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“全米が呆れた”デシャンボーと“潔い”バッバの違い リブゴルフの泥沼で求められること

2022.08.16 舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
バッバ・ワトソン ブライソン・デシャンボー リブゴルフ(LIV Golf) 砂場Talk(バンカートーク) 米国男子ツアー

リブゴルフ参加選手がPGAツアーを相手取って起こした訴訟がついに開始された。先週開幕したPGAツアー・プレーオフシリーズへの出場要求は却下されたが、これはまだ序章に過ぎず、状況は予断を許さない。

プレーオフ出場を求めるリブ選手の請求は棄却

 PGAツアーからリブゴルフへ自身の意思で移った11名の選手が、PGAツアーから受けた資格停止処分の取り消しを求め、古巣のPGAツアーを反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴し、ついに開始された法廷闘争。

PGAツアーカードを返上したことで、潔いと評価されたバッバ・ワトソン 写真:Getty Images
PGAツアーカードを返上したことで、潔いと評価されたバッバ・ワトソン 写真:Getty Images

 後日、11名の中からカルロス・オーティスが訴えを取り下げたため、現在、提訴組は10名に減っている。

 そのうちの3名、テーラー・グーチ、マット・ジョーンズ、ハドソン・スワフォードは、リブゴルフへ移籍した段階では自分たちがフェデックスカップ・ランキング上位125位以内に位置していたとして、PGAツアーのプレーオフ・シリーズ第1戦「フェデックス・セントジュード選手権」への出場許可を求める仮処分(資格停止処分の仮差し止め命令)を申請。

 そして、3名の出場可否を巡る審問が、フェデックス・セントジュード選手権開幕のわずか2日前の8月9日に、カリフォルニア州内の連邦裁判所で行われた。

 結果、3名の主張は完全に退けられ、リブゴルフ側の完敗となった。

 審問前の下馬評では、PGAツアーの「独裁」「独占」による被害を訴え、選手たちの「権利」「平等」「公平」を求める姿勢を打ち出していたリブゴルフ側が有利と見る向きが多かった。

 しかし、ベス・ラブソン・フリーマン判事による鮮やかな指摘と解釈により、今回の審問はPGAツアー側に軍配が上がった。

 すると、巷に溢れる空気にも、さっそく影響が出始めた。

PGAツアーの将来を案じる声が一転、楽観的に

 今年6月にリブゴルフが創始されてからというもの、PGAツアーに背を向けてリブゴルフへ移る選手たちが続出したため、PGAツアーの今後を案じる声が方々から聞こえてきていた。

「PGAツアーから選手がいなくなるのではないか?」「PGAツアーは消滅するのではないか?」と将来を危惧する声は、リブゴルフ側がPGAツアーを提訴したことで「裁判に負けたらPGAツアーはおしまいなのでは?」という具合に、法廷闘争の行方を恐れる声に変わっていった。

 だが、9日の審問は、3名のプレーオフ出場可否だけを問う限定的な内容だったとはいえ、リブゴルフ側の訴えが完全に退けられた結果となり、巷には「やっぱりPGAツアーこそが正義だ!」と歓喜する戦勝ムードが溢れ返った。

 リブゴルフ側の主張が法廷で否定されたことにより、ノーマン率いるリブゴルフによるスター選手たちの勧誘の仕方が強引すぎたという印象も世間では強まった様子で、審問から2日後にSNSに登場した風刺的な動画が大きな話題になった。

 米国でオンラインのスポーツギャンブルを手掛ける会社がツイッターで発信した56秒間の動画は、登場する人物の顔部分に実際の選手や関係者の顔写真を重ねる形で合成されたコミカルな仕上がりだが、動画全体のストーリーや演出には「現実」が緻密に、そしてシニカルに織り込まれており、思わず苦笑させられた。

 動画の流れをざっと紹介すると、こんな感じになる。

 街中を走って逃げるバッバ・ワトソンを「LIV GOLF」と記された黒いワゴン車が追いかけ回し、車から降りてきたグレッグ・ノーマンが飛び掛かってワトソンを「拉致」。

 ワゴン車は道路沿いの看板などを次々になぎ倒しながら乱暴に走り回った挙句、ショッピングモールの駐車場で急停止。そこにはPGAツアーのジェイ・モナハン会長とリブゴルフ移籍が噂されているキャメロン・スミスの姿がある。

 ノーマンはモナハン会長に怒声を浴びせながら、モナハン会長が両手で抱えていた買い物袋の中からポテトチップスなどを1つ2つ、ドサクサに紛れて奪い取り、懐へ入れるという“せこさ”も垣間見せると、スミスをワゴン車に押し込み、再び街中を乱暴に走行する。

 そしてワゴン車は、街中のベンチに腰掛けて談笑していたタイガー・ウッズとローリー・マキロイらの前で急停止。今度はフィル・ミケルソンやブライソン・デシャンボーも車から降り、ウッズとマキロイの間に座っていたゴルフ解説者デビッド・ファハティをワゴン車に「さあ、どうぞ」と招き入れる。

