことが明らかになり、カブレラの刑期はさらに延長されて、身柄は母国アルゼンチンの刑務所へ移された。
ブラジルとアルゼンチンの双方で通算30カ月の刑期を終えたカブレラは、昨年8月に晴れて刑務所から出所。母国アルゼンチンに戻ってきた。
驚くなかれ、カブレラは服役中に父親になっていた。彼の地の刑務所では、刑期満了が近づいた模範囚に限り、15日ごとに塀の外へ出て好きに過ごすことができる自由時間を授けられるのだそうだ。
カブレラも「2時間の自由時間をもらっていた」とのことで、彼はその自由時間を逮捕される以前から交際していたパートナー女性とともに過ごし、その女性は22年11月に男の子を出産。
「この年で、この私が新たな命を授かったことは、奇跡のような出来事だ。生まれてきてくれた息子のために、私はもっと強く、もっといい人間にならなければいけないと思う。息子がこの世に存在してくれていることが、私に力を与えてくれた」
父親としての責任感に目覚めたカブレラは、さらに模範的な囚人となって刑期が短縮され、息子が1歳の誕生日を迎える前に刑務所から出ることができた。
そして彼は息子とその母親のために「プロゴルファーとして試合の場に戻りたい」と切望。プロゴルフ界に復帰し、賞金を稼いで家族を支えていこうと心に誓った。
「家族のために賞金を稼ぎ、息子のために良き父親になりたい」
昨年末には、PGAツアー・アメリカス(元PGAツアー・ラテンアメリカ)の大会に出場することが叶った。それは刑務所から出所後、初めて臨んだ4日間72ホールの戦いだったが、カブレラはいきなりトップ10入りをやってのけた。
さらに彼は「オーガスタナショナルは私の第二の故郷だ。なんとしてもオーガスタの土の上で再びクラブを振りたい」とマスターズ出場を強く望んでいた。
そして、オーガスタナショナルのフレッド・リドレー会長は、今年1月、「カブレラは素晴らしいマスターズチャンピオンの1人だ。まず彼は米国入国のためのビザを取得する必要がある。ビザが取れて、入国準備が整ったら、オーガスタナショナルは彼を歓迎する」と語った。
PGAツアーも早々にカブレラのツアー復帰を認め、過去の優勝者の資格によって、シニアのチャンピオンズツアーの正式なメンバーシップが付与された。これによりカブレラは、出場枠に空きがあれば出場できるほか、スポンサー推薦は無制限に年間何試合でも受けられることになった。
今年5月には米国入国のためのビザが無事に発給されて、さっそく渡米。テキサス州ヒューストンに拠点を置き、転戦生活の準備を開始した。
残念ながら今年のマスターズには間に合わなかったが、カブレラの世話人によると、「アンヘルは来年のマスターズには絶対に出たいと、意欲を燃やしている」という。
今年6月の全米シニアオープン出場も望んでいたが、同大会のエントリーは5月に締め切られていたため、やはり今年の出場は叶わなかった。
しかし、6月と7月にチャンピオンズツアーの大会に挑み、各々22位タイと17位タイになった。そして先週は全英シニアオープンに出場。優勝争いに絡み、5位タイと大奮闘した。
「出場できる試合はすべて出て、必死に戦いたい。家族のために賞金を稼ぎ、息子のために良き父親になりたい」
カブレラは心の底から、そう願っているという。
日本とアルゼンチンでは法律も司法制度も異なり、日本と米国でも国民性や文化、考え方や受け止め方は異なるものだが、家族を持ったことで「生まれ変わった」「心を入れかえた」というカブレラの歩みには、刑期満了後の社会復帰という意味も含め、世界中から注目が集まっている。
私自身、カブレラの変身ぶりとこれからの動向を、遠くからひっそり見守っていきたい。
文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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