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コラム

日本オープンは5月開催が理想!? “恐怖のラフ”生んだ事情と「開催時期変更案」【小川朗 ゴルフ現場主義!】

2024.10.16 小川 朗(日本ゴルフジャーナリスト協会会長)
国内男子ツアー 小川朗 ゴルフ現場主義! 日本オープン

第89回「日本オープンゴルフ選手権」の大会期間中、多くの選手が指摘したのは「経験したことがないほど厳しいラフ」。日本最高峰のトーナメントの裏で何が起きていたのでしょうか。そこには地球温暖化に伴う異常気象続きの日本で、10月にナショナルオープンを開催する上でのリスクがいくつも存在していました。

長雨の影響で刈止めのタイミングを見誤った

 第89回「日本オープンゴルフ選手権」はアンダーパーがわずか2人というサバイバルゲームとなり、追いすがる木下稜介選手を今平周吾選手が最終ホールのバーディーで突き放し、4アンダーで優勝を飾りました。大会期間中、多くの選手が指摘したのは「経験したことがないほど厳しいラフ」。日本最高峰のトーナメントの裏で何が起きていたのでしょうか。そこには地球温暖化に伴う異常気象続きの日本で、10月にナショナルオープンを開催する上でのリスクがいくつも存在していました。

ラフに入るとボールを探すのもひと苦労 写真:JGTO Images
ラフに入るとボールを探すのもひと苦労 写真:JGTO Images

※ ※ ※

 2022年大会を制した蝉川泰果ほか、多くの教え子を持つJGAナショナルチームのヘッドコーチ、ガレス・ジョーンズ氏に今大会のセッティングについて尋ねると、厳しい表情でこう言いました。「今回はラフがシビアになりすぎた。パー5でティーショットを3番アイアン、セカンドショットも3番アイアン、3打目を9番アイアンで攻めることになっているのは、どうかと思うよ」。

 今大会で8位に食い込んだ石川遼選手も初日のホールアウト後、「これだけ600yのパー5のティーイングエリアにターフがいっぱいあるのは珍しいことですし、普通は問答無用でドライバーみたいな感じですけど、結構な数の選手がドライバー以外、3番ウッド以下という形で」ティーショットを選択していたことを指摘していました。

 最終日に17番パー3のバンカーショットを直接叩き込むバーディーで今平選手を追い詰めた木下稜介選手も「今回のラフがこれまでで一番厳しかった」と告白していました。何故ここまで厳しくなったのでしょうか。それにはもちろん、やむを得ない事情がありました。

 今大会のコースセッティングコミッティのチェアマンを務める日本ゴルフ協会(JGA)の山中博史氏が、こう明かします。「僕らも正直言うと、ここまでのラフは予定してなかったんです。最後の刈り止めが9月の確か中旬過ぎだったのかな。野芝のラフって、大体9月の後半になると成長が止まるじゃないですか。ところが残暑と長雨が続いて、なかなかモア(芝刈り用の機械)が思ったように入れなかったんです。本当はもう1回か2回、頭を飛ばして120から150ミリというリクエストしていたんですけど、実際にはもう200ミリ近くなってしまった。我々の反省点としては、この刈止めのタイミングを見誤ってしまったという部分はあると思います」。

 JGAが公式会見の際に出した資料でも、フェアウエイが刈高10ミリ、ファーストカットが25ミリ、ラフは100ミリから150ミリと明記されていました。50ミリの誤差は、通常のセッティングでも最も難しいセッティングとなる日本オープンが、想定外ともいえる難度まで上がってしまったということ。ジョーンズ氏の指摘の根拠は、ここにあったというわけです。

選手の飛距離が飛躍的に伸びていることも影響

通称“幡地ネット” 写真:清流舎
通称“幡地ネット” 写真:清流舎

 今回、東京ゴルフ倶楽部でラフがシビアになった原因は、ここのところ出場選手の飛距離が飛躍的に伸びている事情もあります。「例えばこれでラフが短かったら2日間で15アンダーぐらい行っちゃっていると思うんです。それはやっぱり紙一重。ここで20アンダー出ちゃうんじゃないかって。みんな心配してたんです」(山中氏)。

 その根拠となっていたのが、現在JGTOのドライビングディスタンスランキング4位(307.4ヤード)の飛ばし屋、幡地隆寛選手のデータです。実は今大会に備え、早い段階からテストヒッターに練習場での試打とラウンドをさせるプランが浮上。幡地選手に白羽の矢が立ったというのです。