 そして、砂煙を上げながらワゴン車は走り去るのだが、ベンチには年老いたウッズとマキロイが、リブゴルフに「拉致」されることなく、ちゃんと残っているというオチが、なんとも痛快な動画だった。

 リブゴルフ側の「強引」「無秩序」が強調され、PGAツアーはあくまでも受け身の姿勢で描かれたこの動画は、まさに初の法廷闘争の結果を受け、リブゴルフ側を風刺する意味合いで制作されたものだった。

デシャンボーが繰り出した的外れなピザ屋の例え

 振り返れば、今回の審問が行われる以前の段階では、リブゴルフに移った選手たちは言いたい放題という様子だった。

 例えば、デシャンボーが米国のテレビ番組に出演し、PGAツアーとリブゴルフをピザ屋に例えた発言は、支離滅裂だったことに加え、スポンサーやファンの不満や怒りを買う結果になった。

「50年間続いているピザ屋があり、みんなそのピザ屋に行って食べていた。実際、その店のピザは素晴らしいピザだった。しかし、あるとき突然、新しいピザ屋がオープンし、『みんな来てね、食べてね』とピザを無料で配り始めた。そのピザは、昔からある50年来のピザ屋のピザより、少しばかり美味しいピザだった。すると、古いほうのピザ屋は激怒し、『新しいピザ屋に行った人が、私たちのピザ屋に戻ってくることを禁止する』と言った。そういうことだよね? おかしいよね?」

 デシャンボーは得意げにそう言ってみせたが、彼の発言を耳にした人々の間からは「デシャンボーは売り物を食べるだけのカスタマー(顧客)なのか?」「プロゴルファーは、むしろ店(ツアー)と一緒に売り物を作り出す側に居るべきではないのか?」といった指摘が上がった。

 そして、店(ツアー)と顧客(選手)だけしか存在しない構図に例えたデシャンボーの頭の中には「スポンサーやファンの存在が認識されていない」という指摘も上がり、「浅はか」「自分勝手」「プロ意識の欠如」という批判が殺到した。

 一方、7月末にリブゴルフへの移籍を発表したワトソンは、9日の審問でリブゴルフ側の訴えが完全に退けられた翌日、PGAツアーのメンバーシップを自ら返上した。

 ワトソンは膝を故障して戦線離脱しており、彼自身がリブゴルフでプレーできるのは2023年からになる見込みだという。今季はリブゴルフ第4戦からノン・プレイング・キャプテンとして参加する予定だが、いずれにしても膝が回復するまでの間は個人戦の賞金を稼ぐことがまったくできない。

 だが、それでもワトソンは、PGAツアーのメンバーシップを返上することを10日に公表した。それは、PGAツアーに背を向けた自分ができる「せめてもの礼儀」だったのではないだろうか。

 そんなワトソンは「PGAツアーを裏切った選手とはいえ、潔い」と、米国のゴルフファンの間では高く評価されつつある。

 戦う場所を選ぶ権利は個々の選手にある。だが、その権利を行使する際、ちょっとした気遣いをするかどうか、せめてもの礼儀を尽くすかどうかで、周囲との軋轢を軽減することは、できるはず。
今、リブゴルフへ移籍した選手たちに一番求めたいのは、要らぬ戦いを避けるための「ちょっとした気遣い」と「せめてもの礼儀」だと私は思う。

PGAツアーに残ったシェフラーの大人げない行動

 ただし、同じことはPGAツアーに残っている選手たちにも言えるはずである。

 フェデックス・セントジュード選手権の初日、マスターズ覇者のスコッティ・シェフラーは、前述した通りリブゴルフ移籍が噂されている全英オープン覇者のキャメロン・スミスのパットのラインを、あからさまに踏みつけながら歩いた。

 素知らぬ顔をしながら目の前を歩いていくシェフラーを、スミスは驚きと腹立ちが入り混じった表情で凝視。その場面を捉えた動画がSNSで出回ると、あたかもPGAツアーとリブゴルフの戦いであるかのように取り沙汰されて話題になった。

 現段階ではスミスはリブゴルフへの移籍に関して「ノーコメント」を通しているが、最終的に彼が移籍してもしなくても、それとは無関係にPGAツアーの選手はプライドを持ち、胸を張れるゴルフを続けるべきだ。

 PGAツアーの選手がゴルフそのもの、プレーそのものにおいて礼儀やマナーを欠いてしまったら、PGAツアーに背を向けてリブゴルフへ移っていった選手たちの言動をとやかく言うこともできなくなる。

 どこからも、誰からも、後ろ指を指されないよう一人一人が心掛けることこそが、泥沼状態にある現在のゴルフ界の誰にも求められているのではないだろうか。

文・舩越園子
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

【画像】“ライン踏みつけ事件”直前、シェフラーとスミスのひと波乱を予感させる表情

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