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PGAツアー最大の武器が奪われる!? リブゴルフが渇望する「世界ランキング」と「メジャー」の行方
混戦を制し、マシュー・フィッツパトリックがメジャー初制覇を成し遂げた今年の全米オープン。その盛り上がりをよそに、「リブゴルフ」を巡る喧騒は止むことがなかった。
近来まれに見る「最高」の全米オープンの陰で…
米マサチューセッツ州の名門ザ・カントリークラブが舞台となった今年の全米オープンは、近代における「最高の全米オープンになった」と、米TV中継のアナウンサーや解説者たちは何度も強調していた。
「最高」の意味はいろいろあった。落としどころが狭いフェアウェイをわずかでも外せば、深いラフやバンカーに行く手を阻まれ、パーを取ることが難しくなる。だから、フェアウェイキープは「MUST」となる。
固く速くアンジュレーションに富んだグリーンをとらえるためにはアイアンショットの高い精度も求められる。複雑なラインを読み切り、実行するパッティングの技術も、勇気も、もちろん必要だ。
グッドショットは正当に報われ、バッドショットはペナルティーを受ける。そんなフェアなコース設定が「全米オープンらしい最高の舞台を作り出した」と、選手たちからも関係者からも絶賛されていた。
その舞台の上で、エネルギッシュな若い力がぶつかり合い、20歳代の新進気鋭の選手たちが見ごたえある戦いを披露してくれた。
優勝争いの大詰めは、今年のマスターズ覇者のスコッティ・シェフラー、メジャー大会でもレギュラー大会でも惜敗続きのウィル・ザラトリス、そしてPGAツアーではやはり未勝利の英国人マシュー・フィッツパトリックの三つ巴となり、1打差で初優勝を掴み取ったのは27歳のフィッツパトリックだった。
2位に1打差で迎えた72ホール目、フェアウェイバンカーからグリーンをとらえたセカンドショットは圧巻だった。
「生涯忘れない僕のベストショットになった」
そんな締め括り方も結末も「最高」だった。
「PGAツアーのスポンサーもサウジとつながってるじゃないか!」
しかし、米ゴルフ界からは、グレッグ・ノーマンが創設した新ツアー「リブゴルフ」が「せっかくの全米オープンに影を落とした」という嘆きの声が聞こえてくる。
リブゴルフの初戦がロンドンで開催されたのは全米オープン直前の6月9日から11日の3日間だった。
PGAツアーはリブゴルフに参加した17名の選手たちにサスペンデッド(資格停止)処分を下したが、全米オープンを主催するUSGA(全米ゴルフ協会)は彼らを今年の大会には「暫定的に」受け入れ、17名中15名がザ・カントリークラブにやってきた。
開幕前から最大の注目を集めていたのは、リブゴルフへ移籍したフィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソンといった面々で、米メディアは彼ら15名が初日から「どのぐらい出遅れたか」を強調する記事を発し、対するリブゴルフはそんな論調に対抗するかのように15名の顔写真を並べてSNSに掲載。「グッドラック!」と声援を送った。
いざ、全米オープンが開幕し、2日目、3日目と進行している真っ只中でも、さまざまな決定や発表があった。
全米オープン翌週のDPワールドツアー(欧州ツアー)の大会、BMWインターナショナルオープンは、リブゴルフの初戦に参戦した選手たちを「出場可能」と決めた。
一方、7月の全英オープン前週に開催が予定されているスコティッシュオープンは、リブゴルフ出場者を「受け入れない」ことを発表した。
そんな中、とても気になるのは、リブゴルフが世界ランキングのポイント対象大会として認められるかどうかという点だ。
大会3日目の6月18日、ノーマンはあるテレビ番組に出演し、驚きの言葉を次々に口にした。
「リブゴルフを世界ランキング対象ツアーにしてもらえるよう申請中だ。だが、申請を認めるかどうかの投票権を持つ理事の1人はPGAツアーのジェイ・モナハン会長だ。もしもモナハン会長がリブゴルフを認めたくなくて1票を投じなかったら、それは彼の人間性をおとしめる悲しい行為となるだろう」
さらにノーマンは、リブゴルフとサウジアラビア政府との関係が批判の的になっていることに言及し、こう反論した。
「PGAツアーをスポンサードしている企業のうちの23社はサウジ政府とビジネス上のつながりがあるのに、なぜそれらは批判されず、リブゴルフだけが批判されるのか?」
そう言ってノーマンは声を荒げた。
4日間72ホールと予選落ちなし3日間54ホールの整合性は?