 その結果は、関係者に衝撃を与えるものでした。「もう毎ホールセカンドがピッチングウェッジか9番なんですよ。やっぱり選手たちのパワーやボールとかクラブの性能とか多くの理由があると思いますが、200ヤードぐらいは7番アイアンとかで打ってきちゃうんです。520ヤードぐらいのパー4もセカンドを8番とかで打つんですから」。(同)こうしてラフを厳しくし、ドライバーを容易に持てないようなセッティングになりました。

 さらには「練習場の右側に、スライスを打ってもらったら、9番ホールに出てしまった。それで最高到達地点の高さとかで計算して、9番ホールの右側にクレーンで吊った30メートルの高さの防球ネット3つを設置しました。左側も道路なので、こちらにもネットを設置しています」(同)と、練習場にも打球事故対策を講じることになったのです。

雨続きの裏で活躍した「サブエア」システム

「サブエア」システム 写真:清流舎
「サブエア」システム 写真:清流舎

 さらにグリーンの軟らかさも、ラフが長くなった理由の一つでした。「理想はグリーンが硬くできれば、ラフもそんなに伸ばす必要はないんですよ。今、コンパクション(※)で21ぐらいだと思うんですね。これが僕らの理想とする24ぐらいになると、やっぱりラフから打ったら止まらないけど、フェアウェイからなら止まるんです」。

 結局、コンパクション24は実現せず決勝ラウンドは2日間とも21.5どまり。理想の硬さは実現できなかったわけです。原因は開幕前の火曜日と水曜日に「70ミリの雨が降った」(関係者)こと。ただ、グリーンの速さは「12フィート4分の1」まで上がっていました。この裏で活躍していたのが、グリーンの地下に設置されていた「サブエア」システム(埋設された配管により土壌に空気を送り込んだり、余分な水分を排出したりするシステム)。

 この秘密兵器について解説してくれたのが東京ゴルフ倶楽部のグリーン委員長と理事も務める志村和也氏。「移動式のサブエアシステムを使いました。効果は大きかったですね。通常のグリーンキーパーが16人、近隣の日高カントリークラブなどから70人くらいは延べ人数で応援に来てくれていると思います」。

日照時間を考えれば夏至である6月21日あたりが理想だが……

一晩で伐採&撤去された17番の松の木 写真:清流舎
一晩で伐採&撤去された17番の松の木 写真:清流舎

 初日のスタート前には17番で松がバンカーに倒れるアクシデントも。こちらも懸命の作業で初日の深夜に撤去を完了させたと言います。画期的なシステムと人海戦術で、トーナメントの4日間を乗り切ったのは間違いありません。とはいえ、課題が残ったのも事実。各選手によれば、2日目の12ホール目あたりからコースは「渋滞」。ラフに入ったボール探しが、プレーの進行に大きく影響したからに他なりません。結局最終組のホールアウトは日没寸前。悪天候でもないのにあわやサスペンデッドというピンチの中で、何とか終了することができたわけです。

 これも秋分の日が過ぎてからの、日照時間が短い10月開催の弊害。出場選手120名は、ナショナルオープンのフィールドとしては小さいと言わざるを得ません。今年の実績で全米オープンも全英オープンも156人と、規模の違いは明らかです。それは各国のトーナメント事情を知る山中氏も感じている課題です。

「オープンだからやっぱり少なくとも144人ぐらいでは、やりたいですよね。本当は156人ぐらいでやりたいんだけど、そう考えると5月とか6月という日が長い時期になるでしょう。そうすると、今度はラフがあまり作れない。でもグリーンは硬くできるかもしれませんね。ただ6月も後半になっちゃうと梅雨になりますし。北海道もそういう気候になりかかっていますしね」と思案顔でした。

 日照時間を考えれば夏至である6月21日あたりが理想ですが、まさに梅雨真っただ中。また5月に「全米プロ」、6月は「全米オープン」、7月には「全英オープン」と確かにタイトなスケジュールです。しかしそれでも、コース整備や参加選手の問題をクリアできるのはこの時期。10月の日本オープン開催の是非を、真剣に考える時期にあるのかもしれません。

(※)コンパクション=グリーンの土壌の硬さを表す尺度で、数値が大きいほど硬いことを意味する。コンパクションメーターという土壌硬度計を使用して計測される。

取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。

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