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「去年の今頃は失業するかもと思っていた」 J.J.スポーンをキャリアの危機に追い込んだ病とメジャー制覇に導いた諦めない魂

2025.06.18 舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
全米オープン 砂場Talk(バンカートーク) 米国男子ツアー

今年の全米オープンは超高難度のコースセッティングによりビッグネームが振るわない中、頂点に立ったのはツアー1勝のJ.J.スポーン。糖尿病を患うなど決して順調とは言えないキャリアをたどりながら、メジャー制覇というプロゴルファーの夢を現実にしてみせた。

悪天候による中断が「僕にとってカギになった」

 全米オープン初日を単独首位で発進したJ.J.スポーンが、首位から1打差の2位タイで迎えた最終日の前半で次々に5つものボギーを喫したとき、彼は優勝争いから脱落したかに見えていた。

苦難を乗り越えてゴルフ界最高の栄誉を手にしたJ.J.スポーン 写真:Getty Images
苦難を乗り越えてゴルフ界最高の栄誉を手にしたJ.J.スポーン 写真:Getty Images

 しかし、後半12番、14番でバーディーを奪ったスポーンは、優勝争いの圏内に舞い戻ってきた。

 きわめつけは上がり2ホールの連続バーディーだった。短いパー4の17番では、1オンに成功し、イーグルパットをピン40センチに寄せて楽々バーディー獲得。

 18番では20メートル超のバーディーパットを魔法のようにカップに沈め、2位に2打差で逆転勝利を決めると、右拳を突き上げ、力強いガッツポーズを取った。

 一度は落ちてはい上がったスポーンのカムバック劇は圧巻だった。2位になったロバート・マッキンタイアも、後半に優勝争いから脱落して12位タイに終わったアダム・スコットも、見事な勝利を収めたスポーンに心から拍手を送っていた。

 実を言えば、スポーンが見事なカムバックを披露したのは、今回が初めてではない。人生においても、キャリアや成績面においても、彼はローラーコースターのような上下動を、これまで幾度も経験してきた。

 そんなスポーンの険しい歩みを知っているツアー仲間は、彼のメジャー初優勝を心から祝福している。

 最終日。スポーンの前半は散々だった。1番では右ラフから左ラフへと渡り歩いたが、左ラフからの3打目は100ヤード以上も転がって、ピン6メートルに付くラック(幸運)に恵まれた。しかし、パーパットを沈めることはできず、ボギー発進となった。

 2番では、せっかくの好打がピンフラッグに当たって跳ね返され、グリーンの50ヤード手前まで転がり戻る不運に見舞われた。

 3番、5番、6番でもボギーを喫し、悪い流れは、もはや止まらないかに見えていた。

 その流れが変わったのは、悪天候による一時中断だった。いや、一時中断になったことを利用して、気持ちを入れ替え、スポーン自身がターニングポイントを作り出したと言ったほうが正確である。

「あの時点で僕は首位とは4打差だったが、どんなに流れが悪くても、自分のゴルフをするのみ、一打一打に集中するのみだと自分に言い聞かせていた。あのブレイクが僕にとって、カギになった」

 選手からもゴルフファンからも嫌がられるサスペンデッドという状況を、ラッキー・ブレイクに変え、流れを一変させたスポーンの戦いぶりは、あまりにも素晴らしかった。

PGAツアーに昇格した矢先に発症した糖尿病

 うれしくない現実も、良からぬ流れも、「これも定めだ」と受け入れ、逆利用して糧とする。そんなスポーンの姿勢は、彼のゴルフのみならず、彼の生きざまにも、はっきりと見て取れる。

 米ロサンゼルスで生まれ育ち、サンディエゴ州立大学を卒業したスポーンは、2012年にプロ転向。下部ツアーを経て、17年にPGAツアーにたどり着いた。

 しかし、成績は上がらず、翌年には体重が激減し、力が入らなくなった。病院で検査を受けたところ、糖尿病と診断された。

 シード落ちの危機も迫っていた。だが、スポーンは「ここで諦めるわけにはいかない」と気持ちを強く抱き、投薬治療を受けながらプロゴルファーとしての生活を続けようと心に決めた。

 自分が糖尿病と診断されてからは、同じ病気に向き合う人々に自ずと視線が向き始めたそうで、チャリティー活動にも積極的になった。すると、彼の成績は徐々に向上。22年バレロテキサスオープンで初優勝を遂げた。

 だが、それ以降は勝利から遠ざかり、不安定な成績が続いて再びシード落ちの危機に瀕した。

「去年の6月ごろは、仕事を失うかもしれないと思っていた」

 24年はメジャー4大会には一つも出場できず、スポットライトが当たらない日々の中、粛々とゴルフクラブを振った。

 ひたむきな努力が実ったということなのだろう。今年3月のプレーヤーズ選手権では、月曜日に持ち越された3ホールにわたるプレーオフを世界のトッププレーヤーであるローリー・マキロイを相手に戦った。

 勝利したのはマキロイだったが、なかなかメジャー大会の舞台に立てなかったスポーンが、「第5のメジャー」でマキロイと競り合った経験は「勝てなかったけど、大きな自信になった」。スポーンは手ごたえを感じていた。

「不運があれば、幸運もある」と信じ続けた

 人間が一生のうちに遭遇する幸運と不運は同じ量だという話を、どこかで耳にしたことがある。

 シード落ちの危機に陥っても、糖尿病と診断されても、悲嘆に暮れるのではなく、諦めることをせず、どうしたら事態を好転させることができるかを考える。良いことも悪いことも両方含めて、それが人生の定めだと受け入れ、落ちたものを引き上げることに全力を尽くす。それが、スポーンの生きる姿勢であり、彼の信条でもあるのだと思う。

 わずか2度目の出場だった今年の全米オープン最終日。2番で打った好打がピンフラッグを直撃し、50ヤードも戻されてボギーを喫したときも、前半5ボギーで優勝争いの蚊帳の外になったときも、「不運があれば、幸運もある」とスポーンは信じていたという。

 その通り。試合再開後の後半は、流れがすっかり変わり、スポーンのゴルフが好転したら、それとは正反対にそれまで優勝争いを演じていたサム・バーンズとアダム・スコットがガラガラと崩れ落ちていった。

 スポーンの上がり2ホールの見事なバーディーは、落ちてもはい上がり、負けても立ち上がり、決して諦めることなく戦いの世界に身を置いてきた彼に、勝利の女神が運んできた最大級、最高級のラックだったのではないだろうか。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

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