今、PGAツアーが「自分のところにはあって、リブゴルフにはないもの」として最大の拠り所としているのは「世界ランキング」と「メジャー大会」の2本柱だ。
だが、もしもリブゴルフが世界ランキング対象ツアーとして認められたら、リブゴルフでポイントを稼いでランクアップを図り、メジャー大会に出場する道が開ける。
もちろん、そのためには、今回の全米オープンのように、今後、メジャー4大会がリブゴルフの選手たちを受け入れることが大前提となる。
仮に、リブゴルフが世界ランキング対象ツアーとなり、リブゴルフの選手たちもメジャー4大会に出場可能となったら、そのときはPGAツアーの2本柱は崩れる。
そして、選手たちは「それならば、どっちにしようかな」という具合にPGAツアーとリブゴルフを天秤にかけ、それぞれの答えを出していくことになるだろう。
だが、予選2日間を含めた4日間72ホールで競い合う米欧ツアーや他のツアー、そしてメジャー4大会と、予選落ちのない3日間54ホールのリブゴルフの整合性は、果たして取れるものなのだろうか。
54ホールと72ホールでは「戦い方は全然違う」と選手たちは言う。PGAツアーからチャンピオンズツアーへ移行したシニア選手たちは「3日間大会での戦い方と勝ち方を覚えるまでに時間がかかった」と口を揃える。
好んでリブゴルフを選んだ選手が、メジャー大会などで不慣れな4日間大会に苦労するとしたら、それは「仕方ない」「慣れてください」と言うまでのこと。
だが、もしもリブゴルフが「多勢」に変わった場合、いつの日かメジャー4大会のフォーマットもそれに準じて変わり、マスターズや全米オープンが予選落ちのない3日間54ホールの戦いに変わることだって、決して考えられなくはない。
それほどゴルフというゲームの根幹を揺るがしかねない事態が、今年の全米オープン周辺で起こり続けていた。
PGAツアーに忠誠を誓う選手たちが奮起
その喧騒が栄えあるメジャー大会に影を落としたのかと問われたら、「落とした」と感じる一方で、悪いことばかりではなく良き効果も見られたように思う。
PGAツアーに忠誠を誓うローリー・マキロイは、前週のRBCカナディアンオープンで勝利を飾り、ノーマンより「1つ多い通算21勝」を挙げたことを強く誇り、全米オープンでは出場2連勝の意欲を燃やしながら好プレーを披露して、5位タイに食い込んだ。
幼いころからPGAツアーを夢見ながらゴルフクラブを振ってきたフィッツパトリックやザラトリス、シェフラーといった若い選手たちは、PGAツアーを守るべく、魅力溢れるゴルフを披露した。
今年の全米オープン優勝賞金は、昨年より92万5000ドル増額され、今年のマスターズや全米プロの270万ドルを大幅に上回る史上最高の315万ドル(約4億950万円)へ上昇。予選落ちした選手たちにも非公式に1万ドル(約130万円)が支給されたという。
リブゴルフは喧騒をもたらしたばかりでなく、従来のツアーや大会を刺激し、鼓舞するブースターにもなっている。
それが、良いことか、悪いことか。答えは、受け取り方次第、考え方次第なのではないだろうか。
舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
